杉山大志氏の1/28付けアゴラ記事「核融合ベンチャーが10年で実現は本当か(文書)」へのコメントです。
いくつか情報を提供しておきます。まず、ヘリウム3は、現在ではトリチウムのβ崩壊で生成させるはずで、アルミリチウム合金に中性子を照射し、これを溶解して取り出されるトリチウムが半減期12.3年で崩壊して生成する3Heを用いるのが一般的でしょう。このようにして作られる3Heは、希釈冷却で極低温を発生させる目的で、現在でも研究機関などが利用しております。
p11B反応を用いる核融合を計画しているTAEテクノロジーズ社の方式は、線形加速器で原料粒子を加速し、衝突して生成するプラズマを磁場閉じ込めするというコンセプトの様子です。加速粒子の衝突であれば高い温度も比較的容易に生成することが可能で、核融合反応自体は起こりそうです。詳細が良くわかりませんので、投入エネルギー以上が出力されるかどうかの確認が難しいところです。
ITERは、DT反応で生成する高速中性子でLiをT(トリチウム)に転化する計画ですが、中性子が足りないため、ベリリウムを用いて中性子を増殖する計画です。ベリリウムは希少資源ですので、このやり方では資源問題が発生します。
トリチウムを別途原子炉で生成すれば、この問題は解消され、ブランケットの構造も簡素化されるのですが、なぜそうしないかは疑問です。あるいは、ITERの設備内ですべてが完結する形にして、研究のスピードを優先するということであるのかもしれません。
D3He反応は、生成粒子は陽子で、電気的に中性の中性子が生成しないため、発生するエネルギーがすべてプラズマ内にとどまります。これは、プラズマを高温に保つうえで有利であるほか、TAE社が計画しているような、シンクロトロン放射で外部に取り出されるエネルギーをレクテナで直接電力に変換する方式もとり得ます。またひょっとすると、高エネルギーの陽子を11Bと反応できるかもしれません。このあたりは各研究機関が取り組んでいると思います。
上記の点、いろいろ考えてみましたが、我が国は、核融合に関しては得難いポジションにありますね。
プレゼンで述べられておりますトカマク技術の蓄積があること、OECD諸国で唯一の高速中性子照射設備「常陽」を保有していること、高温超電導技術は日本の独壇場であること、プラズマ加熱に欠かせない大エネルギーマイクロ波発生管「ジャイロトロン」で先行していること、核融合研究の長い歴史があり、研究者の層も厚いこと、等々。
この得難いポジションは生かすしかありません。我が国では、ベンチャーでこれをやるのも難しいですから、政府が音頭を取ってやったらよい。どうするかにつきまして、上のコメントと併せてちょっと考えてみましょう。
まず、常陽をトリチウムなりヘリウム3の製造に使うことができます。これにより、核融合炉のブランケットは簡素化されます。我が国でトリチウムを扱うことには困難が予想されますので、ヘリウム3を燃料とするのが好ましい。これは、荷電粒子を生成するため、エネルギーがプラズマ部分にとどまり、中性子による炉壁の損傷も低下するメリットがあります。また、エネルギー取り出しをシンクロトロン放射で行えば、ブランケット部分での熱取り出しは最小になり、構造は更に簡素化されます。
D3He反応はDD反応よりも起こりやすいのですが、それでも少数のDD反応が起これば高エネルギー中性子が発生し炉壁を傷めます。プラズマ中のヘリウム3濃度を高め重陽子Dを低めとすれば、DD反応は抑制されるでしょう。反応が生じてもそれが少なければ害は少ない。さて、あとは、やるだけのような気もしますが、、
がんば