今の世の中、技術が進歩したもので、素人には何がなんだかわからない、というものが多くなりました。電子機器にしても、ラジオくらいまでなら何とか仕組みがわかるのですが、テレビとなるとお手上げです。コンピュータと来た日にゃ、中身が判って使っているヒト、ほとんどいないでしょう。
こうなると、その道の教育をみっちり受けた、専門家の出番なんですね。この専門教育という奴、科学が発達した近代から盛んになったのですが、それ以前は、職人の世界、技は盗んで覚える、といった世界だったんですね。
職人技、なかなかヒトには説明できない、いわく言いがたい部分が多い。それが近代になりますと、現象の根源を探り出し、数式を使って説明する、こういった科学の成果、勉強さえすれば、誰でも身に付けることが出来ます。
暗黙知から共有知への変化です。知識が情報として流通するようになります。これが、近代以降の工業の発展に大きく寄与したことは、疑う余地もありません。
で、今の世の中、科学、学問が幅を利かせているのですが、経営の世界では、昔の職人のやり方が、まだ根強く残っています。まあ、中小企業とか、小さな商店では、経営のエキスパートなど望むべくもありません。でも、かなり大きな企業でも、経営者の勘に頼った経営が、幅広く行われています。
これ、ちょっとまずいのではないかと思うのですね。
今の時代、経営上の意思決定に関わる知識が積み重ねられており、しかも、人類に共有された知識、学問的成果として流通しているのですね。それを無視して、大きな組織を動かす、コレは極めて危険なことでもあるのですね。
もちろん、経営には経験が必要、学問だけでどうなるものでもない。でも、過去の多くの経験を分析して積み上げられた結果、無視するのと利用するのでは、その差は大きい。経済の世界は競争社会、特に現在の企業社会では、小さな差が勝ち負けを決めてしまう。
もちろん、トップが経営の天才なら、学問は不要、でもたいていは、トップといえども普通のヒト、公開された知識の活用、多分、役に立つはずですね。
最新の経営技術を取り入れて成功した企業の一つが花王、だと思います。この会社のヒトが書いたマーケティングの論文、私も見たことがありますけど、ま、社内でも、統計的、定量的アプローチを経営に取り入れているのでしょう。
この会社のコンピュータシステムは有名でした。後にサプライチェーンマネージメントなどというコトバが広がりましたけど、そんな言葉のない時代から、同じことをやっていたのですね。コレじゃ、普通の企業、敵うわけがありません。
最近では、技術革新が会社の命運を決めるということで、MOT(マネージメント・オン・テクノロジー)なんてことも注目されています。今私が読んでいる論文、新製品開発の初期の段階で、意思決定を如何に行うか、なんてことを論じているのですが、こんなテーマでも、ものすごい数の研究がなされているのですね。
これを直感だけで決めるような企業、果たして大丈夫なのでしょうか。他人事ながら、ちょっと心配になりますね。
こんな不安を吹き飛ばす方法は簡単。勉強をすれば良いのです。会社としては、社員を教育すること、教育機関に派遣する、などの手がありますね。
ぼやっとしていたのでは企業も生きてはいけない。日本の企業を取り巻く環境も、人生を謳歌できる南国のような環境から、厳しい自然と対峙する北国の、そんな厳しい環境に変わってきたのですね。そんな時代に適応すること、コレが今日の企業経営の、一つの課題でもあるのでしょう。