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空洞化の原因は、円高?円安?

池田信夫氏の8/3付けアゴラ記事「アベノミクスを清算して企業の新陳代謝を進めるとき」へのコメントです。


以下の記述は正しいのでしょうか。ここが間違っていると、その先の議論も成り立たないのですが。

海外直接投資は悪いことではないが、結果的には黒田日銀は日本企業のグローバル化を急激に進めた。日銀が大量に供給したチープマネーは海外に流出して円安をもたらし、それによって産業空洞化が起こり、それがさらに円安をまねく悪循環が起こった。

まず、「円安によって産業空洞化が起こり」という部分が「円高によって産業空洞化が起こった」とする定説と逆なのですね。たとえばWikipediaの「空洞化」は、以下のように記述します。

(1) 1980年代後半、プラザ合意による円高を背景とした国内工場移転。(2) 1990年代中頃、円高を背景とした国内工場移転。(3) 2000年代、WTO加盟を契機に、コスト削減のため企業のグローバル化が進み、「世界の工場」として急速に台頭した中国など新興国への国内工場移転。(4) 2010年代、世界金融危機により各国の中央銀行が大規模な量的金融緩和を行ったのに対し、日本銀行による量的金融緩和が相対的に不足したために起きた円高を背景とした産業空洞化議論。

この(4)の「量的金融緩和が相対的に不足したために起きた円高」を修正したのがアベノミクスであり、黒田日銀総裁による大規模な資産買い入れであったのですね。そしてこの政策は相応の効果を発揮して、1ドル80円台の円高から120円付近の元の水準まで戻しました。とはいえこれも「失われた30年」を招いた円の強すぎる水準で、これだけでは国内への工場の回帰は生じません。

これらの経緯から見れば昨今の1ドル150円を上回る為替水準は歓迎すべきことではあるのですが、既に輸出産業の空洞化が生じてしまっている現状では、為替水準が輸出増に直結しない。いったん出てしまった工場が国内回帰するためには、海外立地を続けるよりも国内の新規立地が有利との判断が必要になり、ハードルが高い。まずは、新規工場の立地に際して国内有利の状況を保ち、産業の世代交代を待つ、長期的な視点が求められるところです。


(自己フォローです。)下記URLのエントリーを書かれていた2年前は、上の私の考えに近い主張を池田氏もされていたのですが、最近はここからかなり変わってきたとの印象を受けます。https://agora-web.jp/archives/220908032955.html 

全体を俯瞰する視点を失い、細部のみに注目してしまいますと、エッシャーのだまし絵みたいに、細部では整合性がとれているけど、全体としてはおかしい(数段の階段をのぼりながらぐるっと回ると元の位置に戻る、など)ということにもなりかねません。

研究者の意識は、細部にフォーカスしがちなのですが、ここは一歩引くということも大切なのではないかと思います。

1 thoughts on “空洞化の原因は、円高?円安?

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