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台湾武力併合中国圧倒的有利説

遠藤誉氏の12/26付けYahooニュース「トランプが習近平と『台湾平和統一』で合意?」へのコメント、ブログ限定です。


中国による台湾の武力併合は、限られた条件下でのみ可能ということを、これまでこのブログでは書いてきましたが、そうではない、中国が圧倒的に有利であるとの説がYahooニュースにありましたので、本日はこの説を紹介し、二三コメントをしたいと思います。

台湾武力統合成功の可能性

この議論の前提となっておりますのは、「12月19日、シンガポールの『聯合早報』が台湾の元国防部副部長が『トランプと習近平は台湾平和統一に関して合意する』と述べたと報じた」ニュースにあり、なぜそうであるのかを考察したのが、この遠藤氏の議論であるとしております。聯合早報の記事に対する遠藤氏の記述は以下の通りです。

12月19日、台北では「中国戦略学会、国立政治大学国際問題学院・両岸政治経済研究センター、中国民族統一協会、中華民国忠誠同志協会」などの共催で「2026年 世界情勢フォーラム」が開催された。「聯合早報」はその日のフォーラムで、台湾の林中斌・元国防部副部長(民進党の陳水扁政権時代)が<トランプと習近平は両岸平和統一に関して合意する>と指摘したとと報道した。林中斌は李登輝政権下で大陸評議会副議長を務めたこともある。それだけに林中斌の発言は注目を浴びた。

トランプ氏が平和統一に合意する理由として、中国が軍事的に優位であるとしか考えられない、という問題がその前提にあります。中国の台湾に対する武力進攻が失敗に終わると予想されるのであれば、米国は従来同様、武力で中国の台湾進攻を阻止すればよいのですね。そうでないなら、米国不利の現実があるからに違いない。この点は、普通に納得のいくところです。

林中斌が「トランプと習近平が台湾平和統一で合意する」と言える理由としてあげた事実の中で、中国の武力が米国と同等ないしそれ以上であるとしている点が注目されます。

まず第一に、ニューヨーク・タイムズが12月8日に、「20年前ではアメリカが太平洋で台湾を防衛する力を持っていたが、今では状況が変わり、中国本土は、アメリカの高度な装備や兵器が台湾に到達する前に破壊できる十分なミサイルを保有している」と報道した点で、具体的には、超音速ミサイルが台湾に接近する米国空母を容易に撃沈できるという点なのですね。

第二に、デイリーミラーの以下の報道です。これは、米国側のシミュレーションと真逆の結果ですが、前提が異なればこういうこともあり得ると思われます。

イギリスの「デイリー・ミラー」は、現在のアメリカの戦争長官ヘグセスが、昨年11月7日のインタビューで、「過去12〜15年間にわたり国防総省が数え切れないほどの戦争ゲーム(シミュレーション)を行ってきたが、その結果は全て米軍敗退に終わった。中国人民解放軍は20分以内に15発の極超音速ミサイルを発射し、10隻の米空母が完全に破壊された」と述べていると報道した。

第三に、12月10日にイギリスの「デイリー・テレグラフ」が報じたニュースで、「2024年7月に米国とフィリピンが南シナ海で演習を行い、レーダー画面に静電気が突然現れ、GPS信号が妨害され、艦がその地域から撤退した」との内容です。こちらは、いわゆる妨害電波によりレーダーが無効化されたということで、これに対する対策は、米軍サイドでも十分にとられているのではないかと思います。ただし、電波に関しては、お互い手の内をさらすことを嫌っており、実戦に入る以前に能力のすべてを発揮させることはなく、この結果はあまり参考にはならないと思われます。

崩れる高市答弁の「前提」

遠藤氏はこの記事で、「トランプと習近平の現在の関係を考えたときに、このたびの台湾の元国防副部長の発言は、かなりの現実味を帯びている。」として、高市答弁が前提とした「台湾有事への米軍の援軍」がないため、高市答弁は意味を失うとしております。しかしそうであるなら、なぜ中国が高市答弁にあれほどまでの憤りを示したかが疑問ということになります。

ここで考えられる一つの仮説は、「中国有利」とのシミュレーションや各種予想の前提が、日本の米軍への協力が得られないことを前提としていたのではないかということ、そして、高市答弁によりこの前提が崩れてしまったのではないか、ということが挙げられます。確かに、石破政権であれば、台湾有事の際の日本の米国への協力は限定的となり、中国による台湾武力併合の成功確率は高かったとも考えられるでしょう。

だから中国は、これを前提に中国への武力侵攻の準備を進め、和戦両様の構えとしてトランプ氏との平和統合交渉も行っていた、ということではないでしょうか。しかし、中国にとっては予想外のことが起こった。しかもそれが三つ同時に起こってしまった。これが昨今の日中緊張関係の原因であるように、私には思われるのですね。

具体的には、石破政権から高市政権へとバトンタッチした。自民党政権としては、考えられる範囲で最も左寄りから最も右寄りに変化してしまった。高市氏の従来の発言を考えれば「台湾有事は日本有事」との認識を日本政府が示すようになるかもしれない。そして、高市氏の総理就任後のトランプ氏との蜜月ぶり、特に軍事面でのそれを見せられると、日本の対米協力は、相当に現実性が高いように思われてしまうのですね。

台湾有事の際に日本は動かないであろうとの予想は、石破政権なら十分にあり得たでしょうけど、中国サイドとしては、いつまでも石破政権が続くと期待するわけにもいかない。そして、高市総理誕生の目も否定できるものではないのですね。だから、岡田氏らの訪中に際して、高市氏のような右寄りの政治家の過去の発言を憂う質問がなされ、おそらく岡田氏らは「心配することはない、口先だけだ」といった返答をしていたのではないでしょうか。で、高市総理誕生後にこの確認を行ったところ、期待に反して、日本が軍事的にコミットすることもあり得る、との答弁が出てしまい、中国としては大いなる期待外れに終わった。その分、高市氏に対する反感が増大した、ということではないでしょうか。

ではどうなるか、そして日本はどうすべきか

高市総理誕生なくば、中国による台湾併合の可能性はかなり高かったものと思われます。第一に、軍事的には、日本の対米協力が滞り、米国による台湾に対する軍事支援が失敗に終わる可能性も高まる。そうなりますと、米国が台湾支援に後ろ向きの姿勢となり、平和的な台湾の中国への統合を目指すこともあり得たでしょう。香港のその後の動きを見れば、台湾市民としてはこれは相当に受け入れがたい。しかし、軍事的な負けが明らかであれば、トランプ氏としても、口当たりの良い「平和解決」の道を模索することは十分に考えられ、台湾も泣く泣くこれを受け入れる、という道がありそうなところでした。

一方、高市総理が誕生したという、現実の歴史においては、事態はかなり混とんとしてまいります。まず、米軍の台湾支援があれば、そしてそれに日本の適切な支援があれば、中国の台湾武力侵攻は失敗に終わる可能性が高い。しかし、トランプ氏がどうするかとなりますと、これを予想することは相当に難しいのですね。

一方の中国側にも、経済的な諸問題を抱え、国内の政治的安定性も必ずしも万全ではないという脆弱性を抱えています。だから、台湾統合を急ぎたいという事情もあるのですが、これにてこずることがありますと、政権批判が一気に高まる恐れもある。習近平がこの辺りをどう判断するかも予想の難しいところです。そうなりますと、日本はどうするか、という点が最大の問題となります。

まず、中国が台湾進攻などしないでくれるのが、日本にとっても、台湾にとっても、あるいは世界の大部分の人々にとっても一番良いケースであり、このためには、米軍有利の形を継続することが必要で、日本の対米協力の姿勢も崩さないことです。これは、現在の高市政権が採用している道であり、これを継続することが肝要と思われます。

第二に、中国軍が軍事面で優位となるポイントが、遠藤氏の分析でも明確に表れております。一つは、超音速ミサイルであり、もう一つは電波兵器なのですね。我が国は、この双方で、かなり良いポジションにあり、この先なすべきは、このプロジェクトをさらに力を入れて、可及的早急に装備することとなるでしょう。

ミサイルに関しては、現在配備を進めている「12式地対艦誘導弾能力向上型」の完成度を高め、早急に配備を進めることでしょう。これは、亜音速から超音速と予想されており、そのままなら迎撃可能ではありますが、一応のステルス性を備えており、電波兵器と併用して敵レーダーをかく乱するなどの作戦をとれば、十分な能力を備えることになるでしょう。

電波兵器に関しては、近年、高周波大電力の扱いが可能な、窒化ガリウム半導体(GaN)技術が進んでおり、これを用いた兵器をまず考える必要がある。具体的には、攪乱に強いレーダ、敵レーダに対する攪乱(ジャミング)などがあるでしょう。ジャミングはまた、近年急速に重要性を増しているドローンのコントロールを失わせることもできますし、敵側の通信を妨害することもできる。また、逆に攪乱に強い電波技術も必要で、これにはスペクトラム拡散方式や周波数ホッピングなどの技術を高めておく必要があります。

もう一つの電波兵器の可能性は、核融合炉の加熱用に開発が進んでおります、大電力マイクロ波発生装置(ジャイロトロン)で、現時点でこの開発に成功しているのは日本とロシアだけです。まあ、ロシアも成功しているのがちょっと困ったところではありますが、我が国はこの優位性を生かすべきでしょう。具体的には、敵兵器、例えばドローン、ミサイル、航空機、各種レーダなどに強力な電磁波を照射して、内部に使用されている半導体を破壊できるようにすることです。半導体製品がマイクロ波に弱いことは、電子レンジで他人のスマホを壊した、最近の事件からも理解できるでしょう。

今日の電子戦では、レーダーを破壊されては、ミサイルに対する迎撃も不可能になります。また、ミサイルも打てないということになりますと、使えるのは機械式の銃器だけということになり、前世紀の戦争しかできなくなってしまいます。こうなりますと、レーダーとミサイルが使える相手にとっては、まさに赤子の手をひねるようなもの。初戦で勝敗が決してしまいます。まさに先方が考えている、次の戦略をわが軍が採用することになります。これはベストなやり方だと思うのですが。

林中斌のコメント:まさか、「中国共産党は血を流さず、破壊せず、電磁的または非接触兵器を使って米軍を自動的に撤退させる」とは信じられなかった。中国文化は「戦わずして勝つ」戦術を提唱しており、中国人民解放軍の行動から判断すると、習近平は「決裂するやり方ではなく、政治的・経済的・心理的など超軍事的手段」を用いている。

圧倒的優位性を見せつけるというのは、戦わずして勝つ、一つの方法であり、我が国の現在の技術力は、十分にそれができるレベルにあると思うのですが。

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