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TAE Tech社の新しい核融合技術

このところ核融合づいているこのブログですが、今回は、米国の民間プロジェクトであるTAE・テクノロジーズをご紹介します。


閉じ込め技術

少し前のこのブログで、磁場によるプラズマ閉じ込めと、強力なレーザを瞬間的に照射する慣性閉じ込めの他に、ビーム衝突による閉じ込めもあるのではないかということを述べましたが、TAEのやっております技術がビーム衝突による閉じ込めです。

同社の代々の装置を下に示しますが、装置全体は直線状をしており、両端にビーム加速部を設けて双方から荷電粒子を加速し、中央に設けた磁場の強い部分で衝突させ、磁場封じ込めを同時に行うというのがこの技術です。

上の写真の中央は、最新マシン「コペルニクス」の動作を示すCGアニメの一コマで、左右から高エネルギー粒子(紫色に光っている)が中央に向かって発射された様子を示しています。一番下は、中央部で衝突して静止したプラズマ(紫色)の接線方向にニュートラル・ビームを照射して回転運動を与え、内外周で向きの異なる軸方向の磁束をプラズマが作るようにします。この中心部の磁界(矢印で表示)が外部磁界(これも矢印で表示)と逆向きであることから「加速器ビーム駆動逆転磁場配位(FRC)」という名前でこの装置を呼んでおります。

核融合反応

先日のブログで、様々な核融合反応をご紹介した折に、比較的生じやすい核融合反応としてp11B(軽水素:プロトンとホウ素11の反応)があることに言及いたしました。この反応にはホウ素11の存在が必要で、普通の核融合炉にはホウ素など存在しませんので、この反応も起こらないのですが、ホウ素11とプロトン(軽水素原子核)のある場合には次の反応が生じます。

1p + 11B → 3 4He + 8.68 MeV

この反応の素晴らしい点は、生成する粒子がヘリウム4(=α)であることで、炉壁を痛める中性子が生じない点が有利なポイントです。この原子核はα線とも呼ばれるプラスの荷電粒子であり、プラズマとして磁場に封じ込められます。ただ、8.68 MeVは、3つもα粒子を生成する反応の生むエネルギーとしては少々物足りません。重水素とヘリウム3の反応は、2D + 3He → 4He + 1p + 18.35 MeVと、なんと上の二倍強のエネルギーを生じます。生成物は上と同じα粒子ですからプラズマにエネルギーを与えますし、関与するアルファ粒子は一つだけ。重量あたりのエネルギー発生量は、D3He反応がp11Bの5倍程もあるのですね。

プラズマに蓄積されたエネルギーは、何らかの形で水やヘリウムなどを加熱して、その熱エネルギーを発電に用いるというのが一般的なやり方なのですが、同社の技術の驚くべきポイントは、プラズマの持つ運動エネルギーを直接電気エネルギーに変換するとしております。同社は「四重極」ということばをつかっているのですが、これがどのような構成かよくわかりません(判明部分を追記しました)。別の資料には「レクテナを多数配置する」と書かれております。レクテナとは、アンテナと整流器(レクティファイア)を組み合わせた、電磁波から直流電力を取り出すデバイスで、プラズマのエネルギーをマイクロ波に変換して、このエネルギーを直流電力として取り出すものと想像されます。(USP10,395,778に詳しい解説がありました。いずれ詳しく見ることとしましょう。)

6/7追記:荷電粒子が磁力線の周りを円運動しながら進むとき「シンクロトロン放射」と呼ばれる電磁波を放出する現象が起こるとのこと。これは、核融合炉の損失ということになるのだけれど、この電磁波をレクテナで受けて電力に変換すれば、ボイラーやタービンを使うことなく、プラズマのエネルギーから電力を直接得ることができます。これを利用しようというのがTAE Tech.社の戦略である様子です。

前回ご紹介した九州大学の松浦先生の解説によれば、シンクロトロン放射は荷電粒子の電荷が大きい時に強く出るとのことで、3つのアルファ粒子(4He++)を生じるp11B反応では特に強く生じると考えられます。一方で、荷電粒子が生成する反応は、荷電粒子がプラズマ中に取り込まれるため、そのエネルギーが自己加熱に寄与し、p11B反応で発生するすべてのエネルギーがプラズマを加熱しております。

ここはエネルギーのバランスが重要なところでしょうが、核融合反応でプラズマを加熱し、そのエネルギーをシンクロトロン放射で電磁波に変換して、これをレクテナで受けて電力に変換するというのは、一つの賢いやり方であるように思えます。(6/7追記ここまで)

(6/8追記)USP10,395,778を見ますと、回転するプラズマに沿って交互に向きの異なる電流を流した多数の電線を配置し、プラズマの回転軌道に蛇行する力を与えている様子です。粒子が蛇行しようとするとメインの磁界との作用でらせん運動を生じ、シンクロトロン放射が発生します。この電流強度を調整することで、シンクロトロン放射の強度を制御することもできる、ということの様子です。(6/8追記下図まで)

なお、p11B反応は、ITERや我が国で取り進めておりますトカマク型でも行うことが可能です。この場合は、重水素とトリチウムの代わりに軽水素とホウ素でプラズマを立てればよいのですね。また、この反応では中性子が発生せず、核融合で発生したエネルギーはプラズマ中に蓄えられますから、これを輻射熱の形で外部に取り出してもよいし、TAEと同様なマイクロ波の形で直接電力に変換することも可能ではないかと思われます。

TAEも、日本の研究機関と共同研究を行ったり、リニアタイプの核融合装置でDT反応にトライする計画を持っており、これらの技術は相互に置き換えできる部分も多数あります。新しい技術を開発する際には、あまり早い時点から道を狭めず、幅広い可能性に目配りしつつ取り進めることが大事なのですね。

TAEテクノロジー社の発展と我が国の問題

Wikipediaによりますと、TAEテクノロジーズ社の前身、トライ・アルファ・エナジー社は、1998年の設立ですが、2015年まではウエブページも公開しておりませんでした。2021年時点で8億8千万ドル以上の資金を調達し、従業員数も250人以上としております。資金提供は、ゴールドマンサックス社やマイクロソフトの設立者ら。資金力豊富な人たちがバックについております。

ヘリウム原子核がアルファ線ですから、この会社は最初からp11B反応を狙った企業でしょう。TAEという名称だってトライ・アルファ・エナジーの頭文字でしょうし。この技術の面白いところは、トリチウムも重水素も使いませんので、高エネルギー中性子が発生しないという点です。また、ホウ素も水素も普通にある元素ですから、燃料費も安い。おそらくは、トリチウムやヘリウム3を使う方式よりも安価にできるのではないかと思われます。

もちろん、TAE社もスタートアップということで、ある種のベンチャーであり、資金を集める目的からは良い話だけ外に出て、不安要素は隠されている恐れもないわけではない。盛っている、とまでは言いませんけど、、、TAE社のニュースリリースにあります摂氏5,000万度は、p11B反応には少々低すぎるような気がしますし、実際の到達点は、目的とする核融合反応の相当に手前のところであるのかもしれません。

しかし、このシステムで反応がちゃんと進むとなりますと、この技術は他の方式にとって強敵になる。もちろん、技術を評価するにあたっては、投入粒子の反応率など、種々の技術的データを把握したうえで行わなければいけませんが。

核融合を最初に成功させるという、学術的な目的からは、やりやすい方式で最短時間で開発を完了することが目的となるのでしょうが、経済活動として発電技術を開発するとなりますと、他方式との競争にも勝っていかなくてはいけません。

このような視点で物事を進めるためには、ありうる技術全般を比較検討して、最も経済的に優れた方式を選び出すという工程も欠かせません。

我が国は、研究者個人は優秀で、TAEテクノロジーズ社も我が国の研究機関と共同研究をおこない、あるいは日本人研究者をスカウトしたりもしているのですが、問題は、これをビジネスに結び付けていける人材が乏しい。我が国の研究開発は、技術のわからない人が舵取りをするような側面が多分にあり、そういうやり方では新しい技術の戦略的取り込みがうまくいかない。これが我が国の歴史であり、核融合技術に関しても同じ轍を踏むことになるのではないかと危惧される次第です。

で、我が国にお薦めの方向は、、、

日本がやるとすると、トカマク型の円管型プラズマ圧縮装置を用い、反応をD3Heとすることで炉壁の損傷を防ぐのがよさそうです。これは、我が国にトカマク型の運転経験が豊富であることと、マイクロ波加熱のためのキーパーツの製造能力もあることによります。

ITERと同じようにマイクロ波で加熱してスタートさせるけれど、運転後は反応熱を極力使ってプラズマの温度を維持する。マイクロ波による加熱エネルギーが節約できれば、それだけ外部に供給できる電力生産量が増えることになります。出力はシンクロトロン放射+レクテナの直接発電方式をいただく。炉壁はグラファイトなどで保護してヘリウムで炉壁を冷やし(熱を取り出し)、その熱で発電する。多分、低温での操業になりますので、有機ランキンサイクルが有利なのではないかと思いますが、このあたりは良く計算すればよいですね。

そして、このような形にすれば、高速中性子の問題も軽減されるし、出力もかなり取れて、運転も容易な核融合技術ができそうで、狙うは、小型でローコストの核融合炉ということになります。これなら、船舶の動力源にもなりそうですし、潜水艦や硬式飛行船へも搭載できるのではないでしょうか。

D3He反応では、高速中性子が出てこない代わりに、3Heをどうやって作るかという問題が生じます。これには、DD反応で作るという手もありますが、高速増殖炉を用いるのが最も効果的で、大量のリチウムをトリチウムに転換して保存し、年間5%がβ崩壊して3Heに変化するのを集めればよい。

高速増殖炉を運転する他の意味は、これまでの原発が作り出した放射性廃棄物の早期無害化(10万年→300年)にも有効ですし、まあ、大きな声では言えないのですけど、兵器級プルトニウムができてしまうという問題も、うにゃうにゃ、、、

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