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虚数時間の電磁気学

虚数時間の物理学、いよいよ電磁界に入ります。以下、ファインマン物理学IIIおよびIVに準拠し、ファインマンの扱っている実数時間を虚数時間に書き直す形で、虚数時間の電磁界につき論を進めることといたしましょう。

1. マクスウェル方程式

(2017.3.21追記:以下、間違っていそうな部分をで修正しています。完全な修正は、確認が取れた後に行ないます。)

まず、虚数時間を導入する意味は、ニュートン力学に加える修正を最小限にしたいということでして、虚数時間を導入することで、ニュートン力学とマクスウェルの方程式が矛盾しないことを示す、というのがひとつの目的となります。

そこで、マクスウェルの方程式をオリジナルの形で書き下しましょう。しばらくは虚数時間は使わずに、実数時間表示のマクスウェル方程式の形で表示いたします。
(1)  ∇・E = ρ/ε0
(2)  ∇×E = -∂B/∂t
(3)  ∇・B = 0
(4)  c2 ∇×B = j/ε0 - ∂E/∂tこの減算は、ファインマンIIIでは加算となっています
ここで(∂/∂x, ∂/∂y, ∂/∂z)で、“”は内積(スカラー積)、“×”は外積(ベクトル積)を示します。

∇・”は発散div)と呼ばれる演算子で、ベクトル場の各点における湧き出しを求める演算子です。すなわち、(1)式は電場のE湧き出しは各点の電荷密度に比例すること、(3)式は磁束密度Bの湧き出しはゼロであること、すなわち電荷に相当する単磁極は存在しない、ということを意味しています。

∇דは回転rotまたはcurl)と呼ばれる演算子で、ベクトル場の各点の周りの渦の強さを求める演算子です。「渦は不生不滅である」などといわれるように、渦の湧き出しはゼロ、すなわちあるベクトル場があったとき、∇・(∇×A) = 0となります。

このことを使いますと、湧き出しがゼロであるベクトル場は、他のベクトル場の回転であるとみなすことができます。逆に、あるベクトル場Bを他のベクトル場Aの回転であると定義することは、ベクトル場Bの発散がゼロであると規定することと等価です。

2. マクスウェル方程式のポテンシャル表現

マクスウエル方程式は複雑な形をしていますが、これをポテンシャルで書き直すことを考えます。

まず、(3)式より、磁束密度Bはあるベクトル場Aの回転で表わされます。
(5) B = ∇×A
このベクトル場Aをベクトルポテンシャルと呼びます。このように表わされることが、すなわち(3)式の置き換えとなります。

次に、(2)式にこれを代入しますと
(6) ∇×E + ∂∇×A/∂t = 0
(6') ∇×(E + ∂A/∂t) = 0
となります。

回転がゼロであるベクトル場は、スカラー場φ勾配grad)すなわち演算子をスカラー場に対して施して得られるベクトル場であることが知られています。したがって、
(7) E = -∇φ - ∂A/∂t
これが(2)のファラデーの法則を表わす式となります。

次に(7)式を(1)式に代入し、次式を得ます。
(8) -∇2φ - ∂/∂t∇・A = ρ/ε0

3. ゲージを合わせる

ところで、ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルには自由度があり、適当なポテンシャル場ψを選んだとき、その勾配∇ψをベクトルポテンシャルに加え、時間微分∂ψ/∂tをスカラーポテンシャルから引いても(5)式も(7)式も変化しません。そこで、次式を満足するようにこの操作を施すものとします。
(9) ∇・A - (1/c2)∂φ/∂t = 0
この限定を、ゲージを決める、と呼び、(9)式の規定をローレンツゲージと呼びます。実は、このようにすることで、(φ, A)なる4元ベクトルはローレンツ変換に対して不変になります。

4. 電磁波

最後に(4)式に(5)、(7)、(9)式を代入して整理しますと次式が得られます。この符合も修正が必要なはずです
(10) 2A - (1/c2) ∂2A/∂t2 = -j / ε0 c2
また、(8)式に(9)式を代入すると次式が得られます。
(11) 2φ - (1/c2) ∂2φ/∂t2 = -ρ/ε0
結局のところ、マクスウェルの方程式(1)~(4)は上記(10)、(11)式とBおよびEを決める次式に置き換え、ポテンシャル場の方程式とすることができます。
(5) B = ∇×A
(7) E = -∇φ - ∂A/∂t

(10)、(11)式は波動方程式と呼ばれるもので、電流も電荷も存在しない場所においても、光速で伝達される場を、一つの解としてもちます。これが電磁波と呼ばれるものです。

このマクスウェル方程式から導かれる結論は、光速は座標系によらず一定であることを要請しており、等速移動する座標系間の座標変換をガリレイ変換としていたニュートン力学とは相容れません。これが19世紀の物理学会の大問題となっておりました。

5. 虚数時間の電磁気学

さて、ここまでは実数時間で議論してまいりましたが、ここから先は時間tが虚数的に振舞うとの前提の元に、電磁場の理論を書き直してみましょう。また、以下では光速cが1となるように単位系を選ぶものとします。

三次元のベクトル演算子に代えまして、四次元のベクトル演算子を以下のように定義します。
(12) ◇ = (∂/∂x, ∂/∂y, ∂/∂z, ∂/∂t)
これを使いますと、(10)式と(11)式は以下のように書き直されます。13式の符号は修正が必要なはずです
(13) 2A = -j / ε0
(14) 2φ = -ρ/ε0
これをまとめると、以下のようになります。
(15) 2(A, φ) = -(1 / ε0) (j, ρ)
ここで、電流jには時間が含まれますので虚数となり、ベクトルポテンシャルAも虚数となります。また、ローレンツゲージ(9)式は、虚数時間の元では次のようになります。
(16) ◇・(A, φ) = 0
この二つの式、すなわち(15)式と(16)式が、ポテンシャルで表わした電磁界の全て、ということになります。

最後に、電場と磁場をポテンシャルの微分の形で成分表記しておきましょう。
(17-1) Bx = ∂Az/∂y - ∂Ay/∂z
(17-2) By = ∂Ax/∂z - ∂Az/∂x
(17-3) Bz = ∂Ay/∂x - ∂Ax/∂y
(17-4) Ex = ∂Ax/∂t - ∂φ/∂x
(17-5) Ey = ∂Ay/∂t - ∂φ/∂y
(17-6) Ez = ∂Az/∂t - ∂φ/∂z
ふむ、なかなか美しい形になりましたね。(15)式の符号が少々いやらしいですけど、このあたりは、もう少し検算した方が良いかもしれません。符合を修正すると、このいやらしさは解消するかもしれません。これに関しましては、今後の課題としておきます。

6. 回転をわかりやすく表現する

時間は虚数的に振舞う、との前提を受け入れると、電磁場の解析におきましても、通常のベクトルの演算がそのまま使えるという利点があります。ただし、回転演算(rot)は単純な形では書くことができず、(17)式のように成分表示せざるを得ません。これは、実数時間の議論でも同様で、テンソルを導入すればより単純に書きあらわすこともできるのですが、それがよりわかりやすいかどうかは疑問であると思います。

(17)式につきましては、4元ベクトルの回転を特定平面内での回転という形に定義し直すことでよりわかりやすく表示することができるかもしれません。つまり、XY平面内での回転を、たとえばrotXYなどの形で書くことにしますと、(17)式は以下の形で書くことができます。ここでAの時間成分はφとします。
(17'-1) Bx = rotZY A
(17'-2) By = rotXZ A
(17'-3) Bz = rotYX A
(17'-4) Ex = rotXT A
(17'-5) Ey = rotYT A
(17'-6) Ez = rotZT A
こうすると、磁場と電場の関係が直感的に理解できそうです。つまり、4元ポテンシャルの空間的な渦が磁場を、時空的な渦が電場を与える、ということなのですね。まあ、わかったような物言いですが、実のところはちんぷんかんぷんであることに変わりない、などという声が聞こえてきそうですね。

これらの式は、相対論と矛盾のない形になっております。また、ここに書きましたように、少なくとも電磁場の方程式の範囲では、虚数時間という考え方からは、何らの困難も生じないように思われます。

結局のところ、時間は虚数的に振舞う、という一言を入れるだけで、ニュートン力学とマクスウェル方程式の矛盾は解消されたはずでした。いまさら何を言っても始まらないのですが、ニュートン力学とマクスウェル方程式の矛盾という、19世紀の物理学上の大問題に対して、何故にこのような簡単な回避策が取られなかったのか、大いに疑問を感じる次第です。

7. 四元ベクトルとは何か

その他、4元ベクトルとは何か、という点につきまして補足しておきます。

ファインマンなどを読みますと、4元ベクトルとはローレンツ変換に対して不変な量、などとかかれているのですが、これだけではちんぷんかんぷんではないでしょうか。

そもそも、ベクトルとは方向と大きさをもつ量であって、座標系とは独立した存在なのですね。だから、座標系をどうとろうと、ベクトルそのものには影響を与えません。

もちろん、とられた座標系での具体的数値は異なります。これは、空間的な回転であれば座標系の回転変換に従う変換がなされますし、時間軸を含む平面内での回転であれば、実数時間ではローレンツ変換、虚数時間では回転変換となります。

ベクトル固有の量として絶対値があります。たとえば、速度ベクトルは、静止した物体に対して(0, 0, 0, 1)と、その絶対値は1であり、これは回転変換に対して不変でなければなりません。したがって、移動する物体の速度ベクトルも絶対値が1となる必要があり、先々週のこのブログでご紹介したように、
v = (vx, vy, vz, 1) / √(vx2 + vy2 + vz2 + 1)
とならなければいけないわけです。(これは虚数時間表示でvx, vy, vzはいずれも虚数です。実数時間表示の場合は、分母は√(1 - u2)となります。)


虚数時間の物理学、まとめはこちらです。最新のまとめ「虚数時間とファインマン氏の憂鬱」も、ぜひどうぞ。