中村仁氏の6/17付けアゴラ記事「異次元金融緩和の最終的な出口は2、30年先か」へのコメントです。
苦々しく思っているのがイエレン米財務長官で「為替介入はまれであるべきだ。介入は過度な変動がある場合に限定され、事前に協議があるることが期待される」と、繰り返し述べています。財務省は介入の際は米国と協議するようなことを言いふらしてきました。それもやっていないのでしょう。
イエレン長官は本心では「為替介入なんかより、日本は劣悪な財政金融状態の是正に取り組むことが本筋だ」と考えているに違いない。正論です。つまり異次元金融緩和と財政拡張政策が招いた劣悪な状態を正常化しなければ、これから何度も円安の投機に見舞われるに違いない。イエレン長官はそう警告したいのです。
前半はその通りでしょう。為替水準というものは、国家の経済力に応じて定まるべきであり、人為的操作は最小限にしなくてはいけません。でも皆さんやりたがる。自国通貨安政策は、国内産業が強化される一方で、近隣諸国の産業が破壊される、近隣窮乏化政策と呼ばれております。一方自国通貨高政策は、物価が下がり国民が暮らしやすくなるポピュリストの政策なのですが、国内の産業が疲弊し、これを続けていると、いずれは通貨危機を招くのですね。
イエレン長官が心配したのはこのどちらでしょうか。日本の為替介入は、円安阻止であったわけですから、心配したのは後者、ポピュリズムであったわけです。これは、物価高に対する国内の不満が高まり、政府の支持率が低下している現状を見れば、心配されるのも当然であり、ひとたび日本円の通貨危機が発生した場合の世界経済への影響の大きさを考えれば、「ここは一言言っておかねばならぬ」と考えるのも、もっともな話です。
一方、上の引用部の後半は、正しいようには思われません。なにぶん、異次元金融緩和政策は、行き過ぎた円高を止めるためであり、これが奏功して「異次元金融緩和(2013年から)の直前の2011年の円の対ドル相場は1㌦=75円……それが2023年には一時160円(円安)まで下落」しているわけですから。75円/$といった極端な円高は、物価の低下を招き国民生活は楽になるものの、国内産業を疲弊させ海外への逃避(空洞化)を招いてしまいました。こういった状況がこのまま継続した場合には、いずれ投機筋に狙われて、円の通貨危機を招く恐れもあったのですね。
そもそも100-120円/$といった為替水準は、1985年のプラザ合意によるもので、当時考えられていた妥当な1ドル165円程度からも行きすぎでした。この行き過ぎに適切な手は打たれなかった。そして、日本国民は濡れ手に粟の給与高(物価安)を得たのですね。これは、実力以上であった。今日の「物価高」は、これを是正しているだけだということ。暮らしを楽にしようと思うなら、より効率的な仕事をするしかありません。そして、為替水準の適正化は、これを手助けするものとなる。これが現実です。
円安