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トランプ大統領下の米国経済と日本

ビジネスジャーナルにトランプ大統領下の米国経済に関する予測記事が出ております。ビジネスジャーナルといえば、怪しげな健康記事やタレントのゴシップが多いのですが、この記事はかなり良いところを突いているように思えます。そこで、これを参考に、本日は私なりの予測をしてみたいと思います。

さびのベルトの星:トランプ氏

まず、トランプ氏が「さびのベルトRust Belt)」と呼ばれる米国の重厚長大産業に従事する人々の支持を得て当選しており、これらの産業重視の経済政策を取るであろうと、この記事は予測しております。その一方で、情報産業などのハイテク分野には、さほどの配慮も払われておりません。特にこれらのハイテク産業は、海外から流入した技術者に支えられているという現状もあり、移民を制限する政策は、ハイテク産業の足を引っ張ることにもなりかねません。

しかしながら、米国の重厚長大産業がすでに国際競争力を失っていること、今日の米国経済がGoogle、Apple、Amazonなどのハイテク産業の躍進に支えられていること、などの事実から、このような政策は米国の国際競争力を損ね、長い目で見たときの米国の経済成長を阻害する政策であると言わざるを得ません。

何故にこんな政策を採用するのか、これはある意味、不思議なことではあります。

なぜ自国を損ねる政策が選ばれるか

しかしながら、弱い産業を保護する一方で強い産業には冷淡になるという政治のあり方は、我が国でも同様にみられる現象であり、日本においても弱い農業を手厚く保護する一方で、強い産業は結果的に被害を受けている、つまりは、自由貿易を受け入れないという声が強いのですね。

これは、国内の弱い産業がそのままでは疲弊するがゆえに、政治的な対策を必要とする。また、弱い産業に従事している有権者数が無視できない程度に多い。その結果、弱い産業を保護し、強い産業には冷淡になるという、一国の経済政策のあり方としては、非常に奇妙な姿になってしまうメカニズムが働くのでしょう。

ならば、弱い産業を切り捨て強い産業を強化すればよい、というのは、言うは易く行うは難しです。それは、理想論ではあるでしょうけど、現実的な解ではありません。

トランプ時代に日本の生きる道

一方で、米国の経済政策の変化は、日本の産業界も、あるいは経済政策を担当する行政も、ある程度の対応が迫られることも事実でしょう。そこで、ここではいくつかの点について考察しておくことといたします。

まず第一に、重厚長大産業の対米輸出は阻害される方向であると考えなくてはいけません。でも、これが意味するところは、米国市場において米国のこれら関連企業が競争力を増すという意味であり、これらの企業が国際競争力をつけるということではありません。むしろ米国の重厚長大産業は、有利な国内市場があるがゆえに、国際競争力を高める努力は怠るであろう、とも予想されます。

ならば、我が国の重厚長大産業の目指す道は、米国以外の市場に生きる道を求めなくてはいけない、ということ。世界は広く、米国以外にも大きな市場があるわけですから、そちらに目標を変える、これがまず第一になすべきことなのでしょう。

トヨタがインド市場に強い鈴木を取り込もうとしていることなど、まさにこの方向にマッチしております。米国市場に対しても営業努力を続けることは必要でしょう。しかし主力はその他の国を狙う、これが我が国の輸出産業の生きる道であると私は考えております。

第二に、米国のハイテク産業に多少のブレーキが掛けられるということは、他の国にとりまして大いなるチャンスとなるでしょう。

我が国の一つの問題は、経済界と行政の緊密な連携はあるものの、これら新興産業に対して経済界に十分な取り込みがなされておらず、その結果、行政の対応も十分ではない点があげられるでしょう。

既存の経済団体が新興産業に対して冷淡であることは、民間の団体なのですから、これは致し方のないことではあります。新興産業のサイドも、余計なことは言われなくとも自力で戦うと考えていても不思議ではありません。ならば、行政の側からの何らかのアプローチが必要であるようにも思います。これはなかなか難しそうではありますが、新興産業が大いに伸びる環境を整えることは、日本経済の今後の発展のために、大いに役立つことでしょう。

日本のハイテク産業振興に向けて

一つの可能性は、米国のハイテク産業が何故に成功を収めたかを分析すること。おそらくは、海外からの技術者の流入と、新たな産業を興す際の規制が弱いこと、そしてこれら産業への潤沢な資金供給が、その主要な原因でしょう。ならば、我が国がこれらの条件を整えていけば、世界のハイテク産業がトランプの米国から我が国へと中心を移すことだって、あり得ないことではありません。

つまりは、高度な技術を持つ人材の流入を加速すること、このための行政手続きの簡素化と、生活環境を整えること、情報産業への規制を緩和して新しい産業が迅速に事業を展開することを可能とすること、起業への投資を優遇する方向に税制を改めること、たとえば創業者利益は無税とすることなど、これを新興企業に投資する人々にも適用して、新たな産業に資金が集まりやすくすることなど、制度面でできることも多々あります。

まあ、我が国がハイテク産業の世界の中心になるなどといえば、これは少々言い過ぎであるかもしれません。でも、その方向に動くことは、日本経済にとって大いにプラスであると私は考えております。それは、新興産業に関わる企業にとってだけではなく、新たな雇用を生み出し、新たな消費を生み出すことで、日本経済全般にも大きな利益をもたらすはずです。

トランプ大統領が米国民に良いことをすれば米国経済は劣化する。この矛盾した動きをするのが経済というものです。日本もその例外ではないのですが、トランプ大統領誕生という大きな時代の変化をとらえて我が国が多少の軌道修正をおこなえば、この異変は、我が国にとりましてまたとないチャンスにもなりそうである、このビジネスジャーナルの記事を読んで、そんなことをつらつらと考えた次第です。