澤田哲生氏の5/27付けアゴラ記事「電力システム改革の罠:電力安定供給の危機」にコメントしました。以下、コメントの再録に続けて、簡単に説明を加えておきます。
電源構成図からも容易に読み取れるように、出力一定のベースロード電源だけでは、日中の電力需要増加に対応できないため、火力発電などの出力調整容易な電源を組み合わせる必要があることは大前提なのですね。
ベースロード電源は、原発なり、近未来以降は核融合に頼るとして、この先炭酸ガスの排出量を抑えるとなりますと、日中の出力増を何に頼るかが問題となります。
日中の発電量増加が期待できる太陽光やエネファームは、この目的にはむしろ好都合なのではないでしょうか。
電力需給の変動は、自然エネルギーの不安定性だけでなく、需要変動にも依存しますから、いずれにしても、ベースロード電源に加えた需給調整手段が必要で、このための蓄電技術を準備するなら、自然エネルギーの変動にも対応できるはずだと思うのですが、違うのかな?
問題のありか
まず、上でも言及された「電源構成図」へのリンク(下図)を津田氏の記事中の図に張っておきます。
この図を見て頂けばわかりますように、電力需要は9時ごろから22時ごろが多く、その中でも12時から18時あたりに最大値となっております。工場や事務所の業務時間帯や家庭で電力を使いそうな時間帯を考えれば、このような曲線が現れることは不思議ではないのですね。
ここで、ベースロード電源といいますのは、原子力発電や近い将来に期待される核融合発電のように、設備費用は安くはないのですが、燃料代が極めて廉価であるため、最大出力で連続運転することが経済的に最も有利な発電手段で、上の図でも一定出力での運転を前提としております。
一方、火力発電は、燃料コストは高いのですが、出力調整が容易であるため、需要の増大する時間帯に出力を増大させて、需要の変動に対応することが可能となります。しかしながら、火力発電は地下資源を消費して炭酸ガスを放出するため、その比重を下げる必要がありますし、いずれは地下資源が枯渇するという問題もあります。
そうなりますと、この電力需要変動分を何によって補うか、という点が問題になるのですね。
一般的な対応策
実は、原子力発電の比重が増大した時期にも同じ問題があり、その対応策として、揚水発電と夜間電力を利用した電気温水器の普及が図られております。
揚水発電は、近接する二つのダムの水位の違いを利用して、電力の余っている時間帯に低いダム湖から高いダム湖へと水をくみ上げておき、電力が不足する時間帯にこの水を使って発電するという方式です。電気温水器は、安価な夜間電力でお湯を沸かして保温タンクに蓄えておき、これを日中に使うという方式なのですね。
かつて、深夜電力がどの程度安く設定されていたかというと、タイナビSwitchの「電力自由化」ページ(下図)から読み取りますと、2000年の東京電力で、25円/kWhの通常料金が、夜間電力になりますと6円/kWh強と1/4~1/3程度の料金にディスカウントされます。ここまで下がっておりますと、深夜電力で沸かしたお湯が多少冷えても元が取れるということになります。電気でお湯を沸かすのはあまり効率的ではないということもあるのですが、多少の非効率さは電気代の差額でカバーされてしまいます。
電力需要の変動を、火力発電所の出力増減以外の手段で調整する手法として、電気温水器のように、電力需要の少ない時間帯に電力を使うというやり方と、揚水発電のように、電力需要の少ない時間帯に電力エネルギーを他の形で蓄えておき、電力需要がひっ迫する時間帯に、このエネルギーを電力に戻すという、大きく分けてこの二つのやり方があります。
電気温水器も、電力需要の少ない時間帯に電力エネルギーを温水の熱エネルギーに変換して蓄えているのですが、この場合は、温水をそのまま利用する形で、エネルギー需要のタイムシフトをおこなっているわけです。
いくつかの新しい解
今日効率的と思われるいくつかの電力需給調整手段につきましては、以前のこのブログ「デマンド・レスポンス」でも書いたのですが、これにいくつかを加えて箇条書きにいたしますと、次のようになります。
- 揚水発電
- 余剰電力を利用した温水・冷水の製造と貯蔵
- EVの夜間充電
- 水の電気分解による水素製造(燃料電池と組み合わせれば電力貯蔵)
- 電気分解水素からの炭化水素(e-fuel)やアルコール類、メタンの合成
- 二次電池による電力貯蔵(自然エネルギー施設のインバータ兼用も)
- 二次電池による非常用電源の電力需給調整への利用
- 自動化された工場の夜間稼働
- 全地球規模での送配電網
その他、上で述べましたように、元々電力需要の高まるときに発電量も増大する太陽光発電は、電力需給改善にプラスの効果がありますし、都市ガスを原料として燃料電池で発電して排熱でお湯を沸かすエネファームは、日中の需要増大時間帯に集中的に発電をおこなえば、需要のピーク時に集中した電力供給という、価値の高い電源設備とみなすこともできるでしょう。都市ガスの主成分であるメタンは、炭酸ガスと水素から合成することもでき、カーボンオフセットをゼロとすることも可能です。
こうした全体的なニーズとシーズを俯瞰してやるべきことを考えていきませんと、単に商売敵である自然エネルギーを目の敵にしているだけの主張のように受け止められてしまうかもしれません。このあたりは気を付けなくてはいけないところです。
コメントがついております。
En May
無理ですね。バッテリーのイニシャルコストと、損失,蓄電量、バッテリーの寿命などを総合的に計算するととても採算が取れないのです。
簡単に言うと、莫大な投資をしても効果がそれに見合わないということです。
それと、バッテリーは量産しても安くならないのです。
燃料電池は、バッテリーではありません。
発電機です。だから、効率が高く、総合的に安い電気を供給できるのです。
しかも完全分散電源ですから、災害にも強く、自由な対応ができるのです。大地震が来ても、病院だけは電気を止めないという運転ができるのです。
これこそ燃料電池の強みです。瀬尾 雄三
En May さん
原発比率の高かった2000年ごろの電気代は、kWhあたりで一般が25円前後であったのに対し、夜間電力は7円程度と3倍以上の差がありました。この差が充放電設備のコストに許容されます。(逆に、ベースロード電力にはローコストが要求されます。)リチウム電池は、素材が高価で高コストですが、EVで使って能力の低下した電池を利用するやり方や、リチウム以外の物質の酸化還元により電力を蓄積するレドックスフロー型など、蓄電単価を下げる可能性も多々あります。
燃料電池も、水電解の水素を使うなら、一種のレドックスフロー型となります。メタンを使う場合は、炭酸ガスを出しますので、大きな目で見ると火力発電と同じ扱いになってしまいます。
安価な蓄電技術の開発は、炭酸ガス排出抑制に必須だし、原発や核融合といったベースロード電源の経済性を確保するためにも必須なのですね。
En May
こちらにレスをつけますね。
燃料電池は、燃料は水素だけではないのです。もちろん水素も使えます。
水素は、太陽光発電でできた電気を使って水素を作りそれを都市ガス配管に接続するだけです。水素を常圧で蓄えておけるのです。もちろん同時に使うこともできますね。
もう一つは、天然ガスがそのまま使えます。簡単な改質器を内蔵しているので、天然ガスを水素と一酸化炭素にして燃料にします。
そのほかに、LPG,石炭ガスも同じように使えます。
天然ガスを使えば、炭酸ガスは出ますが、今でも火力発電所では天然ガスを燃やしているし、家庭では、LPGを使っていますから同じことです。念慮いう電池の特徴は、発電効率が高いことです。季節の火力発電所では、最高効率が。47%程度しか出ませんが、家庭で、燃料電池を使って、排熱を利用すると、効率が94%になるので、炭酸ガス排出量が半分になり燃料消費量が半分になるのです。メリットだらけです。
それを家庭に設置することで実現できるのです。En May
訂正です。
念慮いう電池→燃料電池
季節の火力発電所→既設の火力発電所瀬尾 雄三
余剰電力を利用して水を電気分解して水素を作り、電力不足の時に燃料電池で電力に戻すというやり方は、レドックスフロー型の二次電池と同じで、要は電力を化学エネルギーに変換して貯蔵し、化学エネルギーから電力に再び戻していることにほかなりません。メタンを使う燃料電池は炭酸ガスが出るのですが、炭酸ガスと水素ガスから合成したメタンであれば、カーボン負荷はゼロになるのですね。これはメタネーションと呼ばれ、メタンを都市ガス供給網に流せることから注目されている技術です。
その都市ガスを用いてエネファームのような燃料電池で電力と温水を作るのもアリだと思います。この発電は電力消費の多い日中に行うことで、電力需給のアンバランスを均すことができます。
太陽光発電やエネファームは、本来原発や未来の核融合を助ける技術であり、炭酸ガス排出を削減するという時代的背景もあり、もっと推進されてしかるべき技術だと思います。
s