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メディアの古くて新しい問題

與那覇潤氏の3/12付けアゴラ記事「『専門家の時代』の終焉」へのコメントです。


ここで扱われている問題は、いくつかの異なる問題を内包しているように思われます。

まず、反ワクチン論に関しては、子宮頸がんワクチンに対する反ワクチン論の高まりの結果、多くの女性が子宮を失うことになってしまった反省というものがあるのでしょう。検索エンジンの多くが反ワクチン論を無視したことは、妥当な判断であるように思われます。子宮頸がんワクチンに関しては、村中璃子著「10万個の子宮」が扱っております。これに対する朝日の書評は一読に価しますhttps://book.asahi.com/article/11609936

ネットコミュニケーションの問題は、それ以前のラジオやテレビといった電子メディア登場と同時に問題となっております。マクルーハンの「メディア論」によれば、ラジオは「部族の太鼓」であり、感情に訴えて興奮を高める作用がある。それがナチスの高揚にもつながったとしております。

ポール・ヴィリリオは彼の著「電脳世界[明日への対話]」の中で次のように書きます(P101)。ちょっと長いですけど引用しておきます。

リアル・タイムの横暴は、古典的な専制政治とあまりかけ離れてはいません。なぜなら、そこには、反射的な行動を誘って市民の反省をなしくずしにしようとする傾向があるからです。民主主義は連帯的です。それは孤独ではありません。そして人間は、行動する前に反省する必要があります。ところで、リアルタイムと世界的現在はテレビ視聴者に、既に操作の次元にあるような反射的行動を要求します。リアル・タイムの圧政はテレビ視聴者の隷属を意味します。民主主義はその時間性において脅かされています。というのも、判断が期待されることがなくなる傾向にあるからです。民主主義とは、集団的にとられる決定を待つことです。生(ライヴ)の民主主義、自動的な民主主義は、反射的行動のためにそのような行動をなしくずしにしてしまいます。


他の方のコメントに返信を入れておきました。

渡辺井文

飛行機がなぜ飛ぶのか。
その機序を具体的に説明せよと言われても、たまたま重なる分野を大学で専攻した一部の人を除いては、ほとんどの国民ができなかっただろう。実際に、僕もできない。

飛行機は、どんなしくみで効くのかが自分にはわからないのだから、「本当に安全なの?」という疑問を持つのは自然なことだ。ひとまずはそう尋ねてみて、説明を受け十分に納得できたと思ったら、そのとき初めて飛行機に乗る。それはなにもおかしいことではない。

単に「飛行機は大丈夫なのか?」と疑問を表明するだけでも、「非科学的だ」といった罵声が浴びせられ、沈黙を強いられる状況が出現した。


瀬尾 雄三

翼が揚力を発生する原理に関しては、「ベルヌーイの定理による」とする説明を、かなり専門的知識の高い方もするのですが、これは全然間違っているのですね。

ベルヌーイの定理は、流体が太いパイプから細いパイプに入ったような場合、流速が上がると同時に圧力が低下する。なぜ圧力が低下するかといえば、流速上昇により運動エネルギーが増加し、その分だけ圧力エネルギーが減るからなのですね。翼にはこれは関係ない。

翼が揚力を発生する原理は、一つには、前から来た空気を下方向に曲げるという作用がある。これは、フラップを出すような場合が相当します。

通常の飛行において翼が揚力を発生する原理は、翼の上面は上に凸の曲面になっている一方、下面はほぼフラットであることによるのですね。そこで揚力が発生するのは、ベルヌーイの定理【ではなく】遠心力によります。

曲線を描く流れは、曲率に応じて遠心力を発生する。これにより、上に凸の翼の上面には減圧が発生する。まあ、最近では、ネットが発達しましたので、この手の正解もどこかで目にすることもあると思いますけど、少し前までは「ベルヌーイ」が全盛。何考えてるのか、と思ったものです。


星光

ベルヌーイの定理で説明できますが、速度差が生まれる理由が間違っているということなのでは? この日経ビジネスの松田先生の説明がわかりやすいかと思います。

「飛行機がなぜ飛ぶか」分からないって本当? https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/061400036/

わからない人には、いくら説明してもわからないわけですから、納得しなければ飛行機に乗らないという態度は非科学的というより、単なるへそ曲がりかと。言葉を尽くせば誰でもわかるはずだというのは幻想です。


渡辺井文

飛行機が飛ぶ説明は過去にいくつか読んだが、クッタ条件をからめている説明なんて5%無かった。

理解には段階があって、大雑把に何となくわかった気になるだけならクッタ条件なんて知らなくてもいい。

私が言いたいのは「子宮頸がんワクチンに疑問を持つな」ではない。mRANワクチンの話なんて『(11) 【驚愕】mRNAワクチンを医師がわかりやすく解説【世界初ワクチン】 - YouTube』とかいくらでも転がっている。

「どういう資料を何時間読んで、そこで何を理解して何が理解できないから」とかではなくて、疑問があるから誰か俺に分かりやすく説明してくれ。という態度で「高校生がネットで3時間ググレば到達するレベル」にすら辿り着ていないから、なんだかなあと思うわけだ。

まあ、これが一般人なら3時間ググルとかの時間も取れなかったりとかしかたないかなと思うけど、この記事は雑誌に文書いたりする評論家の記事だよね。評論家って情報集めたりしないのかね??

だから「なんだかなあ」と思うわけだ。


瀬尾 雄三

自然現象はいくつもの仕方で説明できます。エネルギー保存則でとらえることもできれば、個々の場所の力のバランスでとらえることもできるようなものですね。

そこでどの説明を選ぶかといえば、わかりやすい説明を選ぶことが肝要なのですね。

まあ、遠心力といってもわかり難いかもしれない。もっと簡単に言えば、気流が曲がるから、そこに気体の運動量変化が生じる。この反作用として(運動量保存の原理により)翼の側に力が発生する、というのが最もプリミティブないい方でしょう。

ただ、これを少ない言葉で説明しようとすると「遠心力」ということになる。遠心力も実はそれが生じる原理は運動量保存則なのだが、この程度のことは多くの人が知っているだろうと期待するわけですね。

で、クッタといわれて「な~るほど」という人がどの程度いるか。これが問題であると思います。実は、私にもぜんぜんわからない(正しいか間違っているかを含めて)のでした。


星光

突き詰めれば、「分かる」とはどういうことかという話になるのでしょうね。

結局は、説明を聞いて「納得できる」かどうかということになるのでしょうが、その納得できる基準は人によってまちまちで、そんなデタラメな説明で納得しちゃうの、っていう人も結構いるわけです。だから、ほとんどありえないような話に納得してしまって、陰謀論等の「トンデモ」説の信者になる人がごろごろいるわけです。そういう人達を説得しなおすのはかなり難しい。

私の知り合いにも元ウクラナイ大使とやらの陰謀論を信じ切ってる人がいますが、どうにも説得しようがありません。東野さんのような専門家の言葉よりも、専門家でもなんでもない元ウクライナ大使の陰謀論のほうを信じてしまうのは、この記事のように「専門家の時代の終焉」を謳う人がいたりするからなのかも。偽物を「ホンモノ」だと思いこみ、陰謀論に嵌ってしまう人を増殖させてしまう罪深い記事のように思いました。

1 thoughts on “メディアの古くて新しい問題

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