岡本裕明氏の12/18付けアゴラ記事「クズネッツの『世界の4つの国』:日本がアルゼンチン化しないためには?」へのコメントです。
1960年の日本は、池田隼人総理が所得倍増計画をスタートさせた年で、この計画が見事成功して我が国の国民所得は倍増したのですね。でも、これは1960年の貿易自由化という、ある意味我が国経済を壊滅させるかもしれない危機と同時進行しておりました。戦後の混乱から朝鮮動乱で回復した日本の産業は、世界から貿易自由化を迫られ、GE、GMなどの巨大企業を抱える米国に対して幼児も同然の日本企業は敗退するのではないかと危惧されていたのですね。
でもここで、日本企業は頑張って、10年後には、世界を相手に対等以上の戦いをするようになった。似たような話は明治維新の直後にもあり、世界の列強に迫られて開国はしたものの、長期にわたる鎖国により、近代的産業をほとんど持たない日本は欧米に蹂躙される可能性も危惧された。でもそれから急速に欧米の技術にキャッチアップし、アジアでは例外的な、列強の一員とみなされるまでに成功したのですね。1905年にはロシアとの戦争に勝利を収めております。
西欧の資本主義の成立には、プロテスタントの天職(ベルーフ)意識があったとマックス・ヴェーバは彼の著「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」に書きます。おのれの能力を生かして職業で稼ぐことは、神の道に適うことであると、彼は説くのですね。この結果、プロテスタントは勤勉に励み、西欧の資本主義経済を発展させてきたわけです。
一方の日本の経済的成功の裏には、幕藩体制時代に普遍化した「御奉公の精神」があったと多くの人が指摘します。富永健一著「マックス・ヴェーバーとアジアの近代化」やロバート・ベラーの「日本近代化と宗教倫理」などですね。後者は、青木保氏が「『日本文化論』の変容」の中で紹介されています。御奉公の精神は、江戸時代には主君に対し、明治以降はお国に対し、そして戦後は己の務める会社に対して勤勉という形で発揮された。
アルゼンチンや、ヨーロッパで問題となりましたPIIGS諸国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)などは、気候温暖で農業の盛んな土地。人々は享楽的に生きてしまった。自然環境の厳しいプロテスタント諸国とは対照的に。ならば、日本がどうすれば危機から逃れることができるかは明白なのですね。額に汗して働くこと。勤勉。これしかありません。
アルアル