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池田信夫氏の5/15付けアゴラ記事「コロナ死亡率の100倍の差を説明できない専門家会議」へのコメント

池田信夫氏の5/15付けアゴラ記事「コロナ死亡率の100倍の差を説明できない専門家会議」へのコメントです。アゴラは私の書き込みをブロックしておりますので、この記事はブログ限定です。


アゴラ記事で、池田氏はdappi氏の記事を引用する形で、専門家会議小尾副座長の言葉を次のように引用します。

尾身茂「今のところBCGが有効とのエビデンスはない。日本の感染者数と死亡者数が米欧と差があるのは【医療制度が充実し多くの重傷者の適切ケアされ・医療崩壊も防げてる】【初期のクラスター対策が有効だった】【国民の健康意識が高い】の3つが大きいと思う」

そして、BCG接種と死亡率の相関は統計的に有意であることをもって、小尾氏の「今のところBCGが有効とのエビデンスはない」とする主張を否定されるのですね。

この池田氏の主張はどうでしょうか。これは、相関関係と因果関係とを混同する、よくある誤りなのですね。

BCGを接種した人たちの死亡率が低かったからといって、BCGが死亡率低下の原因になるとは言えない。二つの現象が共通の原因によって生じているなら、この二つの現象の間に、相関関係はあっても、因果関係はないのですね。

新型コロナで極めて多数の死者を発生させた国は、西ヨーロッパ諸国と米国にほぼ限定されているのですね。これらの国々は、衛生管理の発達した先進国であり、結核も絶滅されており、だからBCGの接種もなされていない。

したがって、西ヨーロッパと米国に特有の、新型コロナで多数の死者を出す原因が他にもあるなら、共通の原因は「欧米である」ということであり、「BCGの接種をしていない」という事象と、「新型コロナの死者が多い」という事象は「欧米である」という、これら二つの事象に共通する原因の結果である、ということにもなりえます。

では、欧米に共通の、新型コロナで多数の死者を出す原因として、果たしてどのようなものが考えられるでしょうか。

  • まず第一に、これらの国々の間では、人々の交通が盛んにおこなわれていた。だから、いずれかの国で大流行が発生すれば、これが他国に伝染することはさほど不思議ではなかったのですね
  • 第二に、欧米で流行した新型コロナは、アジアで流行したものと異なるタイプのものであって、感染力がはるかに強力なものでした。これは、大隅典子氏の4/4付けBLOGOS記事「新型コロナウイルスの変異と広がり」(下図)で説明されています
  • 第三に、当時の欧米にはマスクをつける習慣がなかった。これを付けるようになったいきさつは、4/2付けのBBC記事「マスクを着けるべきなのか? WHOが最新研究を検討」にみることができます。この時点で、一般人もマスクをつけることの有効性が指摘されたのですが、それまでは、感染者以外はマスクをつける理由がないというのが欧米の一般常識でした
地域別にみた新型コロナウイルスのタイプ(大隅氏のBLOGOS記事より)

アジアでは、SARSやMARSの教訓から、ひとたび伝染病が流行すれば人々はマスクをする習慣がありました。欧米にこれがないことから、アジア人のマスク姿を異様視され、消毒液を掛けられるなどの嫌がらせを受けたこともあったのですね。

このような、ある種の人種差別的心理がありますと、マスクが有効かもしれないと考える人もマスクをしにくい。その結果、誰もマスクをつけないのが、3月時点までの欧米の普通の日常風景でした。そこを感染力が強化されたヨーロッパタイプの新型コロナが襲ったというのが、欧米に多数の(アジアに比べて二桁多い)犠牲者を発生させた新型コロナ大流行のメカニズムだったのでしょう。

大隅典子氏も上に引用した記事の末尾で以下のように結論されています。

したがって、先に述べたBCG接種の予防的効果は、国のような単位でのCOVID-19蔓延の程度の差の原因として否定されるものではないが、当初、中国から、おそらく春節以前にも渡来してきていたであろう古典的バージョンのSARS-CoV2による感染症の広がりが少なかった、あるいは軽症で人々がCOVID-19だと思わなかったのは、アジア系の人々の間でマスク着用率が高いことや、挨拶の仕方やの違いなど、文化的側面も大きく影響しているのであろう。

大隅氏がここで述べているポイントは、我が国でさほど大問題にならなかった理由は、春節以前に古いタイプの新型コロナが中国から感染したが、これらは感染力の弱いものであり症状も軽かったこと、マスクの着用率が高く、身体を接触する形でのあいさつ(握手やキスなど)がアジアでは一般的ではなかったことなどを理由として、さほど大きな感染症の広がりはなかった、としております。

ただし、3月中旬以降には、欧米に比べれば小規模ながら、我が国にも感染拡大が発生しております。これらの少なくとも一部は、ヨーロッパからの帰国者から感染が拡大しており、感染力の強いヨーロッパのウイルスがもたらされたことがその原因だった可能性が指摘されております。

3月末から4月頭にかけての欧米での新型コロナの大流行はすさまじいものがありました。以下に、3/25と4/10の各国の新型コロナの感染者と死者の累積数を掲げます。一日20%の感染者増加率は、4日で2倍になる計算であり、医療機関の処理能力がオーバーして多数の死者を出す結果となっております。

3/25の各国の状況
4/10の各国の状況

BCGを打っていれば安心、などということが言えれば、どれほど幸せなことかわかりませんし、経済活動は今日からでも平常に復帰することができます。しかし、現実に目を向ければ、そのようなことはない。逆に、甘い気持ちで事にあたれば、その結果はおそらく多数の国民の死、ということになるのでしょう。

ここは、あまりにも楽観的な主張をして人々を惑わすべきではないように私には思われますし、そのような主張を見かけても、安易に賛同しないよう、気を付けなくてはいけない、と強く思う次第です。