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「ウェブ進化論」を読む

昨年一番売れた本は、「国家の品格」だそうですが、もう一つのベストセラー、梅田望夫著「ウェブ進化論 ― 本当の大変化はこれから始まる」は、本ブログのテーマに則しており、流行モノ嫌いの私でも、これは無視するわけにはいかないか、と年末年始の暇にあかせて読むことにいたしました。

1. まともな世界にもなりえるネット

まず、現在のネットの世界は、正体不明の怪しげな人たちが跋扈する世界なのですが、まともな世界にもなりえるだろう、と梅田氏は説きます。そしてリナックスなどの、ユーザが発展させる無料ソフトウエア、「オープンソース」の現状を紹介し、これは産業革命以上の変化ではないか、と指摘するのですね。

ついで、グーグルアマゾン、ブログなどの具体例に触れ、「ロングテール」というおなじみの概念を紹介します。これ、売上のトータルで見ると、売れ筋商品以外の、雑多な商品の比率も無視できず、ネットによってこれら雑多な商品を扱うビジネスが成り立つようになった、というわけです。

最後に、ウィキペディアや、著者の関係する「はてな」に触れ、文化的変化が生じていることを紹介する、というわけで、全体を通しまして、私のネットに対する見方に非常に近い、ある意味勇気付けられる書物ではあります。

2. ネットはなぜ怪しげな世界になったか

まあ、良い書物ではあるのですが、ここでその内容を、くどくど、と紹介しても始まりません。本に書かれた内容に興味のある方には、本を読んでいただくことといたしまして、ここでは付加的な情報について、ご紹介しておきましょう。

まず、ネットの世界が、正体不明の、怪しげな世界になっている、この現状なのですが、これは必ずしもネット本来の特性によるものではありません。

確かに、ネットは、向こう側の人の姿が見えない、という特徴があるのですが、これは手紙や電話でも同じこと。落書きや怪文書は、ネットが誕生する以前から存在したのですね。

ネットの情報伝達は、インターネット・プロトコル(IP)という様式によって行われるのですが、このプロトコル、実は発信者が特定できるようになっています。これは、怪文書の出所がわからず、電話は逆探知という手段があるものの、相当に大変であることに比べると、ネットは相手の正体が分かりやすい、というのが、実は、技術的な特徴であるわけです。

しかし現実には、正体不明のメッセージが大量に流通している。これにはいくつかの、社会的理由があります。

第一に、発信者の偽装、ということが技術的に可能でして、インターネットがサイトからサイトへと、バケツリレー的にメッセージを送ることから、悪意のあるサイト管理者なり、その権限を不正に入手した者なら、偽のメッセージを紛れ込ませることができます。

これらの悪意がある、あるいは管理が正常に行われていないサイト、というのは、比較的容易に割り出すことができまして、そういうサイトからのメッセージをブロックすることも、少々手間のかかることではあるのですが、技術的に可能です。例えば2チャンネルのBBQなどがその手の試みではあります。

第二には、サービスを提供する側が匿名性を作り出す、という実情があります。これは、自らの正体が見えなければ、気楽にメッセージを送ることができ、場が盛り上がる、という効果はもちろんあるのですが、悪質なメッセージも気楽に送れる、ということにもなり、アラシ、宣伝の山が出来上がる、ということにもなるのですね。

この手の匿名的サービス、初期の大規模なサービスがマイクロソフトのホットメイルでして、このサービスが始まった当初、迷惑な宣伝でありますスパムのかなりの部分がホットメイル経由で送られていたものです。

今日では、ほとんどのサービス業者がこの手のメイルサービスを行っており、いつでも好きなときに好きな匿名メイルアカウントを手に入れることができるのですね。

3. 正体が見えている「匿名」ユーザ

とはいいましても、この「匿名」、ユーザーにとっては匿名なのですが、サービスを提供する側には丸見え。つまり、情報の非対称性、がそこにあります。なにぶん、ネット経由で接続しているのですから、ホスト側にはIPアドレスが見えていますし、どのプロバイダ経由で接続しているかもわかります。

例えば、ここ(このリンクは2チャンネルの悪質サイト排除用チェッカーでしたが、現在はリンク切れとなっております)をクリック。これは、2チャンネルの悪質サイト排除用のチェッカーですが、これをクリックして表示される情報は、サービス提供側で知ることができまして、サービスプロバイダの協力が得られれば、最数的にユーザを特定することも不可能ではありません。

さらに、ホストの管理者は、メッセージの内容を全て読むことが可能で、その内容そのものを利用することには問題があるとしても、内容を機械的に分析した結果を利用することは可能なのですね。

と、いうことは、サービス提供業者がその気になれば、ネットの正常化は比較的容易に行うことができる、ということで、ネットの現状が少々怪しげな状態に保たれていることは、サービスの提供者側にも問題がある、ということがいえそうです。

4. ネットを正常化する

例えば、迷惑メイルの削除にしても、現在は、送信者やメイルに含まれるキーワードでブロックすることが主流なのですが、送信サイトでブロックしてしまえば、スパムを大量に送り出している管理の緩いサイトを排除することができる、というものです。まあ、自らの管理に自信がなければ、こういうことはし難いと思いますが。

迷惑サイトの排除に躍起となっております2チャンネルも、開始当初は、ある種の無政府状態を指向したものでした。しかし、最終的にはユーザに情報を開示し、ユーザの協力の元で正常な運営を図る、「自治」、という観点が生まれているのですね。

このようなあり方は、ネットでのコミュニケーションが開始された当初、大きな比重を占めておりましたネット上の掲示板、USENETのあり方そのものでして、歴史は繰り返す、といいますか、インターネットがその発展の初期に理想とした姿に、徐々に近づいている、との印象を受ける次第です。

2007年がWeb2.0の発展する年、つまりは、ネット正常化の年となると良いのですが、、、