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「ノルウェイの森」、そのココロは、、、

先日のブログけやき准教授のページを参照したのですが、その次のページ「ノルウェイの森? 何じゃそりゃ?」もなかなか面白いことがかかれております。これに付きましても、少々思うところがありますので、ちょっと書いておきましょう。

けやき氏の指摘

詳細に付きましてはけやき氏のページをご参照いただけば良いのですが、要するに、ビートルズの楽曲“Norwegian wood(音楽はこちらか)に対する「ノルウェイの森」というよく知られた和訳は間違いであって、正しくは「ノルウェイ産木材」であると。

ただ、この歌詞の意味としてけやき氏が掲げております「女性に誘われた部屋の内装が、ノルウェイ産の材木を使用したちょっと素敵な内装であって、でもベッドには誘われずバスルームで失意の夜を過ごし、目が覚めたら女性はいない、で、その部屋に火をつけました」などというのは少々おかしい。こんな内容ではとても歌にはなりません。

もちろん、巷に流れております歌詞の和訳にあります「ノルウェーの森に火をつけた」などという物騒なことをビートルズが歌うなどということも、私にはとても考えられません。

ちなみに、ノルウェーの森のビートルズ版はこちらです。一応、和訳入りですが、問題のある訳ではあります。

拒絶された原題

おかしいことは気になりますので少々調べましたところこんなページに行きあたりました。この中で、村上春樹氏が「雑文集」の中で紹介しているという、以下の部分が注目に値します。

この、Norwegian Woodというタイトルに関してはもうひとつ興味深い説がある。ジョージ・ハリスンのマネージメントをしているオフィスに勤めているあるアメリカ人女性から「本人から聞いた話」として、ニューヨークのパーテイーで教えてもらった話だ。

Norwegian Woodというのは本当のタイトルじゃなかったの。最初のタイトルは"Knowing She Would"というものだったの。歌詞の前後を考えたら、その意味はわかるわよね?(つまり、“Isn't it good, knowing she would?”彼女がやらせてくれるってわかっているのは素敵だよな、ということだ)でもね、レコード会社はそんなアンモラルな文句は録音できないってクレームをつけたわけ。ほら、当時はまだそういう規制が厳しかったから。そこでジョン・レノンは即席で、Knowing She Wouldを語呂合わせでNorwegian Woodに変えちゃったわけ。そうしたら何がなんだかかわかんないじゃない。タイトル自体、一種の冗談みたいなものだったわけ

これは注目に値する情報なのですが、“knowing she would”とすべき部分がレコード会社の都合で“Norwegian Wood”になったとしても、それだけではこの歌詞は筋が通りません。“Norwegian Wood”の部分が本当は“knowing she would”であるといたしますと、最後のこのフレーズの前にあります“So I lit a fire”は、何に火をつけたのでしょうか。ノルウェイ産の材木なら、よく燃えそうなのですが。

しゃれと負け惜しみ

で、私の推理は、この部分は“knowing she would”と“Norwegian Wood”をかけたしゃれ、ということなのですね。そのココロは、最初の部分(女性の部屋に案内された時点)では“Isn't it good, knowing she would”「いいじゃん、やらせてもらえそうだしぃ」という意味であって、最後の部分は“Isn't it good, Norwegian Wood”「まったくノルウェイの材木は良く燃えるぜ」という意味でして、歌の響きからは同じフレーズの繰り返しに聞き取れるのですが、その意味は全然別というわけ。そう解釈いたしますとこの歌詞、さすがはビートルズと腑に落ちるのでして、私のビートルズに対する理解にぴったりと当てはまります。

このしゃれの面白い点は、火をつけた(I lit a fire)時点で、このフレーズの意味が“knowing she would”から“Norwegian Wood”に変化し、最初の部分も「ノルウェイ産木材を使用した部屋の内装が素敵ですね」という意味になり、過去にさかのぼって事実が書き換えられる点です。ここにある種のタイムマシンが実現しております。

でもまあ、そこまで難しいことは考える必要もなさそうですし、ビートルズも単なる言葉遊びとしてこの歌詞をひねり出したのではないかと、私も思います。結局のところ、この歌のテーマは負け惜しみでして、これをちょっとひねって表現したというのが実際のところなのでしょう。

小説「ノルウェイの森」の問題

この解釈が正しいといたしますと、この言葉に対する村上春樹氏の以下の認識は、まったく正しいということになります。

翻訳者のはしくれとして一言いわせてもらえるなら、Norwegian Woodということばの正しい解釈はあくまでも“Norwegian Wood”であって、それ以外の解釈はみんな多かれ少なかれ間違っているのではないか。歌詞のコンテクストを検証してみれば、Norwegian Woodということばのアンビギュアスな(規定不能な)響きがこの曲と詞を支配していることは明白だし、それをなにかひとつにはっきりと規定するという行為はいささか無理があるからだ。

でもそうであるなら彼自身の作品「ノルウェイの森」におきましても、この言葉にはもうちょっと配慮が必要だったのではないでしょうか。たとえば「ノルウェイの森」などとせずに「ノーウェジアン・ウッド」としておいたほうが良かったのではなかろうか、との思いを抱きます。

まあ、これに関します村上春樹氏のさまざまな言説も“Norwegian Wood”つまりは「負け惜しみ」ということではあるのでしょうが。

2/26追記:少し考えてみましたが、村上春樹氏の『ノルウェイの森』は、まったく問題がなさそうです。なぜ問題がないかといいますと、ビートルズのこの曲は、日本国内では「ノルウェイの森」という邦題で知られておりまして、であるが故に飛行機の中でこの曲を聴けばそれは「ノルウェイの森」であるわけですし、京都の山中でこの曲のギターを弾けば、まるでノルウェイの森にいるみたいとの感想がでてくることもやむをえない。つまり、その人たちは和訳された曲名を知っており、それがまさに「ノルウェイの森」であるわけですから。

その他、村上春樹氏の小説「ノルウェイの森」に関しては、飛行機内で気分を害した私とスチュワーデスとの会話がおかしいなどという批判もあるのですが、私の印象では、日本人ビジネスマンの(正確ではない)英語のせりふとしてさほど違和感を感じません。この小説が英訳された際に正しい英語に修正されているのは、それが「政治的に正しくない」と考えられたからではないかと私には思われます。つまり、日本人ビジネスマンのJaplishを文学作品の中で使用するのは妥当ではない、と考えられたからと思うのですね。

だから、村上春樹氏がこの問題に関していろいろと考える必要はさらさらありません。「だってこの曲の邦題は『ノルウェイの森』だからね」と、さらっとかわせばよい問題であったように、私には思われます。

でもそれをいろいろとおっしゃるのは、やはりビートルズのこの曲の歌詞に関して、何らかのこだわり、ないし誤解があったからではなかろうか、と私などは邪推しておる次第です。

ところで、映画「ノルウェイの森」には“Norwegian Wood”と原題を振っていますね。(それでいながら、ビートルズの曲の題名は「ノルウェーの森」と日本語表記だけ。:2015.7.8追記)ま、結局のところ全てお分かりだ、ということでしょう。

映画「ノルウェイの森」タイトル
映画「ノルウェイの森」主題歌クレジット

なおここで、ビートルズの歌の題名が「ノルウェーの森」、映画の表題が「ノルウェイの森」となっていることに注目。実は、ビートルズのレコードが日本で発売された時の日本語表題が「ノルウェーの森」だったのですね。

ビートルズのこの曲と村上春樹の小説をめぐる状況はすでに極めて入り組んだ状況になっております。いまさら実際のところを明かしたところでどうなるわけでもありません。でも、そこに謎がある以上、実のところがどうであるかは気にかかります。だから私はその謎解きをしたいと思うわけで、この好奇心、誰にも止めることはできません。

彼女は乗り気

あ、そうそう、“Norwegian Wood”を「ノルウェイ産の家具」と解釈するのは却下です。なにぶん“I noticed there wasn't a chair”なのですから。ビートルズのこの歌詞、用意周到といいますか、最初の“Norwegian Wood”をあくまで“knowing she would”と聞き取らせるべく、このようなフレーズまで挿入しているのですね。

さて、この歌詞はいろいろな曲折の結果わかりにくいものになっているのですが、おそらくは最初のビートルズが考えた歌詞はもっと単純で分かりやすいものだったのではないでしょうか。でも、それが分かりにくいものになったが故に、歌詞に奥の深さが加わり、魅力が増してしまった、と。だからビートルズも実際のところは明かしにくくなってしまったのではないでしょうかね。

ちなみに私が推測しております本来の歌詞の意味は以下のとおりです。に合わせるのは難しそうですが、、、でもこの節回しキャンディーズに似ているところが問題(こっちかな)。春樹氏とは別の意味で、私もこの曲には屈曲した思いがあるのですね。なお、原詩は他のページをご参照ください。


彼女は乗り気(ノルウェイの木)
昔、女を引っかけた
引っかけられたというべきか
おいらを部屋に誘ってさ
乗り気だってなぁ、いいじゃないか
(ノルウェイの木よ、いいでしょう)
泊まっていけと奴はいう
そこらに座ってくれという
それであたりを探したが
椅子の一つもありゃしない
で、床に座って待ったわけ
奴のワインを飲みながら
二時までだべったその後で
もう寝る時間と奴はいう
<間奏>
今朝は早起きだったのと
いって笑いだしたのさ
俺は平気といったけど
結局、風呂場で寝る羽目さ
起きたときには俺一人
女はとうに去ったあと
だからおいらは火をつけた
ノルウェイの木だ、いいじゃないか

この和訳、「乗り気」と「ノルウェイの木」をかけたしゃれなのですが、わかって頂けますでしょうか。

歌詞と歌われた言葉の相違例

2016.12.30追記:歌詞と実際に歌われている言葉が異なる例に、星屑スキャットの「マグネットジョーに気を付けろ」をあげておきましょう。(こっちかな?CDも出ていたのね。ちんちんと聞こえないわけではない。)こちらがお奨めかも。

これ、何度聞いても「自信のある娘(こ)ほど」と歌うべき部分が「ちんちんのある娘ほど」と歌っているように聞こえるのですね(少なくとも誰か一人がそう歌っていることは、ほぼ間違いありません)。もちろん、この歌い手の方々が、皆さんそういう方々であるわけでして、、、

悲惨な戦い

この歌詞の和訳、一応、七五調で作成いたしました。つまり、ビートルズの元曲に乗せるのは難しいのですが、ラップで歌えば、それなりに形になるのですね。なにぶん、ビートルズのこの曲は、キャンディーズのキャンディーズに似ておりますゆえ、個人的には少々受け入れがたいものがあるのですよ。

で、ラップではない曲に乗せるといたしますと、ぴったりなのがなぎら健壱氏の「悲惨な戦い」。これを演ずる際には、最後に次をつけてください。まあ、ちょっと過激な落ちになりそうで、ビートルズファンや村上春樹ファンからはバッシングの嵐を浴びそうなのですが。

私はかってあのような
悲惨な光景を見たことはない
それは十年以上も前の
ノルウェイの森のはなしです

おあとがよろしいようで、、、 (March 6, 2014 12:56:56 AM)


こちらのヴィデオコンテンツ、下に出ております日本語訳は、相当に改善されております。でもこれ、歌の文句でしょうか? 「ノルウェーの森仕様」って何ですか? よく考えると、全然進歩していない。