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米澤穂信著「いまさら翼といわれても」のちょっとした間違い

私は、米澤穂信のミステリーをほとんどすべて読み、このブログでもご紹介してまいりましたが、本日は、先月30日に出ました「いまさら翼といわれても」でみつけました、ほんのちょっとした間違いについてご紹介しておきます。

問題箇所は107ページの、鏡の高さを推定している以下の部分です。

いや、全身を映して余りあるのだから、高さは二メートル以上あるだろう。

伊原摩耶花の身長につきましては、ヤフー知恵袋では150cmと推定しております。高校生にしては小柄との描写があちこちに出ておりますので、150cmは少々大きいかもしれませんが、、、

で、150cmの全身を映して余りあるのだから、鏡の高さは150cm+αで2m以上、という計算は、一見正しいように見えます。

でも、全身を映すに必要な鏡の高さは、実は身長の1/2で良いのですね。

鏡に映った自分の姿(虚像)は、鏡の前の自分自身と、文字通り、鏡面対称になっており、自分自身と虚像の中間位置に鏡がある。だから、自分の目と虚像の頭のてっぺんを結ぶ線、および自分の目と虚像のつま先を結ぶ線がそれぞれ鏡面と交わる高さの差は、身長の半分となります。

だから、伊原摩耶花の身長が150cmであれば、最小75cmの高さの鏡があれば、全身を映し出すことができるのですね。余りあったとしても、まあ1mもあれば十分、ということになります。

もちろん、この間違いをしているのは伊原摩耶花であるのかもしれません。だから摩耶花は次のような印象を持った、と、、、

小学校を見ると、何もかもが小さくて驚くことがある。それは多分こちらの体が大きくなったからに過ぎない。一方、「おもいでの鏡」を最後に見てから、私の体はほとんど変わっていない。それなのに、壁面にあるそれは、拍子抜けするほど小さかった。

いや、全身を映して余りあるのだから、高さは二メートル以上あるだろう。普通に考えれば充分大きい。ということは、一年あまりの間に、私のイメージの中で鏡が大きくなっていただけか。

ふうむ。真相やいかに。伊原摩耶花が鏡の高さの見積もりを誤ったのか、それとも、、、


鏡のサイズが実際はどうであったのか、別の角度から計算してみましょう。

まず、p63に「鷹栖さんのデザインを何十かのパーツに分割して、五クラスに均等に割り当てる」とありますので、クラスの数は5ということになります。p62には、前年の卒業生を200人ほどとしておりますので、一クラスは約40名の生徒がいるものと思われます。

次に、p73に「三年五組では、六人で一つの班を作っていた」ということ、クラスの人数は40名ですから、一クラスには6つか7つの班があり、五クラスで30ないし35の班があった、ということになります。

それぞれの班が製作したものは10cm角のパーツですから、鏡の周長は3~3.5mということになります。一つの班で二つのパーツを作っていたところもあるようですから、これよりは多少長いとも考えられますが、最大でも4m程度でしょう。

そうなりますと、鏡の高さが2mを超す、ということはありそうなことではありません。幅50cm、高さ1mの鏡であれば上記見積もりの下限となります。おそらくはこれよりも1~2割程度大きい程度の鏡だったのではないでしょうか。(大多数の班が二つのパーツを作っていたなら、周長6~7mもあり得、2mを超す鏡ともなりえるのですが。)

といたしますと、この間違いは、米澤穂信氏の勘違いではなく、井原摩耶花の勘違いであると考えるのが妥当であるようにも思われます。

そういえば、p63の記述では「縦が二メートル近い大きな鏡に、木製の飾り枠を付ける」としております。これは明らかに「二メートル以上」という107ページの記述とは矛盾し、摩耶花の勘違いであることを裏付けております(二メートル近い鏡に枠を付けて二メートル以上となる可能性もないではありませんが)。

さて、そうなりますと、一体鏡の高さはいくつが正解なのでしょうね。

また、このような混乱があるということは、何らかの伏線になっている可能性が高いのですが、どこでこれは回収されたのでしょうか。あるいは、これからなのでしょうか。

私、気になります、、、


12/12追記:全てを矛盾なく解釈するなら、鏡の高さは、鏡部分が1.9±0.1m、これに幅0.1mの枠が上下に付いて、全体の高さが2.1±0.1mというところでしょうか。そして、井原摩耶花の見積もりがおかしいのは、米澤穂信氏が全身を映すに必要な鏡の高さを勘違いしたためである、ということになります。

う~ん、これが正解であるような気もしてまいりました。

正解は、文庫化されたときに、どのような記述になったかを見ればわかるかもしれません。楽しみです。


先ほど読み返して、一つ、読み落としていたことがあったことに気付きました。

それぞれの班が担当した枚数は、左右を担当した班が2枚ずつ、上下を担当した班が1枚ずつ、と書かれております。鏡は縦長ですから、2枚を担当した班が多いこととなります。

と、いうことは、周囲の長さは5~6m程度ということになり、鏡の高さはおよそ2m前後が正しいということになります。つまり、前回の追記部分が正しい、ということとなりそうです。

多分、そういうことであったのでしょう。