金子勇氏の11/24付けアゴラ記事「『脱炭素』をめぐる想像力の問題」へのコメントです。(追記あり)
エネルギーをめぐる議論は、一方向に偏った議論が多く、不毛な争いになりかねません。
FIT制度の裏には、あまり議論されていないのですが、「経験学習効果」という考え方がありました。これは、「製造コストは累積生産量に応じて低下する」という考え方で、特に半導体で著しいのですね。大画面テレビを思い浮かべていただければわかりやすいのですが、昔は1インチ1万円、つまり30インチのテレビなら30万円というのが相場だったのですが、今では30インチの液晶テレビなど5万円かそこら。1/6の価格に下落しているのですね。ソーラーパネルも同じ半導体分野に属しますから同じことが期待できるのですね。パネル価格が1/6になれば、発電コストもそれに応じて下がる、それまでをFIT制度でつなぎましょう、というのが裏にある考え方であったわけです。
ところが問題は、ソーラーパネルビジネスを中国に独占させてしまったこと。かつては、太陽電池といえば日本が先行していたのですが、太陽光発電に対して日本が消極的であったことから、海外メーカのリードを許してしまった。こうなりますと、経験学習効果の果実は中国企業にとられてしまうのですね。先進国政府が買取費用を負担しているにもかかわらず、です。
その他の問題は、個別に解決すればよい。奴隷労働が問題なら、輸入禁止措置も取り得ますし、近年のエネルギー問題は緊急避難的考え方も成り立つ。
問題は、エネルギー問題が長期にわたる戦略的問題であるにもかかわらず、それぞれの目先の損得だけを考えて、極端な議論に終始すること。これが、再生可能エネルギーに関しても、国の方針を誤ったものとしてしまう。結果的に敵に塩を贈る形となってしまいます。過ちを正すに遅すぎることはない。今からでも、関係者各位には、目先の損得を棚上げして、長期的視点に立った、合理的な議論をしていただきたいところです。
以下はブログ限定です。
「三洋HITの開発と20年前のGENESIS計画」というウエブページが面白い。一つには、製造コストなど、いろいろな問題を抱えつつも、我が国の太陽電池技術が、世界的なレベルに照らしても、かなり良いところまで行っていたということ、オイルショック後のエネルギー問題をどうするかという時代に、太陽電池が一つの解と考えられていた時代もあったのですね。
で、GENESIS計画というのがすごいのですが、これは、世界に点在する砂漠に太陽光発電所を設置して、超電導ケーブルで結ぶというもの。変換効率10%のソーラーセルを世界の砂漠の4%に設置すれば、人類が必要とするエネルギーをすべて賄うことができる、というものだったのですね。
この記事が書かれた2010年には、超電導技術や直流の電圧変換技術がまださほど成熟していなかったのですが、今日では、高温超電導も実用一歩手前まで来ておりますし、直流電圧の変換技術はEVやソーラーパネルでごく一般に利用されている。今日では技術的課題も相当に解決に近づいております。
そんな壮大なGENESIS計画なり、太陽電池の技術だったのですが、結局我が国では積極的な採用がおこなわれなかった。その理由は、明確には述べられていないのですが、送電網を押さえている電力会社があまり乗り気ではない。当時の電力会社は(政府を含めて)原発中心で固まっていたのですね。そして、太陽光発電を押していたのが、反原発を唱える人たち。太陽光発電があれば、原発などいらないではないか、という主張が唱えられた。だから、原発推進派からは、太陽光発電は目の敵にされたのですね。まあ、全人類の必要エネルギーを賄うGENESIS計画など、とんでもない、というわけです。
でも本当のことを言えば、原発と太陽光発電の組み合わせは、実に相性が良い。原発の作り出す電力は、夜間に余剰になる。これを処理するため、電気温水器の普及や揚水発電などを進めていたのですね。でも、太陽光発電なら、夜には発電しない。原発にしてみれば、太陽光発電との組み合わせが最大のパフォーマンスを発揮するのですね。この事情は、核融合発電の時代にも変わらない。太陽光発電は、この先も大いに推進してほしい技術であるわけです。
まあ、言いたいことはこれで尽きているのですが、もう一点だけ指摘しておきましょう。
太陽光発電の問題が種々あるのは確かでしょうが、現実の世界で太陽光発電が広く行われていることは認めざるを得ない。そして、中国製のパネルが多く使われている。日本は、一つの産業を失ってしまった。かつて技術的に光るものをもっていたにもかかわらず、なのですね。これは、一つの失敗といわざるを得ない。このような失敗を繰り返さないためには、目先の損得ではなく、大局的な戦略に基づく議論が必要だということ、これが上のコメントで述べたかったことです。
関係する文献がありましたのでご紹介します。「補助金効果と学習効果を考慮した新エネルギー技術の導入分析」、主に省エネ車への補助金と、累積生産台数の上昇に伴うコストダウンについて論じておられます。
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