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内部留保の会計学

池田信夫氏の6/1付けアゴラ(こども版)記事「内部留保って何?(アーカイブ記事)」にコメントしました。以下、アゴラに付けましたコメントと、追加のコメントを記します。


なんか、間違い探しみたいなエントリーですけど、子供版だからよい、ということでしょうか? 基本的に、貸方と借方がごっちゃになっております。

Q1:よくできました。

Q2:「あとの90億円が利益剰余金」本当ですか? 負債かもしれないし、資本金かもしれませんよ。

Q3:利益余剰金の処分は、必ずしも総資産の減少を意味せず、負債が増えたり、資本が増えたりすることもあり得ます。その場合は、資産の増減は生じないのですね。

Q4:賃金を上げれば、利益が減少し、利益余剰金が圧縮されて内部留保は減少します。

Q5以降は宿題ということにしておきます。


アゴラへのコメントは以上ですけど、Q5、Q6も少々おかしいですね。

Q5:「内部留保(利益準備金)は負債の内訳なので、借金に課税することはありえません」ですけど、内部留保は資本(株主の持ち分)であって借金ではありません。資本に対して課税することは「外形標準課税」の一形態としてあり得るのですね。

Q6:法人税が二重課税になるのは、個人の配当収入が(法人税支払い後の利益処分である配当からさらに所得税が徴収されるという意味で)二重課税になるという意味です。一方、企業が得る配当収入は益金不算入により課税対象外となっております。

では、個人の配当収入を無税とすればよいかといいますと、これも現実的には難しい。個人の配当収入は税率一定の分離課税でなされ、累進課税税率の高い高所得者層に対しては、配当に対して低い税率が適用されております。ただでさえ低い税率の配当所得を非課税とすることは、国民の理解を得にくいと思われます。

現実的にあり得る制度としては、企業利益のうち、配当に回した部分を損金算入することが妥当です。借入金に対する金利は経費ですから、資本金に対する配当も同様に扱うことは、さしておかしな話でもないのですね。

この場合、配当として出る段階が非課税となりますことから、法人の配当収入は益金不算入とはせずに、課税所得に含めます。これは、プラスマイナスが同じであるように見えますが、配当に回した分の企業利益が非課税扱いとなりますことから、企業が配当性向を高め、その結果株価が上昇するという効果も期待できそうです。

一方、税率が低いと非難を浴びがちな個人の配当収入に対しては、給与所得と合算して総合課税とすることが、もっとも公平なやり方であるように思われます。そもそも、マイナンバー制度は、金融資産収入に対する総合課税のための一里塚であったと理解しているのですが。

なお、内部留保に対する課税が外形標準課税という形で行われる場合は、そもそも法人の利益に対する課税ですらないわけですから、これを二重課税や三重課税と呼ぶことは妥当ではありません。

Q7以降は、いろいろな考え方があるということで、その一つとしてありえなくはないと言えそうです。


以下は6/2の追記です。Q7以降に対する私なりの回答をご紹介します。これは、多数あり得る回答の内の一つであり、他が間違っているというわけではありません。

基本的な問題は、我が国には投資機会がないため、稼いだお金が使い道のないままに積みあがる。配当という形で株主に還元する手はあるのだが、一方で、資金が必要な際に銀行がどこまで貸してくれるかわからない。昔は、企業の株式を銀行が保有する株式持ち合いが広く行われており、銀行を中心とする企業集団が形成されていたのだが、金融危機の頃にこの体制が崩れてしまっているのですね。

で、投資機会がなぜないか。情報革命でビジネスのスタイルを変えていかなければいけないという時代背景がある一方で、我が国の企業はこれに対応できない。そういうことをする人材が我が国の企業には不足しているのですね。

企業は働かないおじさんを抱える一方、優秀な人材を腐らせている。情報技術を応用したビジネスフローの改善もそうなのですが、優秀な人材が新しいビジネスを始めるということがなかなか行われない。その結果、投資機会も生まれないのですね。

資金を無駄に積み上げるのは、それが消えてしまうわけではないし、いざという時の備えでもありますから、さほどの無駄でもないのですが、優秀な人材に何もさせなければ、その能力は無駄に失われてしまう。この損失は、目には見えないけれど、何もしない期間のマン・アワーは消えてなくなるわけだし、優秀な人材のマン・アワーの潜在的価値は非常に高かったのですね。(このあたりの事情は、別エントリーの中でもご紹介しております。)

とはいえ、ここまでの回答は、内部留保についての議論としては、発展のし過ぎかもしれません。これもまた、一つの意見として受け取っていただくのがよさそうです。


6/3追記:完全な自由競争が成り立っている世界を仮定して、企業がなぜ投資により利益を得ることができるか、ということを考えますと、結局のところ、他が保有していない特別な何かをその企業が保有していることに帰着します。

その「特別な何か」は、古くは農地や山林や鉱山や漁業権といった生産手段であったのですが、今日では技術、ノウハウ、情報といったものの比重が高まっている。そしてこれらを生み出す技術者をいかに使いこなすかが勝負ということになるわけですね。

この点で我が国が大きな問題を抱えているということを、別のエントリーで解説しております。こちらもご参照いただけば、何故に我が国の企業が投資機会を失い、内部留保をいたずらに増大させているのか、よくご理解いただけるのではないかと思います。

2 thoughts on “内部留保の会計学

    1. Yuzo Seo

      > そろそろ締め出されそうやな。

      アゴラに関しては、締め出されることを気にせずやろうと考えております。

      元々アゴラはそういう場という認識ですから。

      私は経営学の修士課程で、いくつかの会計関連単位も取得しているのですが、そこで学んだ知識に照らして、池田信夫氏の主張は相当におかしいのですね。

      これで単純にブロックなど致しますと、その程度の人という評価になってしまう。会計の専門家の意見を聞けば、おそらくは、私の意見が正しいと言ってくれるはずです。

      まあ、BLOGOSなきあと、アゴラにはチャンスであるわけで、まともな言論の場を追求して高い利益を得ようというインセンティブも働いているはず。こちらに賭けてみるのも、ちょっと面白いのではないでしょうか。

      外しても失うものはないし、、、

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