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どうしたことでしょう。「涼宮ハルヒの分裂」を読む

ガモフらがビッグバン仮説を発表したエイプリルフールから60回目を数えます本年のエイプリルフール、この記念すべき日にふさわしく、「涼宮ハルヒの分裂」が発売日を迎えました。

まあ、書物などといいますものは、ボジョレーヌーボーやウインドウズビスタ、はたまた人気のテレビゲームなどと違いまして、発売日はアバウト。たいていは奥付にあります発売日の数日前には書店に並んでいるものでして、私が同書を手に入れたのも、実は昨日であったのですね。

で、これまでに4回ほど読み返しているのですが、どうも解せません。一言でいうなら、内容が薄い。あまりの薄さに、何か仕掛けがしてあるのではと疑い、これを見抜かんと試みたのですが、何も見当たりません。

まず、プロローグが長すぎます。全部で300頁たらずの本のきっちり100頁までがプロローグ。これは少々異常です。

私が小学生の頃、遠足の翌日には、毎度お約束のように、作文を書かされたものです。で、その悪い例として、こんなのがあります。

きのうはえんそくでした。ぼくは、あさおきると、かおをあらい、はをみがいて、それからあさごはんをたべて、がっこうにいきました。

なぜこれが悪い例か、といいますと、朝起きたり、顔を洗ったり、朝ごはんを食べたりするのは、遠足とは関係のない話でして、書く必要もないことなのですね。

涼宮ハルヒの分裂、プロローグの部分を読みまして思い出しましたのが、まずこの遠足の作文の悪い例。まあ、同書61頁の終わりあたりからをお読みください。およそ1頁ほどが、このどうでも良い記述に費やされています。

もちろん、1頁だけであれば全体のわずか0.3%ほど。無視しても良いような話ではあるのですが、似たようなどうでも良い部分があちらこちらに目立ちます。123頁の終わりごろからとか、175ページの終わりごろから、とかですね。そのほかにも、例えば113頁中頃からは1頁ほどが、丸々百人一首の引用に費やされています。これも少々、埋め草的な感じがする部分ではありますね。

で、事件らしい事件が発生するのが、最後から6ページ目のところ。当然のことながら、こんなところで発生した事件、顛末が語られるわけでもなく、次巻『涼宮ハルヒの驚愕』に続く。その発売日は、ネット情報によると今年の8月、なのですね。お~い、と思わず叫びたくなりますよね。

まあしかし、内容がないわけではない。SOS団がもう1セット登場するわけですし、途中から分裂する二つのストーリーの一方には、愛らしい後輩と思しきキャラが登場する。これ、デジャヴがあるのですが、スクランあたり、かな? でも、このようなストーリーであれば、100ページもあれば語り尽くせるような気がするのですね。

そもそも、涼宮ハルヒのシリーズ、角川スニーカー文庫でもトップクラスの売り上げがあったはずで、アニメDVDも相当にヒットしているはずでして、時をかける少女と並んで(というより、それ以上にか?)、角川グループホールディングスのコンテンツ戦略の一角を占めているはずなのですね。

今回の作品、8月の次回作と続き物である、という情報は早くから出ておりましたので、さては、ハルヒアニメの劇場公開版を「分裂」と「驚愕」で製作する作戦か、などと想像していたのですが、この「分裂」の出来ではどうでしょうか。相当なイメージダウンは避けられそうにないのですね。まあ、「驚愕」が、それこそ驚愕すべき出来、なら良いのですが、、、

なんか、ハルヒ超監督製作になる『長戸ユキの逆襲 Episode 00』の予告編をみせられたような感じのする「涼宮ハルヒの分裂」ではあったのでした。

谷川流氏も、角川書店の編集担当者も、一体どうしてしまったのでしょうか。何か悪いことが起こっているのでなければ良いのですが、、、

さて、文句ばかり言っていても始まりません。いくつかの付加的情報を書いておきましょう。

まず、238ページ、「エンターテイメント症候群」、佐々木さんが作った言葉、ではあるのですが、同じような意味の言葉は既に存在いたしまして、「巨大地震待望論」というのですね。

巨大地震待望論、ある意味で危険思想でして、こんな言葉が一部に流れておりましたのはバブルの始まりの頃。地価が上昇して、普通の人には一戸建て購入の夢が遠のいた頃のことでした。こうなりゃいっそ、巨大地震が東京を襲って、何から何まで灰燼に帰してしまえ、と考える人がいたのですね。

巨大地震待望論を唱える人の願いも虚しく、巨大地震こそ起こりませんでしたが、その後に起こりましたことは、巨大地震と大して変りません。バブルはあっけなく崩壊してしまったのですね。

しかしこのバブルの総決算、某証券会社の調査によりますと、バブルとその崩壊で利益を得たのは富裕層、損を被ったのは中流以下の階層でして、もう一つ大きな損失を被ったのが民間企業。まあ、民間企業の経営者の多くは、中流以下のセンスの持ち主だった、ということであるのでしょう。

その結果流行りましたのが、リストラという名の首切りと、派遣労働者による人手不足の穴埋め。結局、日本は勝ち組と負け組に二分される方向に進みました。バブル崩壊という名の巨大地震もどき、被害を被ったのは弱者、であったのですね。

まあ、実際に巨大地震が起こりましても、その結果は似たようなものであったのでしょう。胡乱なことは考えない方が良い、という格好の見本のようなものです。

さて、以下は少々内容に関わることですので、本をお読みでない方は、以下をスキップされることをお奨めいたします。

 

 

 

 

もう宜しいでしょうか?

 

 

 

さて、同書第2章以下は、αとβという、二つのストーリーが同時進行いたします。この二つのストーリーへの分岐、古泉一樹なら、ホワイトボードに一本の線の先が二つに枝分かれする絵を描いて、世界が枝分かれしたと説明するでしょうし、量子力学の多世界解釈くらいには言及するでしょう。

で、何故にこんなことが起こったか、といえば、プロローグの終わり、100頁の記述によりますと、「下手人の名は明らかだ。他のだれでもない。涼宮ハルヒがそれをしたんだ―」というわけですから、ハルヒの深層心理がその原因となったのでしょう。

まあ、想像いたしますに、ハルヒはSOS団を現在の5人だけで和気藹々と運営したいと望む一方で、新人を迎え入れて団を一段と大きくしたい、という相矛盾する意識があった。その結果、世界は二つに分裂してしまった、という例によりましてはちゃめちゃな事態が発生した、と考えるのが妥当ではないかと思います。

つまりは、ストーリーαが団が大きくなる世界で、ストーリーβが和気藹々の世界、であるわけですね。

しかし、ストーリーβ、和気藹々どころか、有希が高熱に倒れる、というとんでもない事態に展開いたします。もちろんこれは、コミュニケート不能の有機生命体、周防九曜の仕業であることにほぼ間違いありません。これが、雪山症候群におきまして、SOS団全員を謎の館に閉じ込めた情報統合思念体であるといたしますと、これは相当に手ごわい相手。有希以外のSOS団の面々では、とても相手にできるレベルではなさそうです。

と、なりますと、その他で助けになりそうなのが、朝比奈みくる(大)。なにぶんこの方は、すべてを知る未来人ですから、何が起こったかを把握しているはずです。ただ、この方、実行能力に欠ける部分がありまして、この部分で、何者かの助けが必要なのですね。

で、幸い、「分裂」には、格好のキャラが存在いたします。喜緑エミリさん、ですね。既に九曜とは喫茶店で邂逅いたしております。未来人と宇宙人のBチーム、何とかしてくれるのではないでしょうか。

その他の強力キャラは、もちろんハルヒ、なのですが、この方が本来の力を発揮いたしますと、あらゆるストーリー展開が可能となってしまいます。このケースは、有希ではありませんが、「予測不能」と申し上げておきましょう。なにぶん、「有希にこんなことをする奴、私は絶対に許さないんだから」などとハルヒが念じますと、九曜は瞬時に消滅し、北極星付近に超新星が一つ現れる、なんてことも起こりかねませんからね。

さて、「驚愕」では色々とありそうですが、最後にはこれらの世界、一つになるしかありませんから、双方の世界とも、少数の新人を入れるなり、全員失格と認定し、同じ形となったところで世界を一つにまとめる、という展開があるのではなかろうか、という気がいたします。

でも一体ハルヒ、なにに「驚愕」するのでしょうね。この方が驚くようなモノ、何かありましたでしょうか? ま、これに関しましては、8月の「驚愕」出版を待つしかなさそうですね。


結局長期にわたって「驚愕」は出ずじまい。私はこんなものを書く羽目となりました。