MechaAF氏が「メートルが上がる」と題して面白いことを書かれています。これに関して、ある時、「光学屋はなんて偏屈なんだ」と誤解してしまったことがありますので、本日はこれについて、ちょっと書いておきましょう。光学屋、一見偏屈なのだけど、ちゃんと理由がある。まあ、本質的なところでは偏屈なのでしょうけど。
メーターとモーター
以前、光学部品の開発を請け負っている小さな会社とお付き合いしたことがあるのですが、その時見せていただいたのが、絞りの開閉を調整するためのアクチュエータで、これを「メーター」と呼ぶと。
普通、こういうものを動かすのは「モーター」でしょうと思うのですが、よくよく見ると、たしかにこれは、「メーター」なのですね。つまり、電流計などの針のついたメーターと同じ構造をしている。
このような電気のメーターは、円筒形の磁石があり、この周囲に四角い枠に巻かれたコイルが置かれている。そしてそのコイルは、円筒形の磁石の中心軸に結ばれ、給電線を兼ねる二つのゼンマイばねで支えられているのですね。
円筒形の磁石はNS二極に着磁されていて、それぞれの極の中心にコイルの枠が向かい合うように置かれている。コイルに通電されると、電流に応じた力が発生し、枠が回転し、枠に取り付けられた針が、メモリの適切な位置を指し示すというのが、普通の電機メータの仕組みです。
カメラのメーターは、コイルが固定で磁石が回転するようになっていますが、原理は同じで、磁石の先に、絞りになる、薄い板が取り付けられている。これをメーターと呼ぶのは、たしかに間違ってはいないのですね。
そして歴史を紐解けば、昔はメーターは針を動かしていた。そして、手動式の絞りと連動する針が、メーターの針の横に見えていて、撮影者は双方の針の位置が一致するよう、絞りを回していたのですね。これならメーターは正にメーターです。で、絞りの動きが軽くなり、メーターの発生する力が大きくなったところで、メーターが直接絞りを動かすようになった、というのが歴史的な経緯でした。
これは、たしかに光学屋に一理あります。たしかにこれはメーターです。まあ、それは認めるのだけど、絞りを電気的に動かすところまで来て、今に至るまで、ずっと「メーター」で通す。これ、やはり偏屈者と呼ばれても仕方がないのではないかと思います。
P波とS波
地震などでP波とS波という言い方を良くしますが、これ、昔は「縦波」、「横波」といって、上下に振動するのが縦波、左右に振動するのが横波という区分だろうと、思っておりました。ところが、地震のP波、S波の意味は「Primary」「Secondary」、つまり、一番目がP波、二番目がS波だと。これはこれで偏屈なのですね。
実は私、昔から、Pは「perpendicular」、Sは「Surface」あたりじゃないかな、などと思っていたのですね。実は、磁気記録にも、垂直記録と面内記録なんてのがありますから。そしてこの理解と、地震のP波S波とは矛盾しないのですね。
物理の世界では、音は縦波だけど、電磁波は横波である、などということをよく言います。この場合の縦横は、進行方向に振動するのが「縦波」、進行方向に垂直な面内で振動するのが「横波」という意味なのですね。音も電波も空から降ってくるものを代表と考えれば、縦波が垂直で横波が地表面内となりますので、上の理解は正しい。
ところがまたしてもここに、偏屈な光学屋が登場します。彼らによれば、P波は「parallel」で「平行の意味」、S波は「Senkrecht(ゼンクレヒト:独)」で「直交の意味」なのですね。こんなところにドイツ語が出てくるのが偏屈なら、Pの意味がparallel(平行)とperpendicular(垂直)では、反転しております。
で、光学屋が並行、直交という時、何に対してか、が問題になります。これ、彼らが光学系を作図するときの図面(用紙)に対して平行なのか垂直なのか、ということを語っているのですね。光学系の図と言いますのは、一方に光源があり、レンズやミラーやスクリーンの断面図があり、この中を光がどのように伝わるかが書かれている。
この図面の面内方向に振動するのがパラレル(P)波、図面に垂直にこちらに飛び出したり引っ込んだりする形で振動するのがS(ゼンクレヒト:直交)波だと。まあ、そういう定義で皆さんやっておられるなら、傍から何を言うこともできないのですが、一言言っておきたいですよ。「偏屈!」と。
めー