以前のこのブログ「数という概念と加納朋子著「スペース」の困惑」にいただいたコメントに返答を付けておきましたが、ちょっとおもしろい内容を含みますので、ブログ本体に持ってくることといたします。
概念としての数と直観に訴える数
数の認識が脳内でどのようになされているかという問題は、かなり難しい問題であるように思います。
一般的な数は、言語と同様の概念として認識しており、この概念に数学的な知識が結びついているため、さまざまな演算が可能となります。これは、言語世界、論理世界での話ということになります。
概念化を伴わない数の認識は、一つ、二つ、三つまでと言われており、それ以上は「たくさん」とみなされてしまいます。
これは、数という概念をもたない、未開人の数の認識で言われていることですが、文明国の人も、物事を理解する上で三つの要素に絞ることが多く行われております。たとえば、栄養の三要素(炭水化物、タンパク質、脂肪)、三原色、三つの音からなる和音、肥料の三要素(チッソ・リン酸・カリ)、洗浄の三要素(水、洗剤、物理的な力)、音楽の三要素(リズム、メロディ、ハーモニー)、産業の三要素(ヒト、モノ、カネ)などですね。
ちょっと変わったところでは、温泉の三要素、というものもありまして、温度、湯量、成分が温泉の三要素であるといわれております。
ふうむ、川柳の三要素、ですかあ、、、ウガチ(鋭い観察)、軽み(さらりと言ってのけること)、おかしみ(じわっと来るおかしさ)だそうです。
昨今はやりの「おもてなし」にも三要素があるそうで、「ふるまい」(態度・動作・言葉遣い)、「よそおい」(身だしなみ)、「しつらい」(心地よい空間、わかりやすい表示など)だそうです。
そういえば、このブログでも以前「三つの知性と三種類の馬鹿」と題して、人の能力には三つの種類があるということをご説明しました。これも、「能力の三要素」、と言えるでしょう。そしてその欠如により、「三種類の馬鹿」などと書いてしまったのですが、これは正しくは「ディオニュソスと三つの知性」に書きましたように、能力の欠如のありようには7種類ある、しかもそのうちの1種類以外は馬鹿というよりはできる人である、と訂正しなくてはいけません。天才以外はみんな馬鹿、なんて物言いは、ちょっと厳しすぎますよねえ、、、
その他、他人に何かを説明するときは、ポイントを三つに絞って話すと、理解されやすいと言われています。これも、人が把握できるのは三つまでである、ということと関係しているのでしょう。
負の数の扱い
負の数については、以前、多値論理を調べていた時、面白い話に出合いました。三進法では正の数と負の数を統一的に扱うことができる、というのですね。
三進法は、1の桁、3の桁、9の桁、というように、それぞれの桁が3の冪(1に3を何回掛けるか)の重みをもっているのですが、各桁の数字を「+」、「-」、「0」として、「+」が書かれている桁の重みを足し、「-」が書かれている桁の重みを引くという規則で値を表すことができます。つまり、「+」は1という値を、「+0」は3を、「+-」は3引く1で2という値を表すという約束にします。
このように数値を表した場合、最上位の0でない桁がマイナスであれば負数となります。また、符号を反転することも「+」と「-」を入れ替えるだけで簡単に行なうことができます。
三進法は、二進法に比べて、同じ大きさの数値を表すために必要な桁数が少なくて済みますので、高速演算が可能になるのではと考えられ、一時は研究もされたことがあるのですが、現在ではこの可能性はあきらめられております。
また、論理演算に際して「真」「偽」の他に「不明」という状態をとり得ることから、いろいろと面白い応用も考えられ、データベースに関連していろいろと検討されたこともあります。
つまり、人工知能などに問い合わせたとき、「わかりません」という回答もあり得るわけで、これを論理演算で出力しようと思えば、「不明」という状態も扱う必要があるからです。
まあでも、この世界は今ではマイナーな話題であり、趣味の世界といってもよいようなはなしです。
負の粒子数
ところで、三値論理は数学的お遊びと考えられるかもしれませんが、量子力学の世界ではマイナスの粒子数というものがあります。つまり、反粒子の粒子の数をマイナスに数えるのですね。
反粒子の存在に関しては、もともとの空間に粒子が満たされていると考え、そこから粒子を一つ取り去った穴が反粒子である、という考え方もあります。あるべき粒子の欠如が反粒子であるなら、反粒子の数はマイナスに数えるべき、というわけです。
これに似た存在に、半導体における正孔(ホール)があります。半導体には、自由に電子が動き回るN型の半導体と、正孔が動き回るP型の半導体があります。そしてこの正孔とは何かといえば、半導体を構成する結晶の電子の欠如なのですね。だから、正孔と電子が出会えば、両方とも消えてしまいます。
小学生にもわかってもらえそうな「反リンゴ」
皿の上のリンゴにも反リンゴという考え方を導入すれば、皿の上のリンゴの数を正にも負にもすることができます。つまり、反リンゴが二つ乗っている皿の上のリンゴの数は-2といたします。そして、リンゴと反リンゴが同時に皿に乗っていたら、これらを共に取り除くこと。リンゴの欠如とリンゴが合わさって、何もない状態がそこに生まれることとすればよいのですね。
これを小学生にもわかりやすく説明するには、皿を表す白い厚手の台紙からリンゴ型のパーツを抜き出すことができるような道具を準備すればよいでしょう。抜き出したリンゴ型のパーツの裏側はリンゴの赤色に着色してある。そして抜き出された穴の底は、赤の反対色である緑色に塗られている。
こうしておきますと、なにも載っていない皿からもリンゴを取り出すことができる。そして、あとにはリンゴが取り出された穴が残る、というわけです。
これにリンゴを加える場合は、穴があるならそこにリンゴをはめ込む。この時、裏の白い側が見えるようにはめ込むのですね。そうすれば、リンゴと反リンゴは互いに打ち消し合って 1 + (-1) = 0 となることが小学生にもわかりやすい。
まあ、そうすることにどれほどの意味があるかは、ちょっとわかりかねますが、、、