原発事故は大した問題ではない、などというのがとんでもない主張であることは以前のこのブログでも述べたのですが、その主張を繰り返しておりますのがかの池田信夫氏。「18000人以上が死んだ地震・津波と、死者ゼロの原発事故のどっちがメジャーな災害なのか」というわけですね。
このような主張に対して、当然のごとく沸き起こる疑問は「だから何なんだ」というものでして、地震や津波の被害がいかに悲惨であった所で、福島の原発事故の重大性はいささかも軽くはならない。我が国の原子力行政がいかにあるべきかという議論に際しては、地震や津波の犠牲者が何人であったかということなど、全く関係のない話なのですね。
それにしても、同じアゴラの生島勘富氏の記事も随分とおかしい。これは「科学的な正しさ」として、「現状の汚染度では健康被害は起きない」と「過剰な避難の方が危険がある」を所与として、「避難を止めるべき」という結論を示しているのですが、これは前回のこのブログで私が批判いたしました池田氏の完全に誤った議論に基づくものであり、全然、科学的に正しくなんぞありません。
誤った主張も、他の人が正しい主張として引用すると、それは正しい主張であるかのごとくみられてしまう。これはひょっとすると、原子力村が成り立つ一つの要因であるのかもしれません。もちろんそんなメカニズムは村に属さない人々にはさして効果があるわけでもなく、村人に対する「怪しげな人たち」との印象は、いささかも揺るぎはしないであろう、と私はひそかに期待しておる次第です。
とはいいましても、誤った情報に人々が惑わされないという点ではよいことである半面、その結果として、原子力発電に対する国民の信頼が失われ、我が国が原子力を放棄せざるを得ない事態になるといたしますと、これは大いに困ったことなのですが、、、
前回のブログで、福島第一原発周辺の放射線量の将来予測を示すわかり易い図をご紹介いたしましたが、9/13付けの朝日朝刊には本年2月現在の線量分布を示す図が掲載されております(図のクリックで拡大。)
この図は1時間当たりのマイクロシーベルトで表示されており、これを年間被ばく量(mSv/年)に換算するためには8.76(= 24 x 365 / 1000)を乗じる必要があります。逆に年間被ばく量を図の数値に直すためには8.76で割ってやればよく、11.4μSv/時間以上の線量となる領域が100mSv/年以上の領域となります。図ではオレンジ色の9.5~19μSv/時間の範囲のかなり外側によったあたりに100mSv/年の等高線が描かれることになります。
この図からも、100mSv/年以上の被ばくとなる、緊急に避難すべきエリアは、福島第一原発から30km近く離れた地域にまで広がっていたことがお分かり頂けるでしょう。
結局のところ、生島勘富氏のいわく「科学的正しさ」とは全く正しいものではなく、この誤りが生じた原因は、池田氏が最近の記事に書かれた「次の図でもわかるように、年間100mSvを上回る地域は原発の周辺の半径数百mだけだった」なる記述から、12日間の積算被ばく線量を年間の被ばく線量と取り違えた単純ミスによるものである、と推定されます。
この結果、池田氏が認識する被ばく線量は実際の値の約1/30という小さな値となり、避難する必要のない人を避難させたとか、必要以上に除染作業を行っているとか、福島の事故は大した事故ではなかった、などの妄信を抱くに至ったのでしょう。
それにしても、こんな単純なミスが長い間にわたって見逃され、あまつさえ他の評論家までこの誤りに基づいて主張をするなど、アゴラの現状はお粗末の限りというしかありません。このような誤った主張をネットで行えば多くの人が誤りを指摘してくれるはずなのですが、それでも誤りに気付かないということは、アゴラの人たちが思考停止状態にあることを表しているように、私には思われます。