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トランプvs習近平:世界経済はどうなるか

1/9付のMy Big Apple NYは「バロンズ:世界は通貨戦争の引き金を引くのか」と題して、11日に予定されているトランプ次期大統領の記者会見を前に、トランプ氏の対中国経済政策とこれに対して予想される中国の反応について議論しています。

中国問題

トランプ氏はかねてより、中国を為替操作国に認定する、中国からの輸入に高率の関税を課す、と主張しております。しかし、ことはそうそう簡単ではありません。

中国が元相場に介入していることは明々白々なのですが、中国がおこなっているのは、元の下落を阻止することで、ドルを売って元を買い支えているのですね。これは、自国の輸出産業を有利にするための為替介入、つまりは元安政策の正反対です。だから、トランプ氏が中国を批判して、中国の為替介入を止めさせれば、元は下落し、中国の輸出競争力は高まってしまいます。

前記の記事では、元の下落にあわせて、各国が自国通貨安に走り、通貨切り下げ戦争が起こるのではないか、とも危惧しているのですが、果たしてそんなことになるのでしょうか。

ありそうな展開

トランプ氏の言動を信じるなら、ありそうな展開は次のようなものでしょう。

・トランプ氏は中国を為替操作国と認定する。(その結果、元安を招く)

・中国からの輸入に高率の関税を課す。(関税により元安の効果を打ち消す)

これは、トランプ氏のかねてからの主張に合致します。また、特定の国からの輸入に高率の関税を課すことは国際協定上難しいのですが、為替操作国と認定された国であれば、この行為は正当化されます。

しかしながら、このカードは、何度も切るわけにもいかず、トランプ氏はこれを温存するのではなかろうか、と私は予想しております。その場合にトランプ氏がとり得る政策は、中国と交渉して、元の対ドル相場を高値に保てと要求することではないでしょうか。

元高であれば中国の輸出競争力は削がれ、米国の産業の保護というトランプ氏の公約は一応果たすことができます。また、中国政府が恐れておりますことは元の暴落であり、元高の維持はもともとの中国の政策でもあります。

上記の記事では、先週末の元の急騰は、トランプ氏の記者会見を控えての米国へのメッセージではないかとも書かれています。私もこの見方には賛成で、中国政府は元高維持を受け入れるとのメッセージをトランプ氏に対して送ったのではなかろうか、と考えております。もしこれが正しく、トランプ氏がそのメッセージを受け取れば、まずは元高維持で当面は混乱なく乗り切れるのではないでしょうか。

米株バブルの崩壊?

ただし、現状はそれほど楽観できる状況にはありません。トランプ氏の就任までは波乱なく過ごせたとしても、その先がどうなるか、かなり難しいように思われるのですね。

このところ、米国の株価は歴史的高値を更新しております。ダウ平均の長期チャートにもありますように、ダウは2万ドル目前となっております。

このチャートを眺めますと、過去に大きく上げた後大きく下げた局面が二回あります。1999年の高値はITバブルと呼ばれたもので、ITバブルの崩壊と2001年の貿易センタービルへの大規模テロにより株価は暴落に至っております。その次にありましたのが2007年の住宅バブルで、この崩壊が2008年のリーマンブラザーズの破綻を招き株価は大きく下げることとなりました。

このようなバブルとその崩壊は、およそ10年周期(前回の間隔は8年)で発生しており、そろそろこれが繰り返されてもおかしくはない時期です。現在がバブルであると致しますと、その原因は各国の低金利政策が原因としてあげられるでしょう。これは、リーマンブラザーズ破たん以来の世界的不景気への対応として正当化されるのですが、その結果として株式は買われすぎてしまいました。そして、これまでの周期でバブル崩壊が繰り返されるとすれば、その時は目前に迫っていることとなります。

日本への影響

一方の我が国はどうでしょうか。日経平均の長期チャートを見ますと、これは悲惨なことになっております。1990年のバブル崩壊以来、トレンドは緩やかな下げとなっており、右肩上がりのダウ平均株価の推移とは全く異なっております。日本株に長期投資したところで、全然ペイしない、ともいえるでしょう。

その中でも、やはり米国と同じ変動はあり、2000年のITバブルと、2007年の米国住宅バブルの恩恵は我が国にも波及していることがわかります。そして現在大いに上げておりますことも、米国と同様です。つまりは、米国のバブルが崩壊すれば、我が国の株価も同じように下げるであろうということは、高確率で予想されるのですね。

破たんに向かう中国経済

さて、トランプ氏の中国への要求が元の高値維持であったとして、かつ中国がこれを受け入れて元高政策を取ったとして、これは長続きするものでしょうか。既に中国はこの政策を実施中であり、外貨準備を取り崩して元を買うことで元相場を維持しております。トランプ氏の要求に応えてこれを強化することは、当面は可能でしょう。

しかし、このような政策を長期にわたって実施することはあり得ません。そして、多くの人もそのように考えれば、海外からの中国への投資は見送られるでしょうし、中国から海外への資金逃避も加速されるでしょう。この政策は、いずれは破たんせざるを得ない、これは自明の理です。

もう一つの波乱要因:ヨーロッパ

現在の世界経済には、もう一つの波乱要因があります。それはヨーロッパで、すでにいくつかの銀行は困難を抱えております。そして、英国のEU離脱が具体的工程に移され、いくつかの国では予定されている選挙でポピュリズム政党が躍進するものとみられております。どこかで何かが起これば、これが世界的な規模の混乱へと発展する余地は多分にあります。

11日のトランプ記者会見が無事に乗り切れそうであるということは良いニュースです。ここで問題が起こらなければ、おそらくは、20日の就任演説も、無事に乗り切れる可能性が高いでしょう。でもその先はなにが起こるかわからない。幸いにして、私は資金の過半をキャッシュポジションとしているのですが、その他の部分も高値を確実にとらえて処分すること、これが当面の最優先課題であると考えております。

なお、当然のことではありますが、本稿は私の個人的な考え方であり、その正しさを保証するものではありません。投資はあくまでそれぞれの判断と責任の下で行われるよう、お願いいたします。