小黒 一正氏の9/6付アゴラ記事「インフレの黒幕は財政か? “財政インフレ”の予兆」へのコメントです。(9/11:9/6付の元記事に追記しました。)
テレビや新聞などでは一般的に、現在のインフレは「資源価格の高騰や円安に伴うコストプッシュ型」と報道されることが多い。確かに一時はウクライナ戦争以降の資源価格上昇や円安の影響も大きかった。しかし、本当にそれだけの説明で十分なのか。
まず、原油価格は2025年9月初旬時点でWTI約63ドルと、ピーク時(2022年)の110ドル台から大幅に低下している。資源価格が下がっているにもかかわらず、日本のインフレ率は約3.1%(2025年7月、コアCPI)にとどまっている。
原油価格は下がっておりますが円安は進行しており、このご説明だけでコストプッシュインフレを否定することはできません。このエントリーでも後で「(金利の内外差)の結果として、円安圧力が継続し、輸入インフレを助長する循環が形成されている」としておりますしね。
円安を問題する際には、議論に先立って、ドル円はどの水準が妥当であるかを認識する必要があります。これは、失われた30年の原因とも関係いたします。結論から言えば、ドル円のあるべき水準は150-170円/ドル程度なのですね。これは、プラザ合意の頃に意識されていた妥当なドル円165円/ドルや、ルーブル合意で意識された行き過ぎた円高水準である150円/ドルによります。
我が国の失われた30年の一つの原因は150円を大幅に下回る円高であり、その結果生じた国内産業の国外退避と国内経済の落ち込みと税収の低下、内需拡大により景気を刺激するための国債発行残高の積み上げであったわけですね。最近になってデフレを脱却してインフレ傾向になったことは、最近のドル円が150円/ドル付近まで戻したこととも無縁ではありますまい。この水準を妥当として、維持すること、その結果生じるインフレには、為替に影響を与えない手段による国内経済の活性化でカバーする、これがあるべき経済政策ということになります。
為替に影響を与えない経済活性化は、1にも2にも新しい技術をモノにして生産活動を合理化することです。より少ない資源の投入で大きな価値を作り出す。これが豊かさを作り出す、基本なのですね。我が国にはこれを妨げている旧態依然とした社会制度や運営の在り方が多々残っています。これらを改革することが経済政策上も重要なポイントだと私は思うのですね。
(9/11追記)天然ガス価格の推移を以下に引用しておきます。天然ガス価格は、さほど下落していないことが読み取れます。
それにしても、日本の天然ガス価格だけが2010年以降急騰しているのはなぜでしょうか。この年に、東日本大震災と福島原発事故があったのですが、この高値がかくも長期間継続している理由が謎です。
なお、原油価格の方も、年次でみればそれほど大きな変化にはなっておりません。インフレ率は年次ですから、こちらで比較すべきではないでしょうか。為替変化を織り込んだ年次円建てのグラフも最後につけておきます。こちらはほとんど変化しておりません。
その他、物価には下方硬直性があることが知られております。原価が下がっても、売値は下げにくい。といいますか、原価が上がった場合は売値を上げないことには商売が成り立たないのですが、原価が下がった場合は、物が売れている限り、値下げする理由がないのですね。
値下げに追い込まれるのは、競争が激化して、値を下げなければ売れないような場合。それには、原価が下がって、この商売が儲かると世間に知られてからも、多少の時間がかかるのですね。まあ、お客様本位ですぐに値下げしている、良心的な商売人もおられるかもしれないのですが。
wa
価値