昨日の朝日新聞にJALの不当運賃表示の記事が出ていました。岡山=東京の割り引き運賃、東京発岡山行きの運賃だけが安くて、岡山発東京行きの運賃は高い、というわけですね。で、往復とも安いと勘違いするお客が出る、と、まあ、これは公正取引委員会のイエローカードを受けたわけです。
A=BもB=Aも、普通は同じ意味ですが、岡山=東京は、東京発岡山行き、という意味のようです。まあ、計算機のプログラムを書く人なら、B=Aは、値Aを領域Bに代入する、と解釈、JALの人達が、A地点からB地点まで(ふ、古い~)、という意味に解釈するのだ、と言い張るのも、全くのでたらめ、というわけではないのですが、これはちょっと強引でしたね。
どうも、最近、この手の、まあ、極論すれば(あるいは、普通に言っても)詐欺と言えそうな事例を多々目にいたします。で、これを一括りにいたしますと、顧客の錯誤を利用して稼ぐ、というある種のビジネスモデルが浮かび上がってきます。
最近の世の中を騒がせている一例が、振り込め詐欺。まあこれは、裁判になるなんて、空恐ろしい手紙が付いてくるから問題になるのであって、一見普通の事務的な、会費の請求書などですと、払ってしまうかも知れません。で、その送り先は、同窓会名簿や学会の名簿から簡単に手に入るのですね。この場合は、会費の名目も簡単にでっち上げられますね。
あ、これはあくまで、ある種の詐欺的なビジネスについて考察する、至極まじめなレポートでして、詐欺の方法を伝授するものではありませんので、そのお積りでお読みください。まあ、ある程度の材料がまとまったら、本にしたら売れるかも知れません。題しまして、
「客の錯誤で稼ぐ99のビジネスモデル---良い子は真似をしないように---」
なんてのはどうでしょうかね。まあ、99も見付かるかどうか、少々自信、ないのですが、、、
さて、学術研究らしく、まず、この手のビジネスが紹介された古い文献に当たりましょう。実は、夏目漱石が、この手の詐欺について書いておりまして、漱石の時代の最先端販売技術であります割賦販売、これを利用した詐欺が提案されているのですね。
この方法、たとえば10回払いで物品を販売したとしましょう。顧客の元には、毎月、請求書と振込用紙が送られてきます。で、毎月支払うわけですが、ポイントは10回を過ぎても、なお、請求書と振込用紙を送る、というわけです。なにしろ顧客、毎月払っているものですから、払うのが習慣になってしまって、10回を払い終わっても払い続けるのではないか、と。
この方法、現在でも使えそうですね。なにぶん、証券会社は、気の遠くなるような株式の売買を日常的に誤発注しているそうですから、請求書の送付ミスぐらい、そこらじゅうで起こっていても、何の不思議もないのですね。コンピュータプログラムのミスなら、10回を11回に間違った、なんてことは、得てしてありそうなものです。比較演算子を書き間違えれば1回の狂いは簡単に生じ得るのですね。
で、中には目ざとく、ミス(?)に気が付いてクレームをつけてくるお客がいるはずです。そんな場合は、振り込んだお金を返金した上、丁重な謝罪文と500円のクオカードでも同封して送っておけば良さそうです。こうしておけば、クレームをつけた顧客も、なんて良心的な会社だろう、などと思ってくれる、かも知れませんね。
もう一つの例は、今日の銀行が、当たり前のように行っていることなのですが、良く考えると、これも顧客の錯誤で稼いでいる、一つの例です。
最近のキャッシュカード、ICカードというものが出てまいりまして、キャッシュカードだけではなく、クレジットカードとしても使えるようになっています。どちらを使うかは、カードを機械に差す向きで決まるのですね。
で、銀行のATMに、間違った向きにカードを差し込む。暗証番号を打ち込みますと、お金が出てきます。まあ、画面やレシートには、いつもと違ったことが書かれているのかもしれませんが、慣れた操作、いちいち細かいところまで見ていない人も多いのですね。
で、しばらくいたしますと、クレジットカードの明細書が送られてきて、ローン返済、なんて項目が書かれているのですね。
まあ、金利も大した額ではないし、元はといえばカードを逆に差し込んだ客の責任。これが社会問題になる可能性は非常に低いといえるでしょう。でも、普通預金に残高のある人が、小額のローンを借りるなんて、どう考えても不自然な話なのですね。
それから、このカードをしげしげと眺めますと、キャッシュカードとクレジットカード、確かに表示がしてあるのですが、字が小さいのですね。で、矢印の色も変えてあるのですが、緑に青。実に良く似た色ではあります。
で、なぜか、銀行、キャッシュカードを作ってもらうと、クレジットカード付のものを奨めたりします。で、実は銀行の内部では、この手のミスが起こっている、という事実も把握している様子なのですね。となりますと、最初から、それが狙いであった、との疑いも捨てきれないわけです。
最近、経済新聞の無料お試し購読、なんてチラシがポストに入っていました。この手の無料お試し、なんてのも、この手のビジネスモデルに応用できそうです。
つまり、1ヶ月間の無料お試し購読契約を結びます。で、ポイントは、その後不要である場合は、顧客側からの連絡を義務付けるのですね。
で、不要である旨の連絡がなければ、当然、配達を続け、翌月、請求書を送ってくる、と。これも、契約書は、すぐ捨てそうな小さな紙で渡す、とか、不要である旨の連絡を受け付ける電話が全然繋がらない、など、やりようはいくらでもあります。まあ、経済新聞の無料お試し購読が、こんな仕掛けになっているなどとは、決して思ってはおりませんが、、、
新興のネット業界には、似たような話がいろいろありそうです。月額100円でコンテンツ取り放題、なんてサービスにも、この手のビジネスモデルを応用する余地が多分にあります。
ひとたび契約を結ぶと、毎月百円入ってくる。小額ですから、払っている方も大した負担ではなく、仮に使わなくなったところで、慌てて解約する必要性も、さほど強くは感じないのですね。でも、何万人、何百万人の顧客を抱える企業側にとっては、決してけちな金額ではありません。で、企業側といたしましては、いろいろな手を考る、かも知れないわけです。
もっとも単純には、解約を難しくすること。解約窓口に電話を掛けると、いつまでたっても「しばらくお待ちください」というテープの声が流れてきて、肝心の担当者には、全然つながらないようにしておく、などの手が一番簡単です。
最初は魅力たっぷりのサービスで、次第に魅力の乏しいコンテンツを提供する。お客が使わなくなって、パスワードを忘れたりしたらしめたもの。半永久的に頂き、なのですね。
その他、私が遭遇した例では、こんなことがありました。某ソフト会社の評価版ソフトをダウンロードしたのですが、これは、明瞭に無償、と書いてありましたし、名の知れたソフト会社のことですから、住所などを正直に記入してダウンロードしたのですね。で、しばらくしたら、その会社から振込用紙同封の手紙が来てびっくりしたことがありました。
もちろんこれ、ソフトのダウンロードに対する請求書ではなく、正規版の宣伝なのですが、慌て者なら有償版を間違ってダウンロードしてしまったかと、お金を送ってしまうかもしれません。その結果、有償版のソフトを手に入れるわけで、この一連の過程、犯罪の影も形もないのですが、買う気もないソフトを買ってしまった、という意味では、錯誤で儲ける一つの方法、ではあるのですね。
そういえば、別のソフトですが、ダウンロードした後に起動パスワードをメールで送る、なんてやり方もありまして、届いたメールには、「ご購入戴きましてありがとうございます」などと書いてある奴もありました。これと有償版の請求書を組み合わせれば、錯誤で儲ける確率はかなり高まるのではないでしょうか。まあ、こちらにつきましては、まだ請求書は来ませんが。
さて、最近この手のビジネスが増えてきたのはなぜか、ということを考えてみましょう。
まず第一に、相手の顔が見えないビジネスが増えてきた、ということ。振り込め詐欺など、顔が見えたら成立しません。大量破壊兵器を平気で使えるのも、犠牲者の姿を目にすることがないからとか。ネット経由の半ば詐欺的行為も、お客の顔が見えなければ、心を痛めることなく、平気でできる、なんて背景があるのでしょう。
第二には、ビジネスのあり方が変わってきたことも、この背景にあるのでしょう。漱石が割賦販売の詐欺という着想を得たのも、当時の最新販売技術である、割賦販売の登場によるものであったでしょうし、ネット関連のビジネスはすべてが新しいもので、その標準的あり方、お手本的商行為というのは、今のところ存在しないのですね。
第三には、窮鼠猫を咬むということ。JALにしろ、BIGLOBEにしろ、メガバンクにしろ、その経営上、厳しい時代がありました。企業の危機に際して、少々のやばい橋も渡ってしまえ、なんてことがあるのかもしれません。また、企業の行為といえど、結局は社員の行為でして、ノルマや成果主義などが行き過ぎれば、特に営業担当者は無理を承知の行為に走る、なんてことがあるのかもしれません。
まあ、そうは申しましても、ビジネスの基本は、顧客に満足を提供してその対価を得ること。一篇の契約書だけを頼りに代金を取るという行為は商売の王道からは外れています。やはりここは、時代が進み、技術が進歩しても、商売の道徳、というものは、一本筋を通さなくてはいけないのではないでしょうか。