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吾妻ひでお著「失踪日記」を読む

吾妻ひでおさんが亡くなられたとのこと。この記事は、長らく書きかけでしたけど、急遽書き足して公開することといたします。

はじめに

青山ブックセンターには、意識の高い人向けの書物が多く置かれているのですが、お店に入って右側、店長一押しの書物が置かれていると思しきコーナーに山積みとなっておりましたのが吾妻ひでお氏の「失踪日記」でした。

吾妻ひでお氏といえば、意識の低いオタク向けであるはずのえっちな美少女漫画を得意とする方であったはず。この落差はすごいと、俄然、同書に興味を惹かれました。

10/31追記:しかしこのアマゾンのリンク、ひどいですね。新品の紙の本を定価の倍近い値段で販売している。本は再販指定商品だから、新品は定価で売らないといけないと思うのですが、高く売る分には良いのでしょうか?

失踪日記のアマゾン画面

まあ、自社内で古書部門に売り飛ばせばよいのだが、それなら、古書として売らなくてはいけないような気がいたします。

むむっ、そういうことなら、新品の書籍を古書という名目にすれば、値下げ販売することもできますね。これ、再販制度に穴をあける行為であるように見えるのだが、、、

業界団体が出しております再販契約の手引きをみますと、再販制度は契約によるものであり、契約のテンプレートは価格の維持を義務付ける形ですから、通常の契約では値上げ販売はOKとなるように読めますね。

これ、ちょっとひどい話ではありますが、古書の価格が新品価格を上回ったら、せどりの人が新品を即刻買って古書店に売り飛ばすわけで(あるいは古書店が街の書店から仕入れればよいわけで)、その利益を書店側がとるだけの話と考えれば、一般の読者に特段の不利益があるとも言い難く、ここは受け入れるしかなさそうです。

しかし、ABCに平積みになっていた、あの失踪日記、いったいいくらで販売しているのだろうか、、、もうとっくに売り切れているような予感も致しますが、、、さすがに街の書店は定価で販売しそうな気がするし、、、

11/2追記:Amazonの紙の本の売値は元に戻っております。在庫状況も「在庫あり」となっており、おそらく、増刷がおこなわれたのではないでしょうか。

後にリンクしております「やけくそ天使」に関しては、おそらくコレクターの所蔵している新品は依然として高価ですが、中古が300円に戻っております。吾妻ひでお氏のコミックバブルは、もはやこれまで、といったところでしょうか。

11/8追記:やけくそ天使の1と2もAmazonで新品が販売されるようになりました。こちらも増刷をした、ということでしょう。当然といえば当然の成り行きです。

11/9追記:やけくそ天使の3も新品在庫ありになりました。増刷、素早いですね。確かにこの手の話題は足が速いですから、もたもたしてたら商機を逃してしまいます。ここは、香典代わりに何冊か買っておきましょうか。

同書の内容

この本は本文3章構成で、巻末に、吾妻ひでお氏の大ファンであります漫画家、とり・みきさんとの対談が収録されています。本文の内容は以下の通りです。

夜を歩く:漫画家の仕事に行き詰まり、失踪してホームレスになるというお話。ホームレスとして生きるノウハウ満載で、ホームレスになる予定の方には必読書といえるでしょう。

で、最後のシーンが下のものなんですけど、警察官がこんなことをしていてよいのでしょうか。まあ、ほほえましい話題といえば、そういえなくもないのですが、、、うらやましすぎる。なお、巻末のとり・みき氏との対談で、このエピソードは事実であることが明かされています。

警官に萌え絵を

街を歩く:再びホームレスとなった吾妻ひでお氏、アル中の上森さん(仮名)にスカウトされて配管工として働くことになります。仕事と住居を提供され、力仕事をしばらく続けるのですが、いずれはまた漫画の道に復帰します。

ところがこれが、同時に、アル中への道でもあったのですね。

ここで紹介されている、過去の作品に対する一言が面白い。

ちょっとだけまじめに書いたのは「プリンセス」エッチなし

「やけくそ天使」わりとふっきれた

「ちびママちゃん」主人公気に入ってた

やけくそ天使は、私もリアルタイムで読みましたけど、結構面白かったです。少々やばい感じも受けましたが、、、 雰囲気が分かりますよう、表紙画像を以下に紹介しておきます。画像クリックで購入可能です。まあ、三冊セットがお徳用、と書こうと思ったのですが、こちらの画像が全く色気のないもので、やむなく、個々のコミック本へのリンクを掲げております。(三冊セットは現在取り扱いを中止しています。)

(今見たら、売り切れのものが多いですけど、亡くなられたからでしょうか? やけくそ天使など、増刷されそうな気がいたしますが、どうなりますか、、、せどりの方にはねらい目かもしれませんね。

上で述べましたように、11/8現在で1と2、11/9現在で3まで、すでに新品が販売されております。以下の画像リンクからも入手可能です。)

   

その後次々と美少女キャラが登場するちょっと(相当に?)えっちな漫画を描き続け、結構売れるのですが、気がつけば、アル中病棟への道をまっしぐらに突き進んでおりました。

ここで紹介されている漫画制作の裏話は、漫画文化論を研究しようという人たちの参考になるかもしれません。

アル中病棟:文字通り、アル中病棟に入院した時の体験話。お酒がまずくなりますので、普通にお酒を飲んで楽しんでいる人は、この章だけは、読まない方が良いかもしれません。まあ、気合で何とかなりますが、、、

同書の位置づけ

同書が、意識の高い人向けの書物に力を入れている青山ブックセンター(ABC)に平積みになっていた理由について、少し考えてしまいました。

吾妻ひでおといえば、かなりエッチな美少女漫画を描く人で、どちらかといえばオタク好み、意識の低い人向けの漫画を描いておられたのですね。で、これはおかしいとばかりに同書を手に取り、近所のコーヒー店三十間で読み始めた次第。

まあ、おおよそのところはすぐに理解しました。これ、プロレタリア芸術なんだ!

つまりは、蟹工船のような、労働者の直面する厳しい現実を描いた作品で、ホームレスは労働者とはいいがたいですが、貧しい人が直面する厳しい現実であることに違いはないし、配管工の暮らしを描いた部分など、まさにプロレタリア文学そのものであるといえるでしょう。

そして、漫画家という職業が、これに輪をかけてブラックな職場であるのはご愛敬なのですが。

だから、リベラルを僭称する左翼崩れの系譜に連なる(ないしはその予備軍である)今日の意識の高い人たちに、この手の書物が受けると考えるのは、ABCもなかなかの慧眼であるともいえます。

今の日本でプロレタリア芸術といえば、スタジオジブリの作品の多くがそうであるのかもしれませんね。この一群の作品は、そういう目で見ますと、労働の現場が、その厳しさとともにちょくちょく表現されております。

とはいえ、プロレタリア芸術に今日的な意味があるかどうかは、はなはだ疑問です。確かにワーキングプアなどが今日でも問題になっておりますが、これにプロレタリア文学で対応しても詮無い話です。

この手の作品には、あまり政治性を考えずに接するのが良いかと思いますし、そういう意味では、吾妻ひでお氏の失踪日記を意識の高い人向けに売り込むのもどうかなぁ、と思いました次第です。

おわりに

このエントリーは少し以前に書き始めたものですが、他のエントリーを先に書きましたことで、しばらくお蔵入りとなっておりました。

本日、吾妻ひでお氏の訃報に接し、いつまでも出さないわけにもいかぬと、急遽公開に踏み切った次第です。内容があまり充実しておりませんが、諸般の事情もありますこともご理解いただき、お許しいただきたいと思います。

最後になりましたが、吾妻ひでお氏のご冥福をお祈りいたします。