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倫理・道徳・正義

7/28付けアゴラ記事「藤原かずえ講座/政治と宗教」へのコメントです。


倫理・道徳・正義の問題は、結構難しい問題で、その定義部分からの整理が必要です。これにつきまして、以下、簡単に述べておきます。

まず、正義は、ハーバーマスが「善[財]倫理」と呼ぶように(清水・朝倉訳「討議倫理」:法政大学出版局)、(広義の)財を介しての他者との関係を規定するもので、法が立ち入るのはこの部分なのですね。民法709条の不法行為「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」です。モーゼ十戒のうち、盗むなかれ、殺すなかれ、犯すなかれが、正義に該当する部分ともいえるでしょう。

倫理は、アリストテレスが重視するもので、人が良き人生をおくるにはどうすればよいかを教えるもので、「人はアレテーに即して生きよ」と彼は言います。ここでアレテーとは卓越性、得意とするもので、狩りの得意なものは猟師として、戦いの得意なものは軍人として生きるというのが一つ、これを進めて、人は動物にない卓越したもの(知性)に即して生きることを彼は勧めます。

これがヴィトゲンシュタインになりますと、倫理は彼の論理哲学の範疇外なのだけど、「倫理と美学は一つである」などと、ちょろっというのですね。結局のところ、倫理とは美学であり、ダンディズムであり、映画「カサブランカ」を見ればわかるように、美学に殉ずる男は女にモテる。それが倫理の礎というわけでしょう。

道徳は、カントの領域で、「なすべきこと、なすべからざることを命ずる心の内なる声」ということになり、ア・プリオリに定められた「定言命法」が重要であるということになるのですが、後の構造主義の教えるところによりますと、こういった価値観・道徳観は人が成長する過程で与えられる、社会的・文化的な規定ということになります。この部分は、異なる社会で異なる規定となりますので、注意が必要だ、というのですね。


7/29追記:ちきりんさんのその後のツイートに返信しておきました。

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