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寧辺の軽水炉で何をしている?

長谷川良氏の8/25付けアゴラ記事「朝鮮半島に『ミニ・ロシア』が出現する日:深まる露朝両国の同盟関係」へのコメントです。(9/12:追記しました。)


江先と寧辺における未申告の濃縮施設の存在は、金総書記が兵器級核物質の生産計画を超過達成するよう指示したことを裏付けている。江先および寧辺のウラン濃縮工場が稼働を継続している兆候があり、また寧辺の軽水炉(LWR)も運転を続けている兆候がある。LWRの隣接地では、支援インフラの追加が確認された」という。

この「寧辺の軽水炉(LWR)」というところが不気味ですね。一般に、軽水炉では兵器級プルトニウム(Pu239)はできないといわれているのですが、これは単に、希望的観測と言いますか、「そういうことにしている」というだけの話であるように思えます。昨年初めに笹川平和財団から出された「北朝鮮の軽水炉が臨界に~軽水炉で核兵器級のプルトニウム製造は可能か?」によれば、かなり制限はあるけれどできないわけではない、としているのですが。https://www.spf.org/spf-china-observer/eisei/eisei-detail007.html

上の資料では、軽水炉はウラン235を5%程度まで濃縮した燃料を長期間燃やすため、不純物が多く、特にプルトニウム238240?)は、自然核分裂により発熱するため、弾頭部が高温になってトラブルのもとになるとしております。これを避けるため、短時間で燃料を入れ替えて純度の低下を防ぐとしているのですね。

でもこれって、劣化ウランのペレットを別途原子炉に挿入して中性子を照射すればよいだけの話であるように思えます。制御棒のホウ素の代わりにウラン238を使うわけですね。このペレットでは核分裂を起こさないようにすれば、不純物が増えることもなく、天然ウランの大部分を占めるウラン238から効率的にプルトニウム239を作ることができるのですね。

兵器級プルトニウムは、黒鉛炉や重水炉やガス炉でも作ることができるということなのですが、そういう中であえて軽水炉を運転し続ける理由が何か。それが気になるわけです。こういうことを書くと、北朝鮮に余計な知恵をつけかねませんけど、私が知っていることくらい、ロシアの科学者はとうの昔からご存じのはず。むしろ、トランプさんに聞かれたらバンカーバスターの出番、などということになるかもしれませんが、米国の学者にしたところで、とうの昔からご存じで、北側も安心して良いはずなのですね。


(9/12追記)Wikipedia「マグノックス炉」によりますと、寧辺の原子炉は「マグノックス炉」ということです。ただし、AI検索に問い合わせを行うと、「沸騰水型軽水炉」や「黒鉛炉」との回答もあり、実際のところはよくわかりません。マグノックス炉は黒鉛炉でもありますし、これとは別に軽水炉を稼働させた、というあたりが実際のところかもしれません。

マグノックス炉は英国が開発した「黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉」で、燃料被覆材にマグネシウム・アルミニウム合金(マグノックス)を用いていることからそう呼ばれると。そして、「電力と初期の英国の核兵器計画用プルトニウム239生産用のデュアルパーパスで設計された(Wikipedia)」ということですから、最初からこの原子炉、核兵器開発用のものだったのですね。マグノックス炉は運転中の燃料交換が可能ということですから、兵器級を生産する際には、短時間で燃料を入れ替え、プルトニウム239が240になることを抑制する、ということでしょう。

なお、Wikipediaの「『原子炉級』プルトニウム核実験」によれば、この原子炉で生成されるプルトニウムは(239Puの純度が低い)『原子炉級』だが、弱いながらも核爆発は可能であるとしております。

これはあくまで米国政府の発表に基づく記述であり、実際のところがどうであるかは確かではありません。あるいは、北朝鮮なりロシアなりの科学者が、もう少し改良された形で、兵器級プルトニウムを生産している可能性もないではない。油断は大敵と思わなくてはいけません。

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