池田信夫氏の8/26付けアゴラ記事「処理水問題の10年で日本が失ったもの」へのコメントです。
海洋投棄をおこなわないトリチウム水の処理に関しては、2016年の段階で、技術的なめどはほぼ立っておりました。
同年発表された「トリチウム水タスクフォース報告書」53頁のKURION社の提案は、既に完成された重水炉冷却水からのトリチウム除去技術をベースとする、完成度の高いプロセスでした。このプロセスに関しては、実際のパイロットプラントで動作を確認されており、80万立方メートルの汚染水処理に$1.16Bを要するとの見積もりも出ています。
この方式の詳細は、プラズマ・核融合学会誌2016年の小特集「トリチウム分離・濃縮技術」の中で、東工大原子炉工学研究所の竹下さん他が「電解‐水/水素同位体交換法を用いた汚染水からのトリチウム除去」と題する論文を発表され、「水・水素化学交換プロセスの交換反応塔は塔径6.3 m,塔長9 m と評価され,大型ではあるが同位体分離プロセスとしてはリーゾナブルな規模でトリチウム回収が可能である」と結論されております。
KURION社の方式であれば、1万倍に濃縮した後は、現行の重水中のトリチウム除去プロセスでトリチウムを取り出すことも可能で、最終的に50ℓの金属吸着剤中に安定に保つことができる。これをやっておれば、現在のような問題も起こさず、既に6年ほどの運転がなされていたはずなのですね。なぜこれを実施しなかったのか、私には、非常に疑問に思えます。
「必要なのは科学的な議論」と、トリチウムの安全性に関しては声高に叫ばれていますけど、トリチウム除去の技術に関しても、『科学的な議論』がもっとなされてしかるべきだったのではないでしょうか。
福島のトリチウム汚染水からのトリチウム分離もご参照ください。
水素