有馬純氏の10/4付けアゴラ記事「グローバルサウスの論理:途上国が問い直す温暖化対策の未来」へのコメントです。
2050年にカーボンニュートラルを目指す、このために巨額の資金を投じる、という話が、資金負担に関しては諸説紛々だけど、技術面では何の疑問も持たれずに語られる。これは大いなる誤りであるように、私には思われます。2050年といえば、核融合技術実用化の可能性が相当に高い時代なのですね。なぜ、この技術開発に、より多くの資金を投じないのでしょうか。
人間にはステイタス・クオ・バイアスというものがあって、現状ベースで将来を見通そうとする。だけど、技術の発展は、ある日突然起こるもので、過去の常識が非常識になる。このような現象は、エネルギーに関しても多々起こってきたことなのですね。
かつて英国で鉄鋼業が盛んになった時、鉄鉱石の還元には木炭が使われた。このため、山という山の木が切りだされ、はげ山が広がりました。次いで石炭の利用が盛んになり、蒸気機関が発明されると工場という工場に石炭ボイラーが設置され、巨大な蒸気機関が工場の全動力を賄う時代となったのですね。次いで、蒸気機関はモーターとなり発電所が電力を供給するようになる。そして、米国、中東に油田が発見されると石油が石炭を駆逐する。
これらの変化は、山の緑を守ろうとか、石炭ボイラーの煙害を防ごうといった、社会正義を求める主張に応えるものであったかもしれないけれど、実際に変化をもたらした原因は新しい技術の進展だったのですね。温暖化だって、同じことの繰り返しになるのではないか、私にはそうなるとしか思えません。
そして核融合という代替技術はすでにある。現在は、科学者の先陣争いですから最も簡単なDT反応を狙う。だけど、高速中性子が炉壁を傷めるという問題があり、多少反応は困難だけどこの問題の少ない、D3He反応や資源も豊富なp11B反応なども検討されている。なぜこれらをもっと真剣に行わないか。それが大いなる謎であるわけです。
追加情報です。実は、これらプラズマにエネルギーが蓄積される核融合は、磁場に乱れを与えると「シンクロトロン放射」によりマイクロ波の形でエネルギーが外部に放出されます。
このマイクロ波は、「レクテナ」と呼ばれるアンテナと整流器をまとめたデバイスを用いれば直流電力にすることもでき、ボイラーや発電機、冷水塔が大幅に削減可能です。まあ、炉壁や排出ガスの冷却は依然必要ですから、冷却水も多少は必要ですが、その規模は大幅に削減されるのですね。
私が恐れるのは、「シンクロトロン放射」で発生するビームは絞ることができるということ。巨大なエネルギーを持つマイクロ波を狭い範囲に絞られたビームとして外部に取り出すことができると、このビームがあたった点で高熱が発生するということ。これってつまり「電磁砲」なのですね、
このような形のビーム兵器は、今日戦争の主流となりつつある、ドローンやミサイルに対する効果的な兵器であり、戦争のゲームチェンジャーとなり得る。そしてもう一つ不気味な点は、かつてD3He核融合を積極的に推進していた中国から、あまりこれに関するニュースが出てこないことなのですね。
まあ、何が起こるかは神のみぞ知る。だけど、核融合技術は、地球温暖化解決の鍵となるだけでなく、世界の経済を根底からひっくり返すだろうし、軍事の世界でも、この技術をものにした国が指導的立場を得ることになる。これらの点は、よく考えておかなくてはいけません。
水素