池田信夫氏の9/20付けアゴラ記事「内部留保って何?(アーカイブ記事)」へのコメントです。
前回もいろいろ指摘しましたけど、今回もいくつか書いておきますね。
法人企業統計は配当と役員報酬以外をまとめて「内部留保」と分類しているので、経済全体では550兆円と大きいようにみえますが、大部分は図3で「その他固定投資」となっている項目です。これは実際にはほとんどが海外法人の「外部留保」で、2010年代に黒田日銀のゼロ金利による産業空洞化で大幅に増えました。
「黒田日銀の『大規模金融緩和』による産業空洞化で」とおっしゃりたいのでしょうけど、産業空洞化はその前の民主党政権時代の(白川日銀の)円高によって生じております。この部分、一度見直された方が良いと思います。この一文で、全体の信ぴょう性が著しく損なわれております。
図1でもわかるように、内部留保(利益準備金)は負債の内訳なので、借金に課税することはありえません。法人税は税引き後利益から払う配当に所得税をかける二重課税なので、内部留保課税は三重課税になります。
内部留保はバランスシートの右側、「貸方」で、これ全体を「負債」と称することもありますが、正しくは「負債+純資産」が「貸方」に相当し、内部留保は「純資産」に含まれます。つまり、「借金」ではないのですね。
そして、資産税は利益に課税するのではなく、バランスシートに残された資産に課税されるものであって、いうなれば「固定資産税」と同じ性格のものですから「二重課税」でも「三重課税」でもないのですね。「所得税を引かれた給与で物を買うと消費税をとられるのと似た話だ」、といえばご理解いただけますでしょうか。
原因と対策を見てみましょう。こちらも、池田氏の主張は、基本的には正しいのですが、おかしな物言いも散見されます。先ずは、以下の部分です。
その最大の原因は有望な投資機会がないからです。これが「デフレのせいだ」というのは因果関係が逆で、企業の資金需要が減るために貸出金利が下がり、ゼロに貼りついてデフレになるのです。それは国内市場が縮小し、法人税が高く、雇用規制がきびしいからです。
投資機会がないから社内にキャッシュが溜まってしまう。これは正しいのですが「デフレのせいだ」という時の「デフレ」とは何を意味しているのでしょうか。
一般には、デフレとは国内の経済活動が停滞し、物価が低下する現象を「デフレ」というのですが、「貸出金利が下がり、ゼロに貼りついてデフレになる」というのはどうでしょうか。これは、因果関係が逆なのではないでしょうか。つまり、経済活動が停滞して物価が低下したなら、中央銀行は金利を引き下げ経済の活性化を狙う。物価低下が金利低下の原因、というのが正しい。
一方、「円高=デフレ」という見方をするなら、「有望な投資機会がない」原因を「デフレ(円高)」のせいだというのは正しい。円高のため、輸入品価格が低下し、あるいは、日本からの輸出品が海外で競合する外国製品の価格が低下し、その結果、国内産業の競争力が失われて国内生産設備への投資が成り立たなくなる。これが円高による自国産業の衰退のメカニズムなのですね。
で、内部留保の問題が貯蓄超過、というのはちょっと外している感のなきにしもありませんが、要は国内への投資不足が問題であるというのはその通りです。そして国内投資を増やすためには、税金面での優遇もないよりはマシでしょうけど、最大の問題は、円高を解消すること、そして技術革新を起こすこと。この二つが最大のポイントです。後者は、1995年以来勃興した情報革命にキャッチアップすることが最大の課題だし、エネルギー問題や素材、医療などの喫緊の課題も、大きなチャンスと心得なくてはいけません。
ruho