池田信夫氏の9/14付けアゴラ記事「高橋洋一氏の知らないアベノミクスの『自国窮乏化』」へのコメントです。
このエントリーでは、国内産業の海外移転の原因を「過剰流動性」によるとしておりますが、通常の見方は「円高」をその原因としております。自国通貨上昇によりドル建て賃金が上昇し、人件費比率の大きい産業は国内での生産が成り立たず、海外逃避による企業存続を図ることになります。
例えばWikipediaによれば、産業空洞化として、「(1)1980年代後半、プラザ合意による円高を背景とした国内工場移転、(2)1990年代、円高を背景とした国内工場移転、(3)2000年代、…中国など新興国への国内工場移転、(4)2010年代、電子・電気製品に代表される競争力喪失、(5)2010年代、日本銀行による量的金融緩和が相対的に不足したために起きた円高を背景とした産業空洞化」の5点を挙げておりますが、このうち(1)、(2)、(5)の原因を円高としております。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E6%B4%9E%E5%8C%96
このエントリーに掲げられた「実質賃金指数の国際比較」では、我が国の賃金は下がる一方となっており、円高による人件費増加と矛盾するように見えますが、円高によって人件費の高い産業が国外逃避した結果、工場労働などの高賃金の職が我が国から失われ低賃金雇用の比率が増えたためにこういう結果になっております。これでは、国内の消費が増えるわけもないのですね。
アベノミクスで極端な円高が修正されたことは、空洞化の進行を防止する効果はありましたが、産業の国内回帰には至っておりません。工場の移転には巨額のコストが伴い、一旦出てしまった工場は、為替が元に戻っただけでは国内回帰しない。もともと1ドル150円を超える円高は日本の実力以上と考えられており、アベノミクスで戻した120円程度は全然不足しております。
国内の高賃金雇用を増やすためには、国内での価値創出を増す必要がある。それには、旧来の産業を国内に戻すことは難しく、新しい産業を国内に起こす必要があります。これは、情報サービス、高度な電子機器・部品といった情報革命を支える産業のほか、エネルギー産業という今後の成長分野をモノにしていく必要がある。そのための、高度人材活用ができる国内の制度・体制を整備しなくてはいけないのですね。