二つ前の日記で、
正確に言えば、知ることができるのは、ほんのわずかでも過去の出来事に限られ、厳密に「現在」の出来事すら、知ることはできません。
なんて書きましたけど、これは、アインシュタインの「現在」、「過去」、「未来」の定義でもあります。
知ることができるのが「過去」、作用を及ぼすことができるのが「未来」、どちらもできないのが「現在」ですね。で、光速よりも早く作用を伝えることができないため、観測者から離れた点では、現在の時間幅が広がっている。
まあ、アインシュタインは、原理原則で押してくるんですけど、ここでは、もう少し現実的な議論をしましょう。
じつは、どんな測定にも誤差が含まれまして、短時間で測定しようとすると、誤差が大きくなるという問題があります。これ、不確定性原理に似てますけど、ここで議論しているのは、もっと実用的な話です。
あ、周波数の測定に関しては、不確定性原理との関係が指摘されていますね。つまり、信号の周波数を測定しようとすると、測定時間が長いほど、測定精度は高くなるというわけです。昔、NHKの技研公開を見学したとき、音声のスペクトルを表示する装置を展示していました。これを見ると、短い音のスペクトルは、確かに幅の広がった形になってしまいます。ふむ、周波数は、物理的にはエネルギーに対応してますから、時間とエネルギーの間の不確定性ですね。
ま、それほど原理原則に近くない所でも、長さを測るにしても、目盛りを読むための時間が掛かります。ノギスを、あまり勢いよく測定対象物に当てると、測定対象物が変形してしまいます。電気的に測定する場合も、余り短時間では、ノイズが入ってしまいます。
電気的情報は、電荷(=電流×時間)の形で伝達され、ノイズも電荷として信号線に乗ってきます。だから、遠距離の信号は、大きな電流を流すようにして伝達します。同じ信号を長時間送れば、信号の電荷は時間に比例して増大するのに対し、ノイズは互いに打ち消しあい、信号に含まれるノイズの割合は、時間の平方根に反比例して減少します。
測定に時間がかけられるのであれば、何度も測って平均したり、フィルタをかけて、ノイズを除去することができます。
ノイズを除去するフィルターで、一番簡単なものはローパスフィルタで、入力信号を、抵抗を通してコンデンサに結んで、作ることができます。これは、一種の平均をとる操作で、等比級数的な重み付けをして平均していることに相当します。
信号が変化している場合、ローパスフィルタを通した信号は正しい値にはなりません。ローパスフィルタの時定数を短くすると、高速で変化している信号にも追随できるようになるのですが、そうすると今度はノイズが取りきれなくなります。これも、不確定性原理とよく似た話ですけど、これらの間に直接の関係はないはずです。
一方、信号の動きを含めたフィルタを構成することもできまして、信号がどのような物理法則によって動いているかというモデルを含めてフィルタを設計すると、フィルタの時定数を長くしても、動きのある信号に比較的良く追随し、ノイズも充分取ることができるようになります。この場合、フィルタに含めてやる物理法則は、スタティックな情報ということになるのでしょうね。
スタティックな情報を利用した計測は、いろいろな分野に利用されています。電子体温計は、普通ならセンサの部分に熱が伝わるまで、時間をかけて測る必要があるのですが、センサ部分の温度の上がり具合から、外の温度を計算することができます。これを利用すると、スピーディーに体温を測ることができます。
経済の世界でも、季節変動を除去した経済指標が使われています。「にっぱち」といって、2月と8月は景気が悪くなるのですが、その悪くなり具合が判っていれば、これを補正することで、毎月の指標を得ることができるわけですね。