杉山大志氏の2/22付けアゴラ記事「核融合は今こそ原型炉建設の政治判断を」へのコメントです。
核融合実用化が速まることは喜ばしいのですが、果たしてITERの技術が(というよりも、DT反応が)、核融合発電に使われるかは、よく考えなければいけません。
DT反応は核融合の中では最も起こしやすい反応ですが、高速中性子がプラズマから放出され、炉壁を傷めるという問題があります。この中性子はトリチウム(T)の生成に使われるのですが、装置が複雑になるうえ、資源制約のあるベリリウムを使う点も問題です。
中国はヘリウム3(3He)を用いる核融合(D3He?)を計画している様子。D3He反応は生成物が荷電粒子である陽子(p)であり、プラズマ中にとどまり、炉壁を傷めない。3HeはTの崩壊で得られるのですが、Tは別途手に入れる必要があり、核分裂炉の中性子を利用して作ることになるのでしょう。(3Heは月面に大量にあるともいうのですが。)
米国のTAEテクノロジーズは、陽子とホウ素11(11B)のp11B反応を使う計画で、こちらの生成物は3つのα粒子(4He原子核、荷電粒子)で、中性子を生じないうえ、原料はありきたりの水素とホウ素で済む。ただし、反応温度はDTに比べて一桁高く、TAE社は加速したビームを衝突させるタイプの反応炉を計画しています。
DT反応は、もっとも容易であり、実用化は別として、成果(ノーベル賞級の!)を得やすいことが研究者には魅力的ですが、経済的意味を考えますと、ここは一旦ケーススタディをすべきところ。TAEの技術開発には我が国の核融合実験設備もかかわっており、情報は得やすい立場にある。急いては事を仕損じる。この格言を頭の片隅に置いとく必要がありそうです。
2/26追記:D3Heを狙ったスタートアップは米国のヘリオン社でした。ヘリオン社もTAEテクノロジーズ社と同様の、ビーム衝突型の反応炉を用いる計画です。
中国は、月面の3Heの資源化を狙った月面探査を繰り返しておりますが、3Heを用いる具体的な核融合炉の開発は、未だ明らかになってはおりません。
2/28追記:いくつかの計画についてまとめておきます。
・ITER:超電導コイルを用いたトカマクによるDT反応を狙う国際協力プロジェクト
・CFETR:中国の核融合プロジェクト、ITERと同一技術で、早期の発電開始を目指す
・コモンウエルス・フュージョン・システムズ(CFS):高温超電導コイルを用いた20Tの強力磁石により小型化を目指す。技術サポートはMIT。イタリアエネルギー大手「エニ」の他、ビル・ゲーツ氏、グーグルなども出資
・トカマク・エナジー(TE):古河電工製の高温超電導コイルを用いた球形トカマク炉を開発した英国企業。1億度の発生に成功している。
・ジェネラル・フュージョン:カナダ企業で、コンパクトトロイド(CT)プラズマを音響パルスにより圧縮する「磁化標的核融合」方式を開発中。実験炉は英国オックスフォード郊外に建設。ベゾス氏らが出資している。
・ヘリオン・エナジー:ビーム衝突型の核融合炉により重水素とヘリウム3の核融合を狙う米国企業。
・TAEテクノロジーズ:ビーム衝突型の核融合炉により軽水素とホウ素11の核融合を狙う米国企業。グーグル、ゲイツ氏、シェブロン、住友商事などが出資。
がんばれ水素