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低下したように見える米・北朝鮮軍事衝突リスク

先日、「あるのか、ないのか、北朝鮮への軍事攻撃」と題して、米国と北朝鮮の軍事衝突リスクについて論じましたが、本日の段階では、このリスクは多少低下しているように思われます。

まず、この時点で米国が北朝鮮への攻撃に踏み切る一つの理由といたしまして、当初はTHAADの韓国への配備が4月中に完了するとみられていたことがあげられます。4月11日の段階で北朝鮮のミサイルに対する迎撃準備が完了した旨を米政府がオーストラリアに通告したことから、この時点でTHAADの実戦配備が完了したものと思われました。

THAADに関しては、5月9日に行われる韓国大統領選挙で最大支持率を得ている文候補が、THAADの撤去を求めていたことから、THAADを有効に使おうと考えれば、これまでの間に攻撃を行わなければならないという事情もあったのですね。

ところが本日流れたニュースでは、ホワイトハウス当局者は「THAAD配備完了は5月の大統領選挙前は難しいという趣旨の発言」を行っております。THAADが使えないのであれば、この時点で攻撃に踏み切る理由は一つなくなります。

更に、文候補は最近、「北朝鮮が核による挑発を続けるなら、THAAD配備は避けられないかもしれない」と発言しており、大統領選挙後のTHAAD運用にも含みを持たせております。(あるいはこの発言を受けて、米国はTHAAD配備を遅らせたのかもしれませんね。単なる手続き的、あるいは技術的な理由なのかもしれませんが。)

もう一つは、先日の北朝鮮のミサイル実験に対して米国は、失敗した実験に対しては動く必要なしとしております。これは、一つの柔軟化の兆しともいえるでしょう。

米国がこの時点での軍事作戦をためらう一つの理由として考えられることは、日韓の損失に対して配慮を示した可能性もありますが、中国が北朝鮮の核・ミサイル技術開発阻止に関して何らかの有効な手を打つと期待された可能性があります。

後者に関して、中国が仲立ちをして米朝会談を実現させる可能性はあるでしょう。その場合、交渉に先立って合意案が交わされ、北朝鮮が核・ミサイル開発を中止することと引き換えに、米国は金正恩政権を認めて北朝鮮に手を出さないことを表明することもあり得るでしょう。

シリアをソ連に任せたように、北朝鮮は中国の指導に委ねる、というわけですね。もちろん、シリアが化学兵器を使えば爆撃するように、北朝鮮が核・ミサイル開発をおこなえばそれなりの攻撃をするオプションは残して、の話なのでしょうが。

北朝鮮の合意順守を確実なものとするための査察などの条件もきちんと定めておく必要があるのですが、少なくともトランプ氏にとっては、北朝鮮国内の人権侵害などは配慮の対象外であり、米国が北朝鮮の核ミサイルの脅威に晒されなければそれでよしと考えることは十分にありえます。なにぶんトランプ氏はオバマ氏やクリントン氏と異なり、人権や環境といった理想を追うよりも、米国人の日々の暮らしを重視する方ですので。

一方の北朝鮮にしてみれば、米朝の二国間交渉はかねてからの要求であり、その実現だけでも大きな成果と言えます。もちろん、金正恩が人道に対する罪に問われることなどは受け入れることができず、最低限でも金正恩体制の存続を認めさせることは前提条件でしょう。そしてこれさえできれば、核ミサイルくらい放棄したところで、大成功と言えるでしょう。そして何より、金正恩がここで我を通すことは、彼にとって自殺行為であることも重々承知しているはずで、自らが生きながらえることができるなら、これに勝る道はないでしょう。

THAADに関しては、北朝鮮が長距離ミサイルを保有しないのであれば、米国は韓国にTHAADを配備する必要がなくなります。韓国からTHAADを撤去することは、中国にとって非常にうれしい話であり、トランプ氏がこのような提案を中国に対して行えば、中国はこの方向で話をまとめるべく全力をあげて北朝鮮を説得しようとすることもあり得るでしょう。

そう考えますと、ここで半島問題が平和裏に解決される可能性も、かなり高いようにも思われます。そして、かりにそうなったとしても、空母を三隻も半島沖に派遣したことが空振りにおわったということにもなりません。最初に大いに圧力をかける、これがトランプ流の交渉術ですから。そして、北朝鮮の核放棄が実現すれば、これはトランプ氏にとっても大きな勝利となるでしょう。

ともあれ、本日までの最新情報では、平和的に事が済む可能性が多少増加したように思われます。ただし、これはあくまで、北朝鮮が核実験を行わない場合であって、もしも今月中にも核実験が行われれば、米国は躊躇なく北朝鮮攻撃に踏み切るのではないでしょうか。

まだまだどうなるかはわかりませんが、当面は日韓の大きな犠牲を払わずに済むかもしれないということは、多少ではありますが、良いニュースといえるかもしれません。


4/18追記:ブルームバーグが今朝伝えたところによりますと、「米国務省高官は17日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長に核兵器開発計画を断念させるよう中国が圧力を加える明るい兆しが見られるが、トランプ政権は単独ないし同盟国と連携した軍事行動をなお選択肢としていると述べた」とのことです。およそ、このエントリーで分析した筋書きでことは展開している様子です。

まだまだ予断は許しませんが、多少は安心して事態を見守ることができそうです。


その後の動きです。