増田悦佐氏の1/22付けアゴラ記事「世界一の金満国家なのに国民は窮乏化?」へのコメントです。
このエントリーは、いくつかの点で疑問がありますが、長大なエントリーの全体を限られたコメント欄で論評することは困難ですので、いくつかのポイントを絞ってご説明いたします。
まず、円高で輸出が困難になるというのは、今に始まった話ではないですよ。この問題が我が国の産業界を決定的に傷つけたのは、民主党政権時代の極端な円高によるもので、池田信夫氏がご紹介されていた日本の経常収支のグラフを見ればよくわかると思います。物の輸出入の収支を示す「貿易収支」は、2011年以降急速にマイナス側に転じてしまいました。https://agora-web.jp/archives/220617065854.html
これは、国内の工場の採算が取れず、海外に出る「空洞化現象」のためで、アベノミクスで極端な円高が修正されるまで続きました。工場の移転が貿易収支に現れるのに多少の年月がかかるため、2014年に貿易収支の赤字幅は最大となりますが、その後は回復しております。しかし、一旦海外に移転した工場は、多少の円安程度では国内に復帰せず、貿易収支は元のレベルに回復してはおりません。たしかに我が国は、カーボンファイバのようなハイテク素材では競争力があるのですが、それだけで貿易収支の黒字幅を拡大できていないのは実績が示すとおりです。
我が国は、エネルギーをはじめ多くの資源や食糧を輸入に頼っており、円安はこれらに対する支払を円ベースで増加させることは事実です。でも、貿易収支が黒字であれば、輸入以上の輸出があり、輸出側の収入が円ベースで増大する。国内工場の製品を輸出するのであれば、増大した収入の一部は人件費に回りますので、円安による輸入品の価格上昇をカバーすることができるのですね。
現在の問題は、多くの工場が海外に移転した結果、貿易収支の黒字幅が減ってしまっている。このため、円安による我が国の収入増が、以前ほどではないことが問題です。投資によるリターンを含む経常収支は黒字であり、外貨不足にはならない。でもこの収入は、企業や投資家へのリターンであり、働き手には帰りにくい。結局は、工場を国内に戻すことが、国民を豊かにするうえで必要なのですね。「働かざるもの食うべからず」の「べし」は、命令というよりは可能であり、「働かなくては食えない」という意味に解釈しなくちゃいけません。あたりまえの話なのですが。
ぜったいに働きたくないでござる。
働きたくないでござる