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村の住民と思しき池田信夫氏の発言について

前回のブログで、「マインドコントロールが我が国の言論界にまで拡大しているといたしますと、これは非常に危険な状況であるように私には思われます」等と書いたのですが、この言論人の一人が池田信夫氏でして、最近のアゴラ記事にもいろいろと不正確なことを書かれております。(以下、緑の部分が池田氏の記事からの引用です。)

まず、「福島事故については、著者は「悲観的な予測」として、癌による死者が最大100人ぐらい増えるだろうと予測している。これは22000人が220mSvも被曝したという想定によるものだが、このデータは間違いだ。中川恵一氏によれば被災者の実効線量は最大でも数mSvで、死者は1人も増えない」ですが、これは原発作業員についての議論ではないでしょうか?

普通に考えれば220mSVという数字は原発関連の作業員に関する数値であって、これほどの被ばくを一般住民が受けることは少々考えにくいように思われます。もしそうであるとすれば、「間違いだ」との主張は間違いであるということになります。

原発作業員の被ばく限度は250mSVとされており、既にこの限界を超過した人も現れております(たとえばここを参照。)さらに、線量計を付けずに作業している人たちの存在が確認されており、実際の作業員の被ばく量はさらに多いのではなかろうか、とみられております。

核廃棄物を地層処分する技術は確立しており、政治家や大衆がそれを理解していないだけだ。特に恐れられているプルトニウムは、水に溶けないので地下水に漏れ出しても害はない。それ以外の核廃棄物も、100年後にはほぼ無害になる。

これは本当でしょうか? それならそうで、池田氏を筆頭とする評論家がまずすべきことは核廃棄物の処理方法が既に確立していることを政治家や大衆にわかり易く説明することではないでしょうか?

そもそも「プルトニウムは、水に溶けないので地下水に漏れ出しても害はない」というのは正しい認識でしょうか? 確かに金属プルトニウムは水に溶けないのですが、一般的にはプルトニウムは化合物の形で存在し、水に溶解するものもあれば、溶解しないものもあります。また、核廃棄物にはプルトニウム以外にも種々の元素が含まれており、プルトニウムだけを取り出して議論しても意味がありません。埋設処理に際しては、いずれの手法をとるにせよ、地下水の汚染を防ぐことは必須です。

それから、「100年後にはほぼ無害になる」とおっしゃりますが、半減期が何年だかご存知でしょうか? ちなみにセシウム137の半減期は30年でして、100年たてば一桁減少するのですが、それでほぼ無害等と言えるのでしょうか? まあ、プルトニウムの半減期は言わない方が良さそうですが、、、(実は、プルトニウム239の半減期は24,000年。池田氏は100年と100万年をお間違いになっているように私には思われます。)

この種の問題を論じるとき、「リスクの値がわからないときは最大だと想定して防護する」という予防原則なる言葉を使う人がいるが、そんな原則は環境政策で認められていない。そんな原則に従ったら、世の中の化学製品のほとんどは使用禁止になるだろう。

化学物質に関しては、安全性やリスクが確認された物質以外は「新規化学物質」として、安全性が確認されているもの以外は危険であるとして取り扱われております。私は化学会社で化学実験もかなりの期間にわたって行ってきましたが、そのように扱わなければ命がいくつあっても足りませんし、化学会社などはあっという間に倒産してしまいます。

だいたい、リスクのわからないものを環境に放出してもかまわないと池田氏はお考えなのでしょうか? PCBやDDTなど、過去に幾度も過ちを繰り返してきたのですが、これらからの教訓はどのようにお考えなのでしょうか?

エネルギー政策を「原発比率」に矮小化し、それを「世論調査」で決めるなんて、ナンセンスもいいところだ。上のような事実を理解している一般大衆がどれぐらいいるのか。政治家でさえ森ゆうこ氏のような程度で「エネルギーの専門家」を自称しているのだから、こうした科学的事実を踏まえ、経済的バランスを考えて専門家が判断すべきだ。政治家や国民は、その結論について判断すればよい。

ま、これが池田氏の基本的な思想であるとはおおよそ思っておりました。依らしむべし、知らしむべからずなのですね。これで事が済むのは専門家の判断があてになる場合なのですが、これが全然あてにならないと国民が思い始めますと、こんな構図はもろくも崩壊してしまいます。これが現在の我が国で生じている事態であるわけで、まずは当事者、規制当局、アカデミズムなど等の「専門家」が国民の信頼を取り戻すこと、これが(少なくとも原発を用いる形で)我が国のエネルギー問題を解決する唯一の道であると、私は考えている次第です。

とはいえ、化学に関して素人同然の池田氏の言動に、いちいち指摘するのも馬鹿馬鹿しいという気も致します。科学的知識ゼロの素人がわかったような口をきくのがいかにみっともないことか、自称リベラルの言動に眉をひそめている池田氏なら大いにお分かりのことではなかろうか、と私などは思ってしまうのですが、、、