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物は言いよう、だと思うのだが

五十嵐直敬氏の8/15付けアゴラ記事「福島原発処理水の海洋放出を当事者目線で一考せよ」へのコメントです。


福島のトリチウムの問題に関しては、排出反対の主張に非科学的言説が多いことも確かなのですが、排出推進派の言説にも、怪しげな部分が多々ある。こういう主張は、信頼を失う結果ともなりかねませんので、大いに注意しなくちゃいけません。ここでは、いくつかのポイントを指摘しておきます。

たしかに人は大量の水を摂取・排出していますが、人体を構成する元素で量が最も多い元素も水素であり、トリチウムも人体に取り込まれるという点は忘れてはいけません。

もう一点は、放射性物質の危険性は発がん性であり、極低い確率であっても多数の人が被ばくすれば、長期間で少なからぬ数に害が出る。某枝野氏の「直ちに害があるわけではない」、ごもっともですが、だからよいわけでもありません。

公害問題は、個々の行為に害があるわけではないという点も気に留めておくべきでしょう。特定の排出行為が無害でも、多くの人が同じことをやれば被害が生じる。だから、単独では無害な行為も禁止しなくちゃいけない。

今回の問題は、蓄積された放射性廃棄物の海洋投棄という範疇に属し、プロセスで日常的に排出される汚染物質とは異なるという点に留意しなくちゃいけません。そして、これらをきちんと認識したうえで、今回のトリチウムが原発事故という例外的事態での排出であるために許されてしかるべきとの主張を展開すべきように、私には思われます。


8/16追記:食品(カリウム40)による被ばくに関して、厚労省の資料がありましたのでご紹介しておきます。

危険性のある「追加の」被ばく量として、累積100mSvという数値が出されており、人生100年を仮定すれば、「平時の」年間被ばく量(追加の)として年間1mSvという数字が出てまいります。これに対して、日本人の自然放射能による被ばくは年間で平均1.5mSvであると上記資料は述べて、以下の図を提示しているのですね。

自然放射能による被ばくは「追加の」ではありませんが、実際のところ、これによる被ばくも発がんの原因になり得る。別に追加の被ばくが累積100mSvを超えたら突然がんになるというわけではなく、被ばく量の増加に応じて発がんリスクが高まるわけですから、それ以下だから安全というわけではない。

だけど、自然に被ばくしてしまうということは、この地上で生きている以上避けることはできない。そしてこの程度の発がんリスクであるなら、受忍限度に収まるだろうと考えられているのですね。カリウムは人体に必須の栄養素でもありますし。

まあ、日本人の半分はがんで死んでおりますから、すべてのがんの原因が被ばくではないにせよ、自然放射能による被ばくも、結構な数の犠牲者を出しているのではないかと思います。でも、繰り返しになりますが、それが自然というもので、人間の運命だ、ということですね。

そういう事情にかんがみれば、K40の被ばくがあるから(上の図では食品の年間0.41Svのかなりの部分がK40)他の「追加の」被ばくだって問題ない、という言い方は成り立たないのですね。

その他、大気中のラドンによる被ばくも、ラドン濃度が高い住宅や蛍石鉱山などで発がんリスクを上昇させることが知られています(ICRP報告書)。日本では、ラジウム温泉などがラドン源になりますので、注意が必要ですが、こういった分析は温泉の評判を傷つける恐れもあり、なかなか実行に移せないという事情もありそうです。まあ、問題があったとしても、規模が小さいと予想され、あえて無視するのもまた妥当な対応であるのかもしれませんが。

いずれにせよ、他に似た被ばく要因があるから、トリチウムは問題ない、という主張は成り立たないという点には、注意が必要です。

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