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日本の技術開発戦略、狙いは?

昨日の本ブログに、「経済面では......独自の技術を磨いて先端産業でのリードを切り札にするしかない」として、「少々の無駄は覚悟のうえで、下手な鉄砲を数撃って当てる戦略に出るしかない」などと書いたのですが、下手な鉄砲も狙わなくては、当たるものも当たりません。そこで本日は、日本が狙うべき先端技術は何かについて、ちょっと議論してみたいと思います。


何を、どう狙うべきか

まず、全体の考え方を簡単にまとめておきましょう。

  • 最初は広く、最後は狭く狙うこと:「選択と集中」という言葉がもてはやされておりますが、研究開発では、最初はあまり絞らず、幅広いテーマについて掘り下げる必要があります。そして、これらの優劣がわかったところで、どこに集中するかを見極めなくてはいけない。そのタイミングを誤ってはいけません。ずるずる多テーマに資源をつぎ込み、本命技術の実用化に遅れてもいけないのですが、実用化に向けた巨額の投資を誤った方向に行うことも致命的なのですね。また、複数の解を並行して検討することで、研究チーム間に競争が生まれ、緊張感を持った研究開発が可能となります。
  • 狙いは「注目テーマ」と「得意技」:近年進歩が著しい分野は落とすわけにはいかない。この分野でトップを走ることは一つの重要な目標です。今日でいえばAI、ロボット、核融合、量子技術といったところでしょうか。しかし同時に、自らが得意とする領域でリードを保ち、競合国を突き放すこと重要です。
  • テーマ間の連関による効率的開発:それぞれの技術は、互いに他の技術と深いつながりを持ち、一方の進歩が他方の進歩につながるケースも多々あります。GaNなどの半導体素材は優れた半導体デバイスを可能とし、インバーターなどのパワーエレクトロニクスの進歩も可能にし、さらにはEVの性能向上にもつながります。このような技術は、セットで開発に取り組むことで、相乗効果が生まれます。
  • これに似た関係が民間と軍事の双方に利用可能な「デュアルユース」と呼ばれる技術があり、研究に際しては「平和目的のみ」などの縛りを外すことも必要になるでしょう。こうすることで、防衛予算を技術開発に流用することも可能となり、研究開発も効率的に進めることができます。

核融合とその広がり

一つの大きなテーマに核融合関連技術があります。核融合は、原発に匹敵する巨大エネルギーを比較的安価に作り出す技術と期待され、原発に比べて暴走事故の危険がほとんどなく、放射性廃棄物が少なく、燃料は海水中から無尽蔵に得られると期待されております。ただしこの実現が難しいことから、現在各国が大きな資源を投じて研究開発に取り組んでいるのですね。

閉じ込め方式

核融合炉の方式には、磁場中に高温のプラズマを閉じ込める「磁場閉じ込め方式」と、燃料の周囲から強力なレーザ光を照射して、爆発的な蒸発により高温後発を発生させる「慣性閉じ込め方式」の二つがあります。現在は磁場方式が有望なのですが、慣性方式の可能性も残っており、入り口を広くの原則から、双方に取り組む必要がありそうです。

核融合反応

核融合反応として、ITERその他が計画しているのは、重水素Dと三重水素Tを反応させるDT反応なのですが、電荷をもたない中性子が生成し、これが炉壁を傷めるという問題があります。Tの代わりにヘリウム3を用いるD3He反応は、反応温度が多少高いのですが、生成するのは電荷をもつ陽子pで、プラズマ中に保持され、炉壁を傷めず、プラズマの温度も保たれるという特徴があります。

プラズマに蓄えられたエネルギーは、磁場の不均一により生じる「シンクロトロン放射」でマイクロ波として外部に放出されます。アンテナと整流器を組み合わせた「レクテナ」を使うと、マイクロ波を直接直流電力の形で取り出すことができ、ボイラーや発電機が不要になるという利点もあるのですね。(炉壁や排ガスの熱を利用するための小規模な発電機は必要ですが。)

ヘリウム3は、地上にはなく、月面にあることが知られているのですが、三重水素Tを保持しておきますと年に6%ほどベータ崩壊してヘリウム3に変化しますので、これを利用して生産することができます。ヘリウム3は、量子コンピュータに必要な1K以下の極低温を作るためにも必要です。その原料となるTは、リチウムに高速中性子を照射することで作ることができるのですが、我が国の大洗にあります常陽は、世界でも数少ない高速中性子照射施設であり、これを利用する形でヘリウム3の生産を行うこともできそうです。

このほか、軽水素(陽子:プロトン)pとホウ素11のp11B反応を利用する方式もあり、こちらは、反応温度がさらに高くなるのですが、原料が容易に手に入るという特徴があります。また、原料も生成物も放射能を持たず、生成粒子も電荷を有して炉壁を傷つけません。

この方式に取り組んでいるのは米国のTAEテクノロジー社で、ビーム衝突方式という、ちょっと変わった炉を利用しております。これをそのまま我が国がトレースするのは荷が重いのですが、資本参加するなどの形でリスクヘッジする、磁場閉じ込め方式でp11B反応に取り組むなどの形で多少の検討は行うのが良いのではないかと思います。D3He反応で生じる高エネルギーの陽子pをこの反応に利用するという手もあるかもしれません。この辺りはいろいろと検討するのが良いように思います。

周辺技術

磁場閉じ込め方式は、我が国に長い検討の歴史があり、ノウハウも蓄積されていることから、我が国が重点的に取り組むべき方式と思われます。磁場閉じ込めのための磁場の発生には超電導コイルが用いられるのですが、我が国では高温超電導技術の研究が盛んで、これを用いることで炉の小型化、高温化が可能となります。

また、プラズマ加熱のためには、大出力のマイクロ波発生デバイスであります「ジャイロトロン」が使われるのですが、我が国はこの開発で世界最先端を走っており、現在その製造が可能な国は、他にロシアだけです。大出力のマイクロ波ビームは、ドローンやミサイルを打ち落とす「電波兵器」としての利用も考えられており、本技術は軍事技術とのデュアルユースとすることも検討すべきでしょう。

AIとロボット

AI技術は、今日最もホットな技術領域であり、これを無視するわけにはいかないでしょう。その構成要素として、ツール(ソフトウエア)、デバイス、データベース、利用環境などがあります。ツール、デバイス、データベースは、いずれも米国企業が先行しており、参入はかなり難しそうです。ただ、我が国には半導体製造の歴史があり、AIデバイスはCPUに比べれば難易度は低いと考えられており、参入の可能性はありそうです。また、高度な情報処理分野の一つにゲームがあり、ソニーや任天堂といった日本企業がこの分野で強いことから、ゲームマシンとこのための高速処理デバイスという切り口でAIチップを開発する可能性はあるのではないかと思います。その他、アニメへの3D技術の応用や、ボーカロイドの技術も利用できそうです。

ロボットに関しては、我が国は元々ロボット技術に強く、この分野で先行する可能性は十分にあります。周囲環境を読み取るAI制御のロボットに必要なセンサー技術の面でも、我が国の技術はかなり高いレベルにあります。また、ニーズ面でも、少子高齢化による労働力不足の問題、介護要員の不足などもあり、技術面でのリードがあれば、世界に先行することは不可能ではないように思われます。この場合の注意すべき点は、人と同じ空間で作業するため、人を傷つけない「協働ロボット」とする必要があることです。

AI技術は、蓄積した膨大な情報をベースに動作しており、ビッグデータを処理するデータセンターが必要になります。このようなデータセンターは、ウエブサービスを広範に行っている企業なら自動的に構築することができるのですが、我が国はこの分野で弱いという問題があります。ここは、特許庁や科学技術情報センターなどの政府機関が巨大なデータセンターを立ち上げ、文献検索サービスなどの傍らでAI用のデータ供給に乗り出すことを考えるのが良いのではないでしょうか。まず最初は、研究開発のために、これらのデータを使うことから始める必要がありそうですが。

その他、人型ロボットも軍事技術とのデュアルユースであり、この分野でも、民間利用と軍事利用をいかに両立させるかを検討する必要があるでしょう。

エネルギーの輸送と貯蔵

核融合技術の実用化は、2030年代に原型炉が動き出すとされておりますので、2050年ごろには核融合中心のエネルギー供給になるのではないかと思われます。核融合発電は、燃料コストが非常に低いのに対して設備コストが高いため、フルキャパシティでの連続運転が基本となります。電力需要は日中に多く、夜間に低下しますので、余剰電力をどうするかが問題となります。

現在行われている余剰電力の利用方法として、メガソーラーなどでは、リチウム電池などの二次電池に充電し、電力が不足する時間帯にこれを電力網に供給しております。また、原発比率の高い時代には、夜間の余剰電力が問題となり、水力発電所のダムを二段に設けて、余剰電力が生じた際には、下のダム湖の水を上のダム湖に汲み上げる「揚水発電」設備が作られたほか、夜間電力で沸かしたお湯を保温槽に保持して昼間にこれを使う「電気温水器」なども使用されておりました。

より大量広範な電力貯蔵として、余剰電力で水を電気分解して水素を製造し、これを様々なエネルギー源として使う方法が考えられます。水素の利用の一つは、燃料電池で電力に戻すことで、効率が高いという特徴がある一方で、液化温度が非常に低い水素は大量の貯蔵が難しいという問題があります。水素を炭酸ガスと反応させて、メタンやエタノールとすれば、これらはLNGや普通の液体燃料として保存し易いという利点があります。メタンは都市ガスになりますし火力発電の燃料にもなります。エタノールは自動車燃料や合成化学原料として使いやすいという特徴があります。

メタンやエタノールの製造には炭酸ガスが必要になるのですが、この炭酸ガスをどのようにして得るかがもう一つの課題となります。これには、燃焼排ガス中の炭酸ガスを吸収材で集めるのが最も簡単で、発電所やごみ焼却場の排ガスがこれに利用できるでしょう。もう一つは、海水中の炭酸ガスを回収する方法で、大量の海水をくみ上げる必要があるため、発電所などの冷却水を処理して回収するのが最も簡便と思われます。これらの多くは都市部で発生するため、水電解プラントも都市部に設け、炭酸ガスの発生場所で電力貯蔵を行うのが合理的と思われます。

現在の日本の配送電は、以前の電力会社から分離された10社が行っておりますが、配送電技術自体新しい技術テーマとなり、巨額の投資も必要になることから、大域的な配送電を新技術で行う主体を別途想定するのが良いのではないかと思います。これは、電力の貯蔵、核融合発電などと一体で運営するのが良いかもしれません。

大域的配送電は、日本全国を通した送電ラインを管理し、全国の電力需給バランスを保つことで、無駄に捨てられる自然エネルギーを有効に使い、電力貯蔵で需給バランスを調整します。配送電に使う技術として、可能であれば、高温超電導技術を用いた直流送電により送電ロスを低下することが好ましい。これは、いきなり全国規模というわけではなく、まずは、首都圏とその隣接エリア、あるいは原発なり核融合発電所なりを接続する小規模なサービスから始めることになるでしょう。

その他

素材技術

我が国の得意な技術領域の一つが素材技術で、これは、上に上げた他のテーマとも関連します。つまり、超電導素材、磁性材料、光学材料、電子素材、軽量高強度素材などですね。これらに関しては、製造加工設備、評価技術、設計技術などが必要で、共通して使えるものも多い。

素材技術は、集中して研究することで効率的になる面も多く、これらを推進する研究センター的なものを作ることで効率化されるのではないかと思われます。

移動体技術

我が国は伝統的に、自動車、バイク、船舶、鉄道などの移動体の技術に強いという特徴があります。航空機は戦後長い空白期があったのですが、技術的には他の移動体と共通する部分も多く、それ以外の要素技術も研究開発を進める過程でマスターすることが可能と思われます。こちらも軍事技術との関連性が強い分野となります。

まとめ

我が国がエネルギー資源に乏しいことは、日本のディスアドバンテージなのですが、エネルギー資源は枯渇の方向に向かっております。そして、エネルギー資源が枯渇したのちの時代のエネルギー調達手段に関しても、方向性は見えている。具体的には、核融合技術なのですね。このほかに、すでにためてしまった放射性廃棄物を短時間で無害化するための高速炉という技術もあり、これで生成したプルトニウムを燃やす原子炉も必要になります。高速炉はまた、核融合燃料の元となるトリチウム生成手段としても利用できるという特徴があるのですね。

このようなエネルギーが安価に獲得できれば、今日の多くの産業は、そのまま国際競争力を保った形で継続可能となります。我が国のもう一つの問題である、少子高齢化に関しては、フィジカルAIの技術でカバーすることも可能と思われます。

上では触れませんでしたが、少子高齢化の一つの原因は、首都圏への一極集中と住宅環境の劣悪さにあるのですが、これを解決する一つの手段に高速鉄道があるのですね。現在のリニアは時速500kmという高速ですが、これを半分の250km程度とし、通勤時間を1/3程度に短縮することができれば、首都中心部への通勤可能なエリアが10倍近くに拡大し、豊かな住環境を多くの人が享受できるようになります。これも移動体技術の恩恵ではないでしょうか。

日本のアドバンテージに、高度な教育を受けた人材があるのですが、現在これが十分に利用されているとはいいがたい。様々な問題を解決するための条件は優れた人材であり、上で述べた様々な技術を可能とするためには、優れた人材の確保が必要になります。これを可能とする、教育制度や人事制度に関しても、この先見直していく必要があるでしょう。

これらの改善は、一朝一夕にできるものではないのですが、少しずつでも前進することが必要なのですね。今という時代は、これを始める、良いポイントであるように、私には思われます。

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