室中善博氏の2/12付けアゴラ記事「トランプのUNFCCC離脱は『戦術』か『構造転換』か」へのコメント(ブログ限定)です。
エファリ論考と室中氏の主張
このアゴラ記事は、最近発表されたサミュエル・エファリ氏の論考の紹介と、日本の対温暖化政策はあるべき姿に関する提言です。同氏は、エネルギー安全保障や産業競争力の観点からEUの気候政策に批判的な論者で、トランプ大統領のUNFCCC(国連気候変動枠組条約)からの離脱決定は、後戻り困難な「構造的断絶」であると説きます。
これに対する室中氏の論点は次の通りです。
もし米国が距離を取り、欧州が内部矛盾に直面するのであれば、日本のカーボンニュートラルは「外圧への追随」ではなく、「国家戦略」として再定義されなければならない。理念を掲げるだけでは不十分である。制度の耐久性、電力価格の国際競争力、産業立地の維持、技術開発の方向性――これらを同時に成立させる設計力がなければ、堅持は空文化する。
そして、(1)エネルギー源の現実的再評価、(2)再エネの負担構造透明化、(3)日本型の脱炭素モデルを技術輸出と国際協力につなげること、の三点を主張します。これを私なりに解釈すれば、温暖化対策は急ぐ必要がない以上、再エネ補助金は見直す必要があるし、原発の推進も急ぐ必要はない。そして、日本型の将来を見通したエネルギー政策を立案して、技術輸出や国際協力につなげるべきだ、ということでしょう。
温暖化問題とエネルギー戦略
そもそも、温暖化の問題は、欧米のエゴを色濃く反映したものでした。温暖化にはよい面と悪い面があるのですが、人類にとって最も重要な食糧生産に関しては、温暖化はプラス面が大きい。ただし、今日の穀物主要産地であるヨーロッパと米国の生産量が低下する一方で、カナダやロシアといった寒冷地帯で穀物生産可能エリアが増大する。これは、欧米社会にとって受け入れがたい未来なのですね。
一方で、化石エネルギー資源はいずれ枯渇すると予想されております。現在知られた資源を現在のペースで使い続けた場合、石油天然ガスが50年後、石炭ウランが130年後には枯渇すると予想されております。これまでは、新たな資源が発見されて枯渇時期は先へと延びていたのですが、この先発展途上国の工業化が進みますと、消費量が増えて、枯渇時期が早まる恐れもあります。化石エネルギー資源枯渇に備えた技術開発を進める、そういう意味では、化石エネルギーに頼らないエネルギー獲得技術を開発する理由は大いにあるでしょう。
化石エネルギー資源が枯渇した時代に、人類はどのようにしてエネルギーを手に入れるでしょうか。これにはいくつかの可能性があり、その一つは、太陽光、風力といった再生可能エネルギーを用いるというもの。これらは変動の激しいエネルギー源であり、需要と供給のアンバランスを調整するために、他のエネルギー供給手段、または蓄電技術と組み合わせて使う必要があります。
もう一つのエネルギー獲得手段は核エネルギーで、今日の原子力発電で用いるウラン燃料(ウラン235)は、石炭と同様、130年後に枯渇すると考えられているのですが、高速増殖炉を用いれば、今日の普通の原子炉が燃料とはできないウラン238を、燃料となるウラン232に転化することができ、利用可能な資源量は一気に増大します。また、高速増殖炉は、今日の原発で発生した放射性廃棄物も燃料化し、その無害化時間を10万年から数百年に短縮するともいわれております。廃棄物処理という観点からも、この技術は積極的に進めるべきでしょう。
核融合は、海水中に無尽蔵に存在する重水素(D)とリチウムに中性子を照射して生成する三重水素(トリチウム:T)を燃料としますので、こちらも資源的には問題がなくなります。我が国は、これらの新しい核エネルギー技術を一刻も早くものにして、世界に技術や関連製品を供給するのが良いのではないかと思われます。これは、環境面での社会貢献でもあるのですが、それ以上に、経済的利益も大きいはずなのですね。
現行関連技術の向かうべき方向
まず再生可能エネルギーですが、太陽光発電に関しては、無理のない範囲で発電能力を増大しつつ、技術を磨くべきところです。昼に発電して夜間の発電量がゼロになる太陽光発電は、将来に核融合発電が主流となった時代も、昼夜の電力需給のアンバランスを補正する上で大きな意味があります。この技術(セルの技術と生産技術)は磨いておく必要があるでしょう。また、現時点でも、原発を電源に含める以上は、同じアンバランスが生じますので、これを補正する意味はすでに存在するのですね。ソーラーセルに関しては、現在中国の後塵を拝しているのですが、最近可能性が高まってまいりましたペロブスカイト型の太陽電池で状況を反転する可能性もあります。ここは頑張りどころといえるでしょう。
その他の自然エネルギー技術に関しては、経済性の高い技術を除いて、トーンダウンしてもよいと思われます。少なくとも、温暖化問題への比重が低下し、核融合技術にも一定の見通しが生じてきた以上、無理に再生可能エネルギーを推し進める必要はない。これらは、経済的に意味のある範囲での推進にとどめるべきと思われます。
旧来型の原発は、安全性が確保され、経済的に有利である範囲で取り進めるべきです。こちらも、地球温暖化防止への貢献に関しては、いったん棚上げとする必要があります。安全性に関しては、福島の事故で疑問符がついてしまったのですが、特に地震津波のリスクが高い地域を除き、今後20年といった短い期間を限定して運転を継続することには、さほどの問題があるようにも思われません。ハイリスク地帯としては、活断層の上、南海トラフ地震の被害が想定されるエリアなどが相当するでしょう。
高速炉に関しては、もんじゅの失敗でとん挫しているのですが、核燃料資源問題の会費、放射性廃棄物の無害化期間の短縮、トリチウムの効率的生産など、多くの利点がありますので、今後とも継続したいところです。熱媒として、ナトリウムの代わりにヘリウムを用いる高速ガス炉は、高温の熱源にもなりますので、高速炉の様々な特徴に加えて、水の熱分解という一種のエネルギー蓄積機能も兼ね備えますので、ぜひものにしたい技術です。
水素利用技術に関しては、将来の蓄電技術の一つに水電界で得た水素を蓄積、利用する可能性があることから、今日でも積極的に進める技術と考えられます。また、その利用は、水素だけでなく、天然ガスの主成分であるメタンやエタノールの形でも検討すべきと思われます。エタノールは、今日でもバイオエタノールの形で再生可能エネルギーでもありますし、そのまま自動車燃料として使えるほか、脱水反応により容易にエチレンに転化可能で、合成化学原料として幅広く活用可能なのですね。
我が国には、エネルギー資源を全量輸入に頼る上、産出国から遠く、輸送コストが高い、というディスアドバンテージがあります。原油に関しては大型タンカーによりこの弱点は解消されているのですが、今日利用量が増加している天然ガスは-162℃という極めて低い温度で液化して輸送されており、輸送コストも高いものについております。ガス生産国で天然ガスからエタノールを合成して輸送すれば、エタノールが常温で液体であることから、原油並みの大型タンカーで安価に輸送できるのではないかと思われます。またこの際、石炭コークスから製造した水性ガス(水素と一酸化炭素の混合気体)も合わせて反応に用いれば、より安価な燃料が得られるはずです。このような技術は、核融合とこれから複製する水素を利用する時代を先取りする形で、今日から技術を開発し、実績を積んでおくのも一つの手ではないかと思われます。
まとめ
最近、再生可能エネルギーに対する評価が低下するなど、エネルギー技術に関する従来の方向は、少々修正を迫られているように見えます。エネルギー技術は情報技術と並んで、世界経済の重要な基盤であり、しかも次の時代の主要課題となるものと予想されます。これは、エネルギー資源の枯渇や核融合という新しい技術の実用化を控えているからなのですね。
日本は情報技術で後れを取ってしまったのですが、エネルギー技術に関して同じ愚を繰り返すわけにはいきません。情報技術での取り組みが遅れた一つの理由に、我が国の情報技術の担い手が旧電電公社を取り巻く企業群で、新しい技術に後ろ向きという性格があったともいわれております。エネルギー技術に関しても、我が国の担い手は電力会社を取り巻く企業群であり、情報技術と同じ道を歩んでしまう可能性も多分にあります。
ここは、技術に保守的な企業群だけにこれらの技術開発をゆだねることなく、これら技術の世界の動向に遅れることの内容、適切な取り組みを政府主導で行っていく必要があるのではないでしょうか。そういう意味からも、我が国の様々な領域にある知恵を出し合ってこのテーマに取り組んでいく必要があるように思われます。