北朝鮮情勢について前回触れましたのが昨年9月3日のこの記事でした。この日、北朝鮮は核実験を行い、おそらくは水爆実験であったとみられております。
この時は、米国が北朝鮮に対して軍事作戦に出る可能性が高いものとみておりました。現にこの後、危機は高まったのですが、各国は制裁強化の方向に動き、特に最近では北がオリンピック参加に動いた結果、当面の危機は回避されているようにもみえます。
しかし最近、「鼻血作戦」をめぐる話題がいくつか出てきています。
まず、駐韓大使候補でありましたビクター・チャが、鼻血作戦に反対する論説をワシントンポストに寄稿したことから、候補の座からはずされたというニュースが流れております。
この鼻血作戦とは、私の前回の記事にも書きましたような、核施設等に限定した武力攻撃です。
この攻撃が可能であるのは、北がこれに反応して大規模な反撃に踏み切った場合に米国側のより大規模な二次攻撃を前提とするからであって、金正恩が“反撃すれば己の終わり”と悟っておれば反撃はするまい、との読みが成り立つからなのですね。
ニュースソクラの記事では「爆撃候補地としては、北朝鮮の核実験場、ミサイル発射基地、潜水艦建造基地などが候補」とのことですが、核とミサイル関連施設がさしあたりの「限定的」空爆作戦の標的と考えられているのですね。
ここで含まれていないのが、ソウルを狙う長距離砲。北朝鮮が長距離砲でソウル攻撃を始めれば、韓国も参戦せざるを得ないとの冷徹な読みが米国にある様子なのですね。とはいえ、この攻撃はまずなかろう、と私はみております。
現に、韓国兵士が北朝鮮の地雷で負傷した時には、韓国は極めて強い非難の姿勢を示し、北朝鮮が実質的な謝罪に追い込まれております。北に融和的な態度をとっております韓国といえど、自国民に被害が出た場合には、態度は極めて硬化するであろうということは、北側にも十分に予想できているでしょう。
とはいえ、北側が反撃しないなどという保証があるわけでもありません。限定的であるとはいえ、ひとたび米国が軍事作戦に踏み込んだ場合、北の長距離砲がソウルを砲撃することは覚悟しておかなくてはいけません。
北の攻撃のリスクまで配慮するなら、日本を韓国と同様の立場に追い込まないことは、我が国の戦略上きわめて重要なポイントで、ここは可能な限り米国サイドに立つことを、少なくともトランプ氏にははっきりと認識しておいてもらわなくてはいけません。
日本を狙うミサイルを鼻血作戦の標的とすることは、米国にとっても合理的なのであって、我が国が狙われるといっても在日米軍基地が第一の目標になるわけですから、日本を狙う北の長距離ミサイルを破壊することは、米国自身のためでもあります。
鼻血作戦は、北朝鮮が核兵器や長距離ミサイルを持とうとしたらこれを破壊するとのメッセージを北朝鮮に送るもので、この先も、査察だなんだというややこしい話(これは当然やるとしても)よりも、開発したら何度でも攻撃するとの意図を明らかにして、これらの兵器の開発を思い止めさせることが狙いとなるのでしょう。
しかしただこれを呑むのであれば、北朝鮮の完全敗北になってしまう。トランプとしては、そうでない形をつくらなくてはいけない。それが最近トランプ氏が強調している北朝鮮の人権問題であるように、私には思われます。
と、いいますのは、北の人権問題こそは、北側が絶対に呑めない議論であって、この話を掘り下げれば、金正恩の人道に対する罪を認めざるを得ないことになってしまいます。
これに比べれば、核放棄するくらいであれば北にとっても呑みやすい要求であるわけで、トランプとしては一旦ハードルを厳しくした上て、人権問題では妥協する代わりに元々の要求である核・ミサイル開発の中止を呑ませるという作戦に出ているようにもみえます。
おそらく北側は、このトランプ氏の作戦にそのまま乗るしかないのではないでしょうか。実際問題として、トランプ氏の意思が硬ければ、金正恩の生き延びる道はそれしかありません。そして彼はそれを理解した、と。これが今回、金正恩が妹の金与正(キム・ヨジョン)を韓国に派遣した理由ではないか、などとも感じております。
もしこれが正しければ、このオリンピックの機会に、金与正とペンスの会談も実現するかもしれない。そういったことが起こってくれれば、ひょっとすると北朝鮮の核開発をめぐる一連の問題は、平和裏に片が付くかもしれないと、かすかながらではありますが、期待しております。
それができなければ、もはや軍事作戦しかないような気がいたします。つまり、鼻血作戦発動、ということですね。
その結果は、鼻血作戦を受けて金正恩が核・ミサイル開発から手を引くか、金正恩は大規模な軍事作戦に打って出て短時間で制圧され、そして滅びるかの道しかありません。このくらいのことは、金正恩もとうの昔に理解しているはずなのですけどね。
さて、いかがなりますでしょうか。
2/10追記:ペンスが北側要人との会談の可能性を否定したとのニュースが流れております。その代わりに、脱北者らと面談し、北朝鮮の人権抑圧を大いに批判しております。
上の観点からみますと、北朝鮮が柔軟な姿勢を示したのに対して、米国はハードルを上げている、ということでしょう。これは、北側の譲歩を最大限に引き出すためには意味のある作戦ですが、平和裏に解決するためには、先方の譲歩を受け入れることも考える必要があります。
タフネゴシエータであるトランプ氏の面目躍如といったところですが、さてこの交渉、うまくまとまるものなのでしょうか。
2/13追記:今度は、南北朝鮮の首脳会談の後で、ペンスが北の首脳と直接会談することもあり得るという話になっております。
これ、一気に平和の方向に向かい、武力衝突はなくなるであろう、などといいう観測も流れているのですが、そうそう簡単なことにはなりそうにありません。何分、米国の要求は北の核兵器を放棄させること。そして北は、この要求を受け入れることはそうそう簡単ではないはず。
わかりやすい表現をすれば、南北朝鮮首脳会談で友好ムードができたところを、ペンスがちゃぶ台返しをする、ということですね。もちろん、南北朝鮮首脳会談で北が核ミサイル開発を放棄するならよいのですが、さすがに金正恩がそこまで譲歩するとは、ちょっと考えにくい。
ここはやはり、鼻血作戦が実行に移される可能性は、かなり高いものとみておく必要があるでしょう。