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B. グリーン著「宇宙を織りなすもの(下)」を読む

前回のこのブログ2回にわたって宇宙を織りなすもの(上)」を読みましたが、本日はその続きといたしまして「宇宙を織りなすもの(下)」を読むことといたします。

下巻で扱われております内容は以下のとおりです。

第3部:時空と宇宙論(承前)

第4部:統一とひも理論

第5部:空間と時間への新たな挑戦

まず、第3部なのですが、ここでの話題の中心は、ビッグバンの直後に起こりました急激な変化、最近話題の「インフレーション理論」です。

「インフレーション理論」は最近よく聞く言葉でして、「インフレーション」が経済的な意味で良く知られているだけに、なんとなく理解したつもりになってしまうのですが、ビッグバンの直後に起こりましたことは経済の世界でときどき発生いたしますインフレーションとは全然別の話です。

そこで、ここでは、インフレーション理論について簡単にご紹介しておきましょう。

まず、インフレーション理論の前提となりますのが「ヒッグス場」です。これは、素粒子が質量を獲得するメカニズムを説明する「場」であり、いまだ実証された存在ではないのですが、WボソンとZボソンの質量比を良く説明するため、物理学者の支持を集めている学説です。

ヒッグス場は1015度で凝縮し、物体に質量を与えるようになります。これは、ビッグバンから10-11秒後のことであると考えられています。これに伴い、さまざまな力が異なったものとして現れるようになります。

ところで、ヒッグス場はこの温度になったからすぐに凝縮するというわけではなく、過冷却状態になる、というのですね。そして過冷却状態のヒッグス場(インフラトン場)は、万有引力の反対の力、すなわち斥力を生み出すとのこと。

この斥力の故、当初は小さく(直径10-28cm)て軽かった(10 kg程度)この宇宙は、ごく短時間(10-35秒)の間に途方もなく(1030~10100倍に)膨張した、というわけです。

まあ、なんとも途方のない話ではありますが、宇宙のかなたからやってまいりますマイクロ波(背景輻射)の分布がこの理論から計算されるパターンと良く一致していることなどから、この理論はどうやら正しいらしい、と現在では考えられております。

第4部、「統一とひも理論」は、一般相対性理論と量子論の統一を目指す動きが紹介されます。

量子力学は、この世のあらゆる物質をクオークなどとその相互作用で説明する「標準模型」を作り出すに至っておりますが、重力だけはうまく説明できておりません。

ひも理論は、この模型に含まれるすべての粒子を微細な紐の振動パターンとして説明するもので、この中には重力子も含めることができます。さらにはこれに膜を追加したM理論へと話は進んでまいります。

ひも理論につきましては、以前のブログで批判的にご紹介いたしましたが、本書を読む限りでは、それなりに筋の通った考え方であるようです。ただし、非常に難しい説であり、ここでのご紹介は省略いたします。ご興味のある方は同書下巻をお読みください。

さて、最後の第5部「空間と時間への新たな挑戦」は、なんとテレポーションとタイムマシンが扱われております。著者によりますと、いずれも物理法則的には不可能ではない、ということで、ただそれを実現することは技術的に非常に困難であるだけである、ということなのですね。

これは早速ハルヒに知らせなければ、、、って、おいおい。

まず、テレポーションですが、これには「エンタングル」している二つの光子(A, B)を利用いたします。エンタングルというのは、二つの光子が同じ量子状態であることが保障されているという意味で、二つの光子がある種の反応で同時に得られる場合に、これら二つの光子は同じ量子状態になることが知られています。

この二つの光子を遠隔地にそれぞれ導き、送信側で送信すべき光子(C)とエンタングルした光子の一方(A)とを合わせた量子状態を測定してこれを受信側に通知すると、受信側で光子Bを用いて光子Cと同じ量子状態にある光子(D)を得ることができる、というものです。

エンタングルした光子を双方の地点に送らなければいけませんし、送信側から受信側へと通常の通信を用いて状態を通知しなければいけませんので、そうそうふしぎなことが起こっているわけでもありません。ただ、量子状態まで同じにするという点に新味がある技術であるということになります。

もちろん、光子一つ送ることなら現在の技術水準でも可能なのですが、これで人間や自動車のような複雑なものを送るなどということは、技術的にはとうていできることではありません。

次にタイムマシンですが、一般相対性理論が示すようにこの時空が曲がるものであるなら、離れた二点をくっつけてしまえば、時空を超えた任意の場所に瞬時にいける、ということになります。同書では、ビッグバンの名残として存在が想定されております「宇宙のひも」と呼ばれるフィラメント状のエネルギーを用いたタイムマシン(ワームホール)の利用を提案しております。

そして、いわゆるタイムマシンパラドックスは存在しない、としております。つまり、時空が固定されたものである以上過去に起きたことは変えようもなく、単一の世界を仮定するなら、何らかの理由で過去の改変が阻害されるはずだし、多数の世界が仮定されるなら、ありえるすべての可能性に世界が分岐するだけである、といたします。

ふうむ、これ、ホームページにおきました「涼宮ハルヒの驚愕を推理する」で、ハルヒの出しました設問に対してキョンが答えたこととほぼ同じですね。ちなみに、それは以下の部分です。

次の問題。「タイムマシンで過去に時間旅行して自分の親を殺したらどうなるか、というタイムマシンパラドックスに、適切な解を与えなさい」ですか。まあ、タイムマシンはあるわけだから、その存在に何のパラドックスもあるわけがない。ブレーン・ディストロイド・デバイス、だったかな?

で、親を殺す、とね。単に歴史が変わるだけじゃないのかね。そんな話は、これまでさんざんしてきたから俺は驚きはしないが。まあ、正解は、俺みたいな奴がいて、話の筋を通るようにする、ということなんだろうが、これは、ハルヒには教えるわけにもいかない。ここは、古泉流に、世界が二つに分かれた、などといってお茶を濁すのが正解かな?

ハルヒ:正解。キョン、あんたやるじゃない。でも、試験会場でブツブツと正解を呟くのは、入団試験業務妨害以外の何ものでもないわ。ちょっと静かにしていなさい

と、いうわけで、物理学をご専門とされる方が書かれました同書にこのような記述がなされていることは大変にびっくりする話ではあります。まったく、上の引用部のちょっとあとに書きました以下の記述が、ひょっとすると正しいのかもしれません。

ハルヒ:それが全然駄目。タイムマシンは、パラドックス以前に、アインシュタインの原理によって否定されている、とかね。SOS団の活動目的の一つに、未来人を見つけて遊ぶこと、ってのが入っていることぐらい、知らないのかしら
俺はハルヒの判断には激しく同意するが、その回答を書いた奴にも同情を禁じえない。常識があれば、そんな書き方をするしかないからなあ。しかし、この世界は常識どおりにできているわけではない。

お時間もよろしいようで、、、