長谷川良氏の5/3付けアゴラ記事「量子力学の世界は無神論的?:スラヴォイ・ジジェク氏の主張」へのコメントです。
ジジェク氏は「神は虚構だ。しかし、それは私たちの現実を構成する虚構だ。神を消し去れば、残るのは私たちの現実ではない。恐ろしい深淵だ」と述べている。
これは、量子力学の本質を忘れた物言いだと思います。量子力学のもっとも根本的な原則は、『観測者と無関係に何物も存在しえない』ということで、全ての事実は観測者の精神内の現れに基づく、ということなのですね。まあ、これははるか昔にカントが唱えた説と同じなのですが。
この物理的事実はすでに常識ともいえるものなのですが、多くの人は『神』を人とは無縁に存在するもの、人類の誕生以前から物理的に存在していたと信じております。そういう意味での神は存在しない。しかし、そういう意味では、人間の心や自由意思も存在しない。ただあるものは物理法則にしたがう素粒子の相互作用のみです。それが物理学の『恐ろしい深淵』でもあります。
しかし人にとっての世界は、物理法則の世界ではない。そんなことは、ちょっとコミック本を開いてみればすぐにわかることです。そこに存在するものは、物理的には、紙に付着したインクにすぎない。しかし人はコミック本をインクの染みなどとは思わない。そこに豊かな物語を見出しているのですね。
人の心や命も同じ話で、我々にとってコミック本は内容が大事であるのと同じに、物理的実体の上に現れた意味内容としての心や命が大事なのですね。この話の先に『神』もあるわけですが、神に係る物語はなかなかに難解で、人によって解釈が異なる点が大問題です。まあだけど、人にとって大事なことは己の精神内部に現れた世界ですから、他人がどう考えようと、あまり気にする必要もない。違いますかねえ。
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