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どうする、エネルギー

ロシアに対する経済制裁は、ロシアから購入している天然ガスをどうするか、という問題を一方に生じています。これはこれで、難しい問題となっております。さて、これに、いかが対応すべきでしょうか?


ロシア産エネルギー資源の比重

国内の天然ガス需要に占めるロシア産天然ガスの比率は、日本は9%程度なのですが、欧州は1/3の比重を占めると。この部分を何とかしないと、経済制裁の効果も今一つ。「共倒れ」などという声も一部にささやかれております。同様の問題は原油にもあり、ロシアはウクライナ侵攻前に、世界の原油需要の5%を輸出していたのですね。

これに対する一つのアクションとして、需要国の間で相互に備蓄を融通するとともに、中東諸国への原油・天然ガスの増産を働きかけております。これ、一筋縄ではいかない様子で、どうやら、中東諸国にはロシアにも良い顔をせざるを得ない事情がある様子なのですが、一部に良い反応が得られ、この手のニュースが出るたびに株式市場があげたり下げたりしております。

世界のエネルギー需要と供給は

Global Noteによりますと、世界の原油・天然ガスの供給と消費は下図のようになっております。

これを見ますと、米国の生産量が圧倒的に大きい。米国は、消費量も大きく、輸出に回る分は少ない、というかマイナスなのですが、生産量が大きいということは、増産すれば供給量の絶対量を大幅に増加できるはず。世界の原油・天然ガスが不足した時、まず頼るべきは米国の増産ではないですか。これ、世界がバイデン氏に頼むべきところではないでしょうか。

まあ、これも、ただ増産してくれといっても、米国は経済原理に従って動く国ですから、日本や欧州が長期にわたって買取を保証する長期契約を結ぶ必要がありそうですが、逆に長期契約を結べば米国企業がシェールガスやシェールオイルの新規採掘に動くことも十分に考えられます。

ただしこのような一手は、先々のエネルギーコストを高いものにしてしまうため、この問題が長期化しそうであるという一定の見通しの元でなければ動きにくい。具体的には、5月にも片が付くとの見方が一方にあるわけで、それまでは契約締結は行わず、準備だけをしておくなどといったとり進めも現実的でしょう。

次の一手としての再生可能エネルギー

供給に不安のある石油・天然ガスに代わるエネルギー源として、他にもいくつかの候補があります。これらを前倒しするという手も一方にあるでしょう。

その第一は、再生可能エネルギーで、具体的には、風力発電と太陽光発電が最有力候補なのですね。これらは、今後も当分の間世界で利用されると考えられており、一定の産業規模にはなるはずです。そして、我が国は現時点でこれらの分野に出遅れておりますが、研究開発資源を投入することで遅れを取り戻すこともできる。

また、これらの再生可能エネルギーは、出力が安定しないという問題があり、送配電網の整備を一方で進める必要がありますし、大容量の電力を効率的かつローコストで蓄電する技術も必要になる。まあ、普通に考えれば、リチウム電池などなのですが、大容量となりますと、水を電気分解してエネルギーを水素と酸素の形で蓄積し、これらを燃料電池に供給して再び電力に戻すなどのやり方が現実的でしょう。あとは、この際の損失をいかに低下できるかが課題となります。

原発再稼働という解

第二の候補に原子力発電があり、技術的にはすぐにでも電力供給が可能な状況となっております。我が国の原子力発電をめぐる問題に関しては、昨日のこのブログにも記したのですが、安全性に関する国民の理解が得られているともいえない以上、やみくもにこれを動かすことは、我が国のエネルギー政策にマイナスの作用を及ぼしてしまいます。

しかしながら、一定の条件下でこれを動かすことはあり得ると私も考えております。これは、次のような条件下となるでしょう。

まず第一に、動かす原発は「現在の」基準のもとで安全性が確認されたものであることは当然ですが、福島の事故により我が国の原発事故確率の実績値が大幅に上昇している以上、20近い立地で50基以上の原発を稼働させるなどということは許されるものでもなく、当面は、多くてもこの1/5程度に制限することが必要でしょう。具体的には、3~4カ所で合計10炉の原子力発電所稼働に止める、とするあたりが現実的でしょう。

この条件は、相当にラフな見積もりによるのですが、1/1,000炉年の事故確率が福島の事故直後の実績であるとして、各種の対応でこれを一桁改善したとする(1/10,000炉年になる)。そうして、10炉を稼働させれば、いずれかの原発が事故を起こす確率は1/1,000年となるのですね。

IAEAの基準では、先進国に望まれる事故確率を1/10万炉年にせよとしております。その背景を推察すれば、1/10万炉年の事故確率の炉を100炉動かしたとき、1/1,000年の事故確率となるわけで、千年に一度(年間0.1%)の事故確率を許容範囲と考えることもできそうなのですね。

ならば、我が国の海に近い原発も、福島よりは一桁進んだ津波対策をすることで1/1万炉年の事故確率に改善し、10炉に限って操業を認めれば、一応IAEAの基準は満足する。ただしこれは、恐ろしくラフな計算であり、きちんとした評価も並行して進めることを要請したいところです。

もう一つの条件として、稼働させるのは既に一度稼働している炉に限ること。これは、廃炉で生じる廃棄物の最終処分場が決まっていないため、これ以上の汚染された炉を作るわけにもいかないことによります。この条件は、最終処分場が決まるまでの時限的条件とするわけですね。

核融合という解

エネルギー問題を完全に解決する最終的な手段は、まず間違いなく、核融合の実用化であると考えられております。現時点では、その本命は、磁場によるプラズマ閉じ込めで、現在の見通しでは2035年の実用化実験開始、2050年の実用化と予想されております。2050年なら、もう30年後には核融合が利用されるようになるわけで、化石燃料資源はそれまで持たせておけばよい。自然エネルギー設備は、30年もあれば十分元が取れるはず(というか、それほどの耐用年数もない)ので、今の段階では大いに投資すればよいということになります。

逆に、原子力発電は、30年程度持たせればよいわけで、あまり始末に困る廃棄物を作らないようにすることが今日の使命であるともいえます。また、地球温暖化につきましても、核融合発電は炭酸ガスを出さないため、そうそう心配することはない、ということにもなります。

で、ここで重要なポイントは、30年後の実用化は、現在取り進めている磁場閉じ込め型の技術で実用化する場合の話であり、その他の手法の実用性が確認されれば、さらに短縮する可能性もある。私はそれがあるのではないか、とみているわけで、本命の技術を追うだけでなく、その他の技術も押さえておく必要があるのではないかと思うのですね。

その一つの手法は、レーザ核融合で、強力なレーザ光のパルスをトリチウムと重水素でこさえた氷の玉に照射することで瞬間的に高温高圧を作って核融合させるもの。この技術は、我が国では大阪大学が「激光」という強力なレーザを使用して実験しておりましたが、できれば大学以外の政府直属の研究機関で行うことが望ましい。と、言いますのは、これ、兵器にもなるのですね。

強力なレーザは、核ミサイルを打ち落としたりする兵器になる。これを遠距離レーダとともに巨大な硬式飛行船にのせて上空に浮かべておけば、飛来するミサイルに強力なレーザパルスを照射してこれを打ち落とすことも夢ではない。他に、マイクロ波パルスという可能性もありますが、こういった技術も並行して開発することは、研究開発資源の有効活用にもなるのですね。

レーザ核融合以外の新しい核融合技術として、ビームによる閉じ込めという手法があり得るのではないかと、ひそかに考えております。実は、加速器を使えば核融合は簡単に実現できる。トリチウムと重陽子を衝突させればよいのですね。もちろんこれだけでは、使用したエネルギーが取り出されるエネルギーよりもはるかに多い。そこで、少ない消費電力で出力を多くする方法を考えなくてはいけません。

このための簡単な方法は、トリチウムと重水素をイオン化し、真空中に導いて加速して電磁レンズで微小なスポットに集中させること。この場合、これらのイオンはプラスの電荷をもつため、静電反発力によりあまり小さな領域には集中できないという問題があります。そこで、同じ場所に同量の電子も集中させる。そうすれば、電荷は中和され、小さな領域にトリチウムイオンと重陽子を集中させることができるのですね。

まあ、こう書けば簡単ですが、実際にこのような装置を作ることがそうそう簡単なことではないことぐらい、私も重々承知しています。でも、これをやるのに30年はかからない。まあ、10年もあればできるのではないでしょうか。

エネルギー政策の最適化

もう一つ、核融合を実現するためにマスターしておかなくてはいけない技術があります。それはトリチウムを扱う技術で、重水素や軽水素からトリチウムを分離する技術が必要なのですね。この技術は、福島の汚染水からトリチウムを分離する技術としても使え、以前ご紹介したように、実際に相当な検討も行われております。

この技術開発は、福島のトリチウム水対策の一環としてやるのが最も効率的だと思うのですが、どうなのでしょうか。このプロセスには、水電解と水素の燃焼が含まれておりますので、上に述べました電力貯蔵の技術検討も兼ねることができる。このような形で、複数の目的に応用できるように技術開発を進めますと、同じ研究開発資源から複数の効果が得られ、経済的な研究開発が可能になるというものです。

まあ、このあたりには、浮世の義理で、いろいろとがんじがらめになっているようにも見えるのですが、そうした事情を超越する形で、えいやッとやってしまうのも手ではないかと思うのですね。

元々研究者などというものは、浮世離れしたところもあるわけですから、ここはそういう性質を大いに利用して、未来の日本の針路を切り開く、くらいのことをやっていただきたいものです。

核融合の実用化など、いくら早くても10年20年先の話で、目先のエネルギー問題には何の解決策にもならない、と思われる方がおられるかもしれません。でも、先々の方向が見えていれば、今日の問題解決にもいろいろと役に立つ。

一つは、先行きエネルギー問題が解決されると分かっていたら、それまでに地下資源を掘りつくしても問題ない。少なくとも、原油や天然ガスを地下に温存しておく理由はなくなるのですね。また、地球温暖化の問題にしても、30年後には炭酸ガスを出さないエネルギーが主力になると分かっていれば、今日の対応はそれなりに緩めることができる。

そのほかにも、研究開発投資の振り分けも、核融合が前提となれば、おのずと変わったものになるだろうし、原発の稼働も、限定的にしておこうという意識が生まれるでしょう。

いずれにせよ、エネルギー問題に関しては、研究開発に係る費用や設備投資が膨大であるだけに、今日の判断を誤ってはならず、先行きをきっちり見切った上で判断しなくてはいけません。その一つの重要な要素が核融合であるということ。また、その開発を加速することで、今日の最適な戦略も変わってくる。これを我が国に都合の良い方向に変えていかなくてはいけません。

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