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デマンド・レスポンス

野北和宏氏の5/17付けアゴラ記事「太陽光発電などの再エネコストは火力発電よりも安くなった?」では、終わり近くで #デマンドサイドレスポンス に憤慨されているのですが、これちょっと誤解されているようですので、以下に解説を加えておきます。


野北氏の憤慨

野北氏が憤慨されているのは外務省資源安全保障室のツイートで次のように述べられている点です。

「再エネは変動するから火力で補わねば」という考え方は古くなってきています。「需要に合わせた発電」から、「発電に合わせて需要を調整」するのが #デマンドサイドレスポンス

加えて、蓄電池、連系強化、発電柔軟性、が重要、とIEAは説きます。日本は世界の歩みについていけてるかな?

で、野北氏は次のように述べられているのですが、これは明らかに誤解です。

「使いたいときに使うのではなく、再エネ発電が発電しているときに電力を使う」というのは、自由主義、資本主義社会では、とんでもない発言だと思っています。

外務省資源安全保障室のツイートが引用しているのがIEAのツイートで、日本語に訳すと次のようになります。

需要側の対応は、電力貯蔵、相互接続の強化、発電所の柔軟性の向上など、可変再生可能エネルギーのシェアを高めるのに役立ついくつかの対策の1つです

野北氏の憤慨、少々的を外しているように思われます。

デマンド・(サイド・)レスポンス

そもそも、デマンド・レスポンスに相当する対応は、原子力発電が実用化された際に導入されております。原発は、燃料コストが低いため、100%出力を出し続けるのが経済的なのですが、工場が止まる夜間には電力が余ってしまうという問題があったのですね。

で、このために導入された手段の一つが揚水式発電で、高さの異なる二つのダムを用意して、電力の余った時には下のダム湖から上のダム湖に水をくみ上げ、電力の足りないときには上のダム湖の水を下のダム湖に落として発電する手法です。この技術は、電力貯蔵そのものです。

もう一つの対応は夜間電力を利用した温水器の普及にこれ努めました。この装置は、電力需要の少ない夜間にお湯を作り、保温した温水タンクにこれをためておく。家庭側のメリットは、夜間電力が安いということで、互いに利益の出る関係ができるというわけです。こちらは、粒度が粗いけれど、電気の余っているときに電気を使うという、デマンド・サイド・レスポンスそのものです。

今日いわれておりますデマンド・サイド・レスポンスは、こうしたやり方をさらに進めて、電力需給に係る情報を需要側にリアルタイムで伝達し、需要側ではこれに応じて、電力利用機器の運転を調整するというもの。電気代が安くなるなどのインセンティブを伴うため、需要側にも利益のあるやり方なのですね。

具体的には、EVの充電時に、電力需給がタイトになったら充電を減らすなり中断する。十分な充電時間が予定されているなら、その間で充電量を変動させてもよいわけですね。あるいは、エアコンや冷蔵庫なども、電力需給がタイトな時には、少々設定を弱める。そうなることが予想される場合は、予め強く冷やしておくなどの対応も、技術的にはできそうです。いずれにせよ、これらの機器がネットにつながるから可能になるやり方で、IoTの応用の一つともいえるでしょう。

なぜか、原発のための電力需給調整には熱心な電力会社も、再生可能エネルギーのためにもなるとなりますと、かなり冷淡になってしまう。不思議ですね。そしてこの技術は、核融合が実用化された際にも必要となりますので、今日大いに開発を進めておくべき技術なのですね。

もう一つの視点として、自然エネルギーの発電量が変動するため、これを均す必要があることは確かなのですが、そもそも電力需要からして一定ではない。火力発電や水力発電は、出力調整が容易という特徴があったのですが、原子力発電や核融合となりますと、これらの発電量は最大出力として、別の手段でエネルギー需給を調整することも考えたほうが良くなる。炭酸ガス排出削減を目指す以上、火力発電所は減少してしまいますから、何らかの形でデマンド・レスポンスが必要となると考えなくてはいけません。

デマンド・レスポンスには、リチウム電池や水電解と水素燃料電池の組み合わせのような、化学エネルギーとして貯蔵するやり方、揚水式発電所のような位置エネルギーとして貯蔵するやり方、電気温水器のような熱エネルギーとして貯蔵するやり方など種々あるでしょう。また、電力を多く使う工場を、電力需要の少ない時間帯で集中的に稼働するというやり方もあります。

現在は、作業員の働く時間に合わせて日中に工場が稼働しているのですが、いずれは工場の自動化やロボット技術が進むと、生産は夜間に行い、作業員が出勤する日中には、メンテナンスや段取り替えなどを行うようになるかもしれません。そうすることで電気代が安くなるなら、自動化の後押しをすることにもなるでしょう。

これらの技術は、電力の需要側で需給状況に応じて消費電力を変えるデマンド・サイド・レスポンスに属する技術もありますが、電気温水器やEV充電のような、電気エネルギー他の形で蓄える一般のデマンド・レスポンスに属する技術でもあることもあり、この双方の技術はひとくくりに論じるのが妥当であるように思います。

また、電力需給の調整をより広域で行うことで、変動を少なくすることもできる。極端な話、地球全体で変動を吸収すれば、昼夜による電力需給の変動はカバーできるでしょうし、南半球と北半球を含めれば、季節による変動もカバーされてしまうかもしれません。

ユーラシア大陸を横断する送電網、北米横断送電網を設け、ベーリング海峡とスエズ、パナマの両運河を横断する電力ケーブルを敷設し、南北アメリカ大陸を縦断する送電網と、ユーラシアアフリカ縦断送電網を設ければ、オーストラリアを除く四大陸の電力需給を相互に融通することが可能となります。いずれはそんな時代が来るのではないでしょうか。少なくともそのような時代には、昼夜の需給変動は均されることになります。

プロダクトポートフォリオ

プロダクト・ポートフォリオ・マネージメントという考え方は、事業展開に際して、関連する様々な製品を組み合わせて経営資源配分を最適化する手法ですが、エネルギー供給に際しても同様な考え方は成り立つでしょう。まあ、それほど大げさなものでもないのですが。

まずは、原発なり核融合発電と太陽光発電との組み合わせは、相互に補完関係にあり、日中に増加する電力需要に太陽光発電をあてればよい。原発を推進する人たちが太陽光発電に冷淡な理由がよくわからないのですね。

太陽光発電は直流を発生し、インバータで交流に変換して電力網に接続します。風力発電も、最近のシステムは、風車で直流発電機を回してインバータで交流に変換しているのですね。このような直流-交流変換システムは、電力需給調整のためのバッテリーに蓄積した電力を系統に戻す際にも必要になるため、太陽光発電機や風力発電機に二次電池などの電力貯蔵手段を設ければ、専用の電力貯蔵に比べてインバータ部分が節約された形の電力貯蔵設備と兼用することができるのですね。

インバータのよいところは、電力需給の変動に瞬時に対応できること。その対応力は火力発電所を上回っております。すなわち、二次電池とインバータを組み合わせた電力貯蔵システムが系内に多くあれば、これらを情報回線で結んで電力需給の変動に瞬時に対応するシステムを構成することもできます。

こういったシステムのどこまでを電力会社が負担すべきかは難しいところですが、電池とインバータは電力配送電企業が準備して、自然エネルギーは直流で受け入れることで、送電網にとっても安全なシステムを最も効率的に導入できるのではないかと思います。

水素の利用がどのように展開するかに関しては、いまひとつ不透明な部分もありますが、現在のメインシナリオでは、水素の利用も進むであろうと考えて差し支えないでしょう。水素ステーションで使われる水素は、現時点では、炭化水素などの化石燃料から作ることになるのでしょうが、これでは炭酸ガスが出てしまいまい、その処理が別途必要になります。いずれ、核融合が実現した時代になりますと、水の電気分解で炭酸ガスフリーの水素を得るプロセスが中心になるはずです。

水の電気分解プロセスは、電力需給の調整にも役立ちます。つまり、電力の余っている時間帯に水の電気分解を集中的に行えばよいのですね。さらに水素ステーションに燃料電池も備えて、貯蔵されている水素を電力に変換できるようにしておけば、電力不足が生じたた際に燃料電池で起こした電力を系統に戻すことができます。

病院などの重要施設には、現在は非常用発電機が設けられているのですが、このような施設に隣接して水素ステーションを設け、燃料電池とインバータを準備しておけば、非常用発電機の代用もできます。また、水電解で副生する酸素は、病院でも使えるでしょう。

そして、大事な点は、これらは非常時の発電設備であると同時に、電力需給の調整用でもあるということ。非常時に備えるためには、二次電池を多少余分に設ける必要があるでしょうが、電力需給調整システムと非常用発電機を個別に設けるよりも、相当にコストが低下するのではないでしょうか。なお、水素が不要の場合は、リチウム電池とインバータでも同様のことができます。

このような様々なサービスを電力供給事業と組合せて行うことで、配送電ビジネスも事業が厚くなり、利益も確保されると思われるのですが、それを、自然エネルギー利用は原発を阻害するなどといった近視眼的な判断で否定的な対応をしてしまいますと、自らのビジネスを狭い領域に閉じ込めてしまい、将来の展開可能性を消し去ってしまいます。

ここは、もう少し広い視野からビジネスの全体像を眺めてみることも大事なことであるように感じた次第です。

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