藤谷 昌敏氏の6/1付けアゴラ記事「中国のデジタル覇権に対抗する『半導体同盟(Chip4)』」にコメントしました。以下、コメント内容と解説です。
台湾有事の際は、台湾の半導体工場の生産が止まる恐れがあるわけだけど、ロシアの今を見ておりますと、その時には、中国製品も禁輸の動きが起こりそうで、台湾、中国の半導体入手が困難になる恐れは多分にあります。
半島有事などという事態だってないわけではなく、韓国の半導体にしたところでいつどうなるか、わかったものではありません。そうなりますと、日本の半導体生産を増やすことは、喫緊の課題だと言えるでしょう。
一方、中国が世界の半導体技術をリードするようになるかといえば、これは当分絶望的で、なにぶん技術開発は人間がおこなうもの、それも優秀な技術者が積極的にかかわらなければ先に進まない。
そして優秀な技術者はわがままなもので、快適な環境を求める。米国西海岸で情報電子技術が花開いたのは、この地が技術者にとって快適な場所だったからなのですね。
そういう環境を中国が技術者に提供できるかといえば、これは絶望的なのですね。まあ、日本だって、相当に怪しいものではあるのですが、、、
以下はブログ限定です。
問題は、日本が優秀な技術者に対して快適な環境を提供しているかという点なのですが、これがはなはだ疑問であることは経済産業省未来人材会議の第一回会議に提出された「事務局資料」が雄弁に物語っております。
まず問題は、デジタル化への対応ですけど、この図がひどい。ちなみにアジリティというのは、敏捷性という日本語に訳されることが多いのですが、素早く正確に事態の変化に対応すること。我が国は、自社のデジタル化において対応が全然遅れていること、経営層自らが認めているのですね。わかっているなら何とかできそうなものなのだが、、、
従業員側のやる気ですが、こいつもひどい。世界の中でダメなのはわかりきったことかもしれませんけど、世界の中でも低い東アジアの中でも相当に低い。これでどうやって、世界と戦うというのでしょうか。
だから勤続希望は低いのだが、転職なり起業なりするかといえば、その気もない。
何でそうなるかといえば、原因もわかっている。労働市場の流動性が低いから、起業・転職したくてもできない(危なすぎる)。そして、労働市場の流動性が低い国は労働生産性も低いのですね。まあ、このグラフ、ばらつきが相当にありますから、この関係はそうそうびしっとしたものでもないのですが、傾向としては言える。
この後、経産省のこの資料は、博士課程進学者の少なさや、大学院などの社会人コースに通う者の少なさ、起業のやり難さ(再チャレンジが困難)などに言及しております。でもこれらはみんな、労働市場の流動性の低さで説明できるのですね。つまり、能力を磨いても、自社では評価されず、転職も難しいとなれば、あえてお金と手間暇かけて社会人コースに通う理由もない。終身雇用制だと起業に失敗したら、その先の働き口が無くなる。
その結果、不平不満を抱えながらも、結局は、何もできずに最初の勤め先で定年まで我慢する人が多くを占めるようになる。生産性が上がるわけもありません。
まず、我が国の半導体生産能力を高めておくことが喫緊の課題であるとしても、その先に、我が国が半導体、ないしハイテク産業でリーダー的地位を占めるには、この雇用の問題、技術者のやる気の問題を解決しなくては先の見通しが開けてこない。
そのためには、第一に雇用慣行を改めること、能力主義、実力主義に移行し、社の内外を問わず、力のあるものに仕事をさせること。まあこれは、あの経産省自体もとうに気付いていることであり、いずれはどこかの時点で、世の中が変化するとは思うのですが、、、
今日の朝7時のラジオで情報系の技術者は、派遣扱いでここ十年はやすく買いたたいてきた。いまさらDXで人が足りないといってもね。。。と言っていた。
同感だね。