不確実性をめぐる問題について、これまでいろいろと書いてきましたが、ここで、一つまとめてみましょう。
まず、「時間」、ですけど、時間は座標軸の一つであり、空間軸と同じです。
時間軸が空間軸と異なる点は、どの方向に離れていても、過去は知ることができるけど、未来は不確実であるという点です。つまり、不確実性が時間軸の一つの特徴です。その他に、「拡散」というのが時間の方向を決めるということもあるんですけど、これは、ちょっと脇においておきます。じつは、これも、不確実性と関連しそうですけどね。
現在、あるいは未来の出来事は決まっているのか、まだ決まっていないのかという議論がありますが、これは、意味のない議論です。
なぜなら、真実は時間が経っても変わらないはずですけど、現在はいずれ過去になりますからね。つまり、「現在」は、今なら7月11日の午後6時なんですけど、そのときの出来事は、今決まっていないにせよ、明日になれば決まっているはずで、真実が一つであるとするなら、現在の出来事も未来の出来事も決まっていると言うしかありません。
しかし、我々は未来の出来事を知ることができない。正確に言えば、知ることができるのは、ほんのわずかでも過去の出来事に限られ、厳密に「現在」の出来事すら、知ることはできません。知ることができないことは、確率的に議論するしかない、
ならば、それが決まっていた所で、我々にとっては、決まっていないのと同じことです。つまり、時の流れに普遍の真実としては、未来の出来事も全て決まっているんですけど、今を生きる我々にとっては、未来の出来事は不確実で、確率的に議論するしかない、つまり、決まっていると考えることはできない、ってわけですね。
さて、「不確実性を減少させるもの」が「情報」の定義です。で、時間との関連性で分類すると、情報には二種類ありまして、時間の経過によって減少する不確実性に関するもの、つまり、新たにわかったこと、といった情報と、法則性を見出すことによって減少する不確実性に関するものがあるんですね。前者を、私は、ダイナミックな情報、後者をスタティックな情報と名づけました。
ウインドウズのゲーム「マインスイーパー」では、目を開くことによって減少する不確実性、(開いた目に書かれていた情報)と、既に開いている目から推理することで減少する不確実性(必勝法という情報)があるんですね。
ファインマンは「科学の本質は不確実性である」なんてことを書いていますけど、判らないことを探求するから研究なんであって、当たり前の話だとも言えるでしょう。で、このときの不確実性は、スタティックな不確実性である場合が多い。つまり、自然界の法則性を発見するのが科学の主流なんですね。まあ、天候や地殻変動など、自然現象の記録をつけるのも科学の一つで、これらはダイナミックな情報を扱ってますから、全部が全部、スタティックというものでもないですけど。
一方、マスコミや、インターネットでも、情報が次々と流れてきますけど、この情報は、大抵は、新しくわかった出来事「ニュース」でして、ダイナミックな情報ですね。
「ビジネスの本質はリスクをテイクすることである」とも言われてますけど、リスクは不確実性に関わり、企業は情報をつかむことでリスクを減らし、競争に勝って利益を得ることができるんですね。このときの「情報」は、ダイナミックな情報もあれば、スタティックな情報もあります。営業担当者が取ってくる情報はダイナミックな情報の場合が多いだろうし、研究所のエンジニアが発見する情報はスタティックな情報である場合が多いでしょうね。
さて、何でこんなことを今になってまとめてみようか、という気になったかといいますと、最近、計算機で乱数を発生させてシミュレーションをやってみたからです。
乱数というと、次にどんな数字が出てくるかわからない、というのが普通でしょうけど、実は、計算機で機械的に発生させる乱数、毎回、決まった数字が出てくるんですねえ。そういえば乱数表を読んで作った乱数も、乱数表が同じなら、同じになりますね。
だから、特別な細工をしないと、シミュレーションの結果は、何度やっても同じになります。なんか、インチキもできそうですね。(それをやっちゃあ、シミュレーションする意味がないが)
一方、放射性物質の崩壊などを利用した、真の乱数発生器も提案されています。この乱数と、普通に計算機で作った乱数、その不確実性は、ダイナミックとスタティックの違いということになるんですけど、実用的にはほとんど同じに扱えます。
まあ、そうなるように、計算機のプログラムを組んでいるので、当たり前といえば当たり前ですけど、実用の世界では、不確実性がスタティックかダイナミックかということは、それほど大きな差にはならないんでしょうね。(哲学的問題、と言えばよいのだろうか)