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とっても危ない「共感」頼み

アゴラ編集部の11/3付けアゴラ記事「朝日新聞のエビデンス批判記事が炎上:『お気持ち』で風評被害を拡大する記者たち」へのコメントです。


ポール・ブルームさんの書かれた「反共感論/社会はいかに判断を誤るか」という書物がありまして、その言いたいことは次のような話です。

(共感は)愚かな判断を導き、無関心や残虐な行為を動機づけることも多い。非合理で不公正な政策を招いたり、医師と患者の関係などの重要な人間関係を蝕んだり、友人、親、夫、妻として正しく振舞えなくしたりすることもある。私は共感には反対する。本書の目的の一つは、読者も共感に反対するよう説得することだ。

共感とは、他人の感覚を自らも同じように感じることなのですが、近い人の感覚をより強く感じ、遠い人の感覚はさほど感じない。その結果、非合理で不公正な判断に陥りがちなのですね。

ブルーム氏は、同書の中で、認知心理学者スチーブン・ピンカー氏の言葉を次のように引用しております。

世界は過剰な道徳性で満ちている。自家製の正義を貫徹するためになされたすべての殺人の犠牲者、宗教戦争や革命による死者、犠牲者のいない犯罪や悪事のために処刑された人々、思想的な大虐殺の犠牲者を足し合わせると、その数は間違いなく、道徳とは無縁な略奪や征服による犠牲者の数を上回るだろう

ネットも過剰な道徳性で満ちております。結局のところ、これは共感に頼るからなのですが、じつは、共感というのは普通の人が頼りがちな感覚なのですね。そして、マーケティングが頼るべきも共感。ネットでもPVを稼ぎ経済的利益に結びつけようと思えば共感に訴えるのが早道。だけどこれを押し通す道は、犠牲者累々の道でもある。朝日新聞の歩んでいる道がそうであることは、歴史が証明している通りで、ここは理性を使うことも、ちょっとは、考えなくてはいけません。


追記しました。本件に関しては、過去の本ブログもご参照ください。

反共感論に関しては、朝日新聞に掲載された肯定的な書評「『10万個の子宮』『反共感論』書評 専門家に求められる冷静な判断」が参考になります。「10万個の子宮」は、子宮頸がんワクチン反対論に対する批判で、その論の補強に反共感論を使う形となっております。これだけ読めば、朝日新聞もまともなのですが、書評欄は朝日新聞の中でも比較的まとも、というか、まともな評者が書いている欄でもあるわけですね。
https://book.asahi.com/article/11609936

で、これに対して法政大学の中筋直哉教授が反論する。なかなかに面白い内容となっております。

私の怒りの原因は、東大のお偉い先生が、他でもないこの日に、近代科学の絶望的失効ではなく、虚妄の優位を脳天気に述べ立てていることにある。7年前東大のお家芸だった、地震の予知物理学も、防災の土木工学も、原発の安全神話もすべて失効したにもかかわらず、佐倉のお仲間たちは恥知らずにもメディアに露出し続け、虚偽の物語を語り続けていたし、今も語り続けているのではないか。それを誰よりも先に批判しなければならないのが「科学技術社会論」なのではないのか。その批判の倫理的根拠は、他でもない「社会」、すなわち佐倉が馬鹿にしている、疑似科学に踊らされ、情動的共感しかできない私たちではないのか。

なにぶんこの書評が掲載されたのが「7年目の3月11日」であったのですから、安全神話に騙された怒りといったものが、この書評の評者に向けられたのもわからないではない。でもそれが「その批判の倫理的根拠は、他でもない「社会」、すなわち佐倉が馬鹿にしている、疑似科学に踊らされ、情動的共感しかできない私たちではないのか。」では、ぜんぜん「倫理的根拠」などになっていないのですね。

このエントリーに紹介されている朝日の考え方は、果たして書評子の主張に近いか、これを批判する立場に近いかといえば、後者であるとしか言いようがないのですが、果たしてこれは、正しい考え方であるのか、ここは少々疑問を感じるところではあります。

1 thoughts on “とっても危ない「共感」頼み

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