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バラエティー風「シュレディンガーのネコ」梗概

最近のこのブログはややこしくなりすぎましたので、先日のブログに書きました「シュレディンガーのネコ」の実験をテレビのバラエティー番組風に構成した場合、どのようなことが起こるか、ということを考えてみることにいたします。

シュレディンガーのネコ、といいますのは、シュレディンガーが提唱した思考実験でして、観測問題と呼ばれる量子力学の難問の、一つの代表的な例なのですね。で、この問題に対する正解は未だ確定しておらず、物理学者の議論の的となっている問題でもあります。

実験の内容は簡単でして、放射性物質から出る放射線をガイガーカウンタがキャッチします。箱の中にはネコと毒ガス容器が入っており、ガイガーカウンターがなると毒ガスが放出されてネコは死んでしまう。で、箱の中が見えないとき、中のネコはどうなっているか、というのがこの問題です。

この問題に対する物理学者の見解は、大きなところで二つありまして、第一の説は、生きているネコと死んでいる猫が重なり合った状態にある、というコペンハーゲン解釈。第二の説は、猫が生きている世界とネコが死んでいる世界の二つに分裂するという多世界解釈がありまして、現在のところこの二つが主流なのですね。

こんな物理学上の難問なのですが、実験はいとも簡単。放射性物質と、ガイガーカウンターは大学の実験室から借りてくれば良いし、猫を毒ガスで殺すのは少々問題がありますので、ガイガーカウンターが10カウントした段階で、ネコに扮したタレントの頭の上にセットした、水の入った風船を割る、ということでどうでしょうか。

ゲストの物理学者数名と司会者は箱の中が見えない別室で議論していただく一方、箱の正面は透明になっており、スタジオの観客やテレビの前の人達にはネコの状態がリアルタイムでわかる、というわけです。

まず、登場人物ですが、総合司会には明石屋さんま氏あたりの軽いノリが売り物の大物タレントを当てることといたしましょう。当然、アシスタントとして見栄えの良い女性。まあ、女子アナか上戸彩あたりを起用するというところでしょう。

物理学者には、コペンハーゲン解釈をする人と、多世界解釈をする人にお出ましをいただいて、別室の議論を大いに盛り上げることといたしましょう。

番組の最初に、まず、シュレディンガーのネコの実験がどのような背景で提案されたかを簡単に解説いたします。

たとえば、超高感度カメラで星空を捕らえると、光子一つ一つの衝突を見ることができます。この映像をみたあとで、星から球面上に光が広がり、カメラに到達した瞬間にカメラに波が収束する様をアニメーションで示します。これが観測に伴う波束の収束、というわけです。

次に、シュレディンガーの墓に刻まれた波動方程式の映像や、デンマークのコペンハーゲン大学理論物理学研究所の映像がぜひとも欲しいところです。ここで、ボーアやハイゼンベルグの業績を簡単に紹介して、量子力学でいかに多くのノーベル賞受賞者を出しているかを強調します。つまり、それほど大変なことなのだ、というわけですね。

で、コペンハーゲン解釈に話が進み、シュレディンガーのネコの思考実験と、これに解する二つの解釈をアニメーションで紹介します。で、この実験は思考実験であり、かつて誰も行ったことがない、ということを強調します。「なお、この実験が行われていないのは、それがあまりにもばかばかしい実験であるからだ」なんてナレーションが入ると、ちょっと面白いかも知れませんね。

映像はスタジオに切り替わり、総合司会がおもむろに宣言いたします。「それでは実際に行ってみることにいたします。世界初、シュレディンガーのネコの実験」。スタジオの観客からは「え、え~!!」という叫びが上がります。

「先生、この実験に危険はないのでしょうか。世界が分裂する、とか、恐ろしいことを言われてましたが」総合司会の質問に、物理学者が答えます。「観測とともに収束しますので、まず、大丈夫だと思います」など、ここで安全性に関する物理学者のお墨付きが得られるはずです。

ここで、ネコが登場します。つまり、ネコの着ぐるみを着たタレントが登場します。そしてアシスタントが実験装置の説明をします。白衣を着た物理学教室の助手が、放射性物質やガイガーカウンターをセットします。

ここで10カウントで風船を割ることにいたしました理由は、風船の割れる確率を50%とした場合、制限時間(たとえば3分間)終了時点でのカウントが10に近い数字となることが予想され、場が盛り上がることが期待されるからですね。

で、スタートボタンを押して、総合司会と物理学者は別室に移動します。そこで、一人の物理学者は「今ネコは生死の重なった状態にある」と言います。別の物理学者は「猫の生きている世界と死んでいる世界に分裂した」と言います。総合司会は「で、今われわれのいる世界はどっちなのですか?」などと質問をするのですが、「それはわかりません」などとかわされてしまうのですね。

画面の隅には、スタジオの映像が出ておりまして、カウントが上がるとその数字が大写しになり、ネコの顔がズームアップされます。3分間スタジオが大いに盛り上がった後、タイマーが止まり、総合司会と物理学者は再びスタジオに姿を現します。そこで、彼らにとっての観測が行われ、波束が収束する、というわけです。

「で、この実験をどのように解釈されますか?」との総合司会の質問に対し、物理学者は「波束が収束した」とか、「一方の世界にわれわれは残った」などというのですが、アシスタントはポツリ、と呟くのですね。「ただ知らなかっただけ、じゃないの?」 これを指して、総合司会が「ノーベル賞!」と叫んだところで、この番組は終了します。

この実験で面白いのは、普段は神の視座で物事を考える物理学者が、神の視座をテレビの視聴者やスタジオの観客に譲る、という点でして、そうなりますと物理学者は神の視座を失い、無知ともなりえる、ということが証明されるわけです。

これは物理学者にとっては我慢のならない事態かも知れませんが、それが現実の世界であるように、私は思うのですね。

あ、で、ネコに扮したタレントはどうなるか、ですって? 彼女が水をかぶる確率は50%。結局どちらに転ぶかは、私にもわかりません。