池田信夫氏の2/26付けアゴラ記事「高市首相の『円安課税』で大企業の株主以外の国民は貧しくなる」へのコメント(ブログ限定)です。
もう一つの経路はMBの増加で円安になるという効果で、佐藤氏はそれによって輸出が増えてGDPが増えるというが、そんなことは起こらなかった。円安で貿易赤字は増えたのだ(図3)。
この図を池田氏は何度か出され、2014年に貿易赤字が最大となった事実から「円安で貿易赤字は増えた」、「アベノミクス(量的緩和)で空洞化が進んだ」な℃の結果を導かれております。でも、【円安→国内工場の採算悪化→工場の海外移転→貿易赤字拡大】というプロセスが進むには、かなりの時間がかかるのですね。
つまり、第二次安倍政権の発足は2012年の年末で、これまでに計画された工場の海外移転は、急に止まるわけもなく、最後に海外移転を決めた工場の本格操業が2014年度になることは、不思議なことでもありません。(以下、図またはその元データの引用元URLは、図にリンクしています。)
上の図は、日本企業の現地法人数を暦年に対してプロットしたものですが、2010年と2015年の間に現地法人数は急増し、2015年以降はほとんどフラットになっていることに注目していただきたい。2009年から2012年までが民主党政権、2013年以降が安倍政権ですから、現地法人数は、民主党政権の時代に急増し、第二次安倍政権の時代には増加が止まっていると解釈すべきではないでしょうか。
もう一つの現地法人数急増時期が1995年以降にあるのですが、1995年も一時1ドル80円を割る、急激な円高が生じた年だったのですね。
もう一つ、何度かお見せした図なのですが、税収の推移を見ますと、アベノミクスの効果は一目瞭然なのですね。税収の伸びは、消費税増税の効果を含んでおりますので強調されているのですが、所得税の推移を見ていただいても、アベノミクスが始まってから急増しているのが良くお分かりいただけると思います。もちろん、大企業の社員が大いに税金を納めた、ということも確かにあったのでしょうが。

この図から読み取れる問題は、民主党政権時代の法人税の落ち込みで、著しい円高の結果、国内の法人の収支が悪化した。これが工場の海外移転の直接の原因なのですが、その結果税収が減る。民主党政権の最後になりますと、税収よりも国債による収入が多くなってしまいました。当時の野田内閣が、公約に反して消費税増税に踏み切らざるを得なかったのは、まさに、借金主体の国家経営になってしまったからなのですね。
一旦海外に出てしまった工場は、円高が解消したからといって、直ちに国内に回帰することはありません。海外の工場だって、それを作るには多大の費用が掛かっておりますし、従業員を雇用し、教育し、散々苦労して生産を立ち上げている。国内に工場が戻るとしたら、それは新規のラインが必要になるときであり、新しい技術をものにしたより高生産性のラインを作るに際して、国内にするか、海外にするか、という議論になるはずです。
もちろん、工場が海外に出たといっても、全部というわけではなく、利益率の高いライン、技術的に難しいハイエンド製品を作る工場や、ホンダ系のグローバル・スタンダード・ラインのような、新しい技術を実地に試すラインなどは、国内に残していたでしょう。それが、2015年以降の貿易収支の急激な回復に結びついていたはずです。なにぶん、これらの工場は、1ドルが80円以下から120円程度に回復いたしますと、輸出代金が1.5倍になる。急速に損益が回復したのですね。
とはいえ、それで全部が戻ったわけではない。貿易収支は、大幅なマイナスからゼロ付近に復帰しただけでした。 結局のところ、【円安→成長】ということにはなりません。技術的に難しい、利益率の高いラインを国内に構築するには、【円安+技術革新→成長】というパスをたどるしかないのですね。そしてこの技術革新は、アベノミクスの第三の矢でも狙ったのですが、不十分な結果に終わっております。サナエノミクスが取り組まなければいけない最大の課題は、まさにこの第三の矢、【成長戦略】というわけです。
もちろん、その結果得られるであろう虎の子を海外に持っていく羽目にならないためには、再び行き過ぎた円高などにはならないよう、細心の注意を払わなくてはいけません。言うまでもないことですが。


