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レオン・レーダーマン著「量子物理学の発見」を読む(その2)

前回途中まで読みましたレオン・レーダーマン著「量子物理学の発見/ヒッグス粒子の先までの物語」ですが、本日は残りの部分を読むことといたしましょう。

カイラリティと呼ばれる属性

第3章までは前回読んでおりますので、今回は第4章から読むことといたします。

その前に、スピンを巡る混乱ですが、結局のところ時間を含む4元時空では、普通の意味でのスピンなど定義することができません。これをコルクの栓抜きやプロペラなどの比喩を用いるから、なにを言いたいのか全然わからなくなる。ここでは、粒子にカイラリティと呼ばれる属性があって、それにはLとRがあるのだ、ということを天下り的に受け入れるのが最もわかり易いと思います。

まあ、そういうことにして、以下を読み進めることといたします。

高速で移動する粒子の性質

第4章 相対性理論の 合法的な抜け道
第5章 初めに質量あれ

この章でも、目が点になるような記述がなされております。

粒子が光の速度に近づくと、質量ゼロの粒子に似てくる、ですって!?

普通は、速度が上がると粒子の見かけの質量はどんどん増えていくというのに。

レーダーマン氏のこの物言い、なにを意味しているかを私なりに解釈すると、次のようになります。

静止質量がゼロの光子は、常に光速で移動することしかできない。そして、光速で移動する光子にとっては、時間の経過というものは全く感じられないのですね。

で、普通の粒子も、高速で移動すれば時間の経過はゆっくりになる。外部からみれば、高速で移動している粒子に生じている変化は、それが極めて短時間に起こる現象も、時間を引き延ばして観測することとなる。だから、カイラリティの変動も観測することができるのだ、ということでしょう。

そう解釈すれば、レーダーマン氏のいわんとすることもわからないではありません。でも、そういうことがいいたいのであれば、もっと単刀直入に語ればよいと思うのですが、、、まあ、この部分は、わかり易く説明しようとして、かえってわかりにくくなっているような気がいたします。

ヒッグス粒子

第6章 何もないところになぜ何かが生まれたのか?

この章で、いよいよヒッグス粒子が登場します。

きわめて高速で移動するμ粒子は、カイラリティがLの状態とRの状態を変動しながら移動しています。で、カイラリティLのμ粒子は、弱い力に関与する弱価が-1であるのに対し、カイラリティRのμ粒子の弱価は0なのですね。

カイラリティLの粒子の弱価がどこに行ってしまうかといえば、この変化と同時に同じ弱価-1をもつヒッグス粒子が生成したからであり、逆にカイラリティRのμ粒子がカイラリティLのμ粒子に変化するときにヒッグス粒子が吸収されて、ヒッグス粒子の持っていた弱価-1がμ粒子に与えられる、と。

このヒッグス粒子はどこにあるかといえば、この空間を満たしている、というのですね。そして、μ粒子の質量は、ヒッグス粒子のエネルギーによって与えられている、と。

なるほど、ヒッグス粒子は他の粒子に質量を与える働きをしている、というのはそういう意味だったのですね。この部分は、比較的わかり易い記述でした。

今後の課題

第7章 星が生まれた痕跡
第8章 加速器は語る
第9章 ヒッグス粒子を超えて

これらの章では、ニュートリノに関する話題、ヒッグス粒子以降の物理学の課題が語られます。そしてレーダーマン氏のライフワークともいうべき、基礎研究の環境整備に対する思いが語られます。

このあたりは、読者によっていろいろと受け止め方が異なるでしょう。レーダーマン氏にとりましては、研究費を獲得することが重要な課題であり、基礎研究の効果を大いに語りたいところではあるのでしょうが、私の感覚では、少々風呂敷を広げ過ぎているような印象も受ける記述ではありました。

この本を読む価値

と、いうわけで、同書に対する私の評価ですが、物理学が少しだけわかっている私のような人間にとりましては、この本は難物です。まあ、いろいろと考えるネタを与えてくれるという意味では、面白い書物ではあるのですが、時間の無駄との感もなきにしもない、困ったものです。

これが、物理学というものが全く分かっていない人であれば、へー、そうなんだー、と思いながら読み進めれば、すらすらと読めてしまうかもしれません。このあたりは、私には何とも言い難いところですが、もしかするとそういう人にとっては、同書は面白い書物であるのかもしれません。

また、物理学を極めた方々には、同書は読み物として、面白いかもしれません。まあ、これも全く責任のもてない感想ではあるのですが、、、